第16話:最終目的⑤
――友達。
オウカには、その言葉が酷く空虚に感じられた。
そう呼ばれるモノは、孤独から逃れるための手段として使われる事が大多数だからだ。
――独りでいる恐怖から逃れるため、誰でもいいから……と、とりあえず群れる。
しかし、気が合うわけでもないので、徐々にエネルギーを奪い合う関係になっていく。
内心ストレスを蓄積していくが、独りでいる恐怖の方が大きい為、そのストレスから目を逸らして群れ続ける。
3人以上集まると、自分以外の誰かをスケープゴートにするために露骨な足の引っ張り合いが始まる。
もし、群れの中でスケープゴートが決まらなかったら、外部にスケープゴートを求める。
――そんな連中からは、距離を置くに限る。
まあ、そんな連中でなくとも 私は自然と他者と距離を置く。
独りの時間は、自分と深く向き合うため、自分を効率的に高めるために不可欠なのだから。
最初、独りでいる私に舐めた態度で接してきた後、私が強いと理解した途端に礼儀を弁えてくるヤツはいる。
だが、そういうヤツは金輪際 信用しない。
祖国・シーナ国の軍にいたときは実力を隠す必要もなかったので、そういうヤツを何度か見てきた。
(まあ、ここでは向上心がある人間が多いので、だいぶマシではある。)
だが、エレナは私が強いと知らないだろう。
強くもない私に、接してくる。
他の人間とも仲良くなれるコミュ力を持った上で、私に接してきてくれる。
空虚さも感じない。
選抜試験に落ちて泣いていた同期生を励まして、来年度の再挑戦を促したりする。
(その際、優越感に浸るような歪んだ感情なども感じない)
それに対して、良い感情を抱くと共に……複雑な感情も抱いている。
私がスパイであるという事実――それを隠している。
将校の地位を得て ”司令部” に入り、この国衛隊の機密情報を得るために、
――私は、エレナを騙している。
――そんなことを考えながら、オウカは エレナと共に蕎麦屋にいた。
「梅おろし蕎麦って、おいしいね」
エレナは、微笑みながらオウカに話しかける。
エレナは、たまにオウカと一緒に蕎麦屋に行くのだ。
(エレナの故郷では、蕎麦の生産が盛んとの事)
店主でありオウカの上官でもあるメイフェイは、
”友達として交流するのは、周りの信用を得るため、情報収集のために必要”
”彼女は忍者族ではないから、スパイとバレる心配はない。警戒コスト使わずに済む”
……という理由で、肯定的だ。
エレナは忍者族ではない、というのは どうやって調べたのだろう?
……と思ったが、スパイ対策がガバガバなこの国だ。
国家機関に潜り込んだ同胞たちが、容易に調べてしまうのだろう。
そして、メイフェイからは
「友達といるのは ”手段” であり、目的は ”日ノ国侵略” だ」
……と、何度も念を押されている。
――蕎麦屋を後にし、さっき通った道を戻る2人。
さっきは無かった、道路工事の看板が。
仕方なく、いつもと違う帰り道を選ぶ。
寂れた裏通りを歩いていく。
……ふと、異様な光景が視界に飛び込んできた。
とある不動産屋から、覆面を被った2人組と……拘束された女性が飛び出してきたのだ。
1名は、人質となった女性の首を左腕で固定し、右手でナイフを喉元に突きつけている。
(もう1名も、同じくナイフを持っている。)
女性は、悲鳴を上げながら助けを求める。
続いて、不動産屋の主人らしき男性が飛び出してくる。
「待ってくれ!娘を解放してくれ。金なら払う!」
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