第2話 マシュマロ君

「う……ん」

(「やーい、ヒョロヒョロ」)

「ん……んう」

(「お前、肌白いな、女みてー」)

「うう……」

(「こんな事ぐらいでへばってんのかよ、ダッセー」)

「んん……」

(「どうしたー、悔〈くや〉しいならやり返してみろよー」)

「うーん、うーん」

(「弱っちいなーみんな、行こうぜ」)

「うう……ん」

(『アハハハハハ』)

       *

「ん……ん……はっ」

清々〈すがすが〉しい朝とは裏腹に、悪夢にうなされながら、真白は目を覚〈さ〉ました。

(夢か……)

起き上がると、ベッドから降りた。

カーテンを開〈ひら〉き、窓を開〈あ〉けると、柔らかな陽射しが、部屋の中に入って来た。

その光の明るさが、真白を安心させた。

(よかった、夢で)

ホッと溜〈た〉め息が出た。

「真白ー、ご飯が出来たわよー」

母親の自分を呼ぶ声が、階下〈かいか〉から聞こえた。

「はーい」

声を張って返事をした。

寝汗でべったりと身体に貼り付いている部屋着を脱いで、制服に着替えた。

机に出しっ放しにしておいていた課題を、教科書や文房具〈ぶんぼうぐ〉と一緒〈いっしょ〉にスクールバッグの中にしまう。

備え付けのポケットにもスマートフォンを入れると、スクールバッグを持って部屋を出た。

階段を降りて、キッチンに姿を現すと、既〈すで〉に両親はもう、来ていた。

父親は広げた新聞に目を通し、母親は自分が作った朝ご飯を並べて置いていた。

「おはよう、父さん母さん」

真白が挨拶を言うと、先に母親から挨拶が返って来た。

「おはよう」

父親も読んでいた新聞を畳んで、横に退〈の〉けると、挨拶を返した。

「おはよう」

スクールバッグを椅子〈いす〉の隣りに置くと、真白は席に着いた。

最後に料理を並べ終えた母親が、空いていた席に座ると、それが合図になって、三人は手を合わせた。

「いただきます」

父親が言うと、真白と母親もそれに続いた。

『いただきます』

今朝〈けさ〉の献立〈こんだて〉は、焼き鮭〈しゃけ〉に大根〈だいこん〉おろし、ご飯に葱〈ねぎ〉となめこの味噌汁〈みそしる〉だった。

「うん、美味〈おい〉しい」

味噌汁を啜〈すす〉った真白が、味の感想を述べた。

「今日も美味〈うま〉いぞ、母さん」

同じく味噌汁を一口飲んだ、父親が言った。

「そう、それはよかった、暑い中頑張って作ったかいがあったわ」

ハンカチで汗を拭〈ふ〉いて、赤い顔をしながら、母親は喋った。

「今日は学校でどんな事をするの?」

問い掛けられた真白は答えた。

「まず現代文で教科書の暗唱〈あんしょう〉、次が体育でバスケットボール、英語で簡単な英会話、数学で方程式〈ほうていしき〉、その次に選択授業っていうのがあって、自分の好きな授業を選んで受けるんだって、最後に情報処理はパソコンルームで勉強するらしいから、多分〈たぶん〉パソコンを使っての授業をするんだと思う」

聞いていた二人のうち、父親が言った。

「転校して来てまだ二日目〈ふつかめ〉なのに、随分〈ずいぶん〉詳〈くわ〉しい授業内容だな」

言葉で頷〈うなず〉いて、真白が返した。

「うん、席が隣〈とな〉りの子が教えてくれたんだ」

真白の言葉を聞いて、嬉〈うれ〉しそうに母親は喋った。

「まあ、もうお友達〈ともだち〉が出来たの?」

ませたように、生意気〈なまいき〉な口調で真白は答えた。

「まあね」

父親も母親同様に喜んで言った。

「そうか、それはよかったな」

真白が頷いた。

「うん」

ご飯を口に入れて噛〈か〉みながら真白は、先程〈さきほど〉見た夢の事を思い出した。

冷ややかな誂〈からか〉いの声。

悲しくて。

悔しくて。

苦しくて。

泣きたくて。

心が潰〈つぶ〉されるような痛みを味わい続けたあの頃〈ころ〉。

楽しそうだけれど、意地悪な笑い声。

悪夢は寝ても覚〈さ〉めても真白の心を蝕〈むしば〉んだ。

しかし、そんな孤独〈こどく〉だった自分に、助けの手を差し伸べてくれた人物がいた。

その人物を思い出して、真白は気持ちを落ち着けた。

「ーーーしろ、真白」

父親に呼ばれて、真白は我〈われ〉に返った。

「え?」

と、真白が返した。

「どうした?大丈夫か?」

心配そうに訊〈たず〉ねる父親に、軽く謝りながら、真白は答えた。

「ああ、うん、ごめんごめん、考え事してた」

そう言うと、今度は真白が父親に訊いた。

「で、何の話だったっけ?」

思いもよらない答えが、父親の口から出た。

「いや、大丈夫なら良〈い〉いんだ、早く食べないと、遅刻するぞ」

言われた真白はキョトンとして、言葉を漏らした。

「へ?」

間抜けな声を出すと、壁掛け時計〈かべかけどけい〉を見た。

時刻〈じこく〉は、七時五十分を差していた。

「本当だ、やばっ」

真白は急いで、並べられたご飯やおかずをかき込むと、味噌汁(みそしる)でそれらを流し込んだ。

「ごちそうさまでした」

丁寧に右にある手と左にある手を合わせて、挨拶をした。

パン、と、乾いた音が鳴った。

そのままスピードを緩める事無く、真白は食べ終わった自分の食器を持ち易〈やす〉いように重ね、シンクまで運ぶと、水道のレバーを下げて、出した水に浸〈つ〉けた。

スクールバッグの持ち手を掴むと、それを持ってキッチンを出た。

「行って来まーす」

小走りでそう、挨拶を言いながら。

バタンと、玄関と外を分け隔〈へだ〉てているドアが閉まる音を聞くと、残った二人ものんびりと朝食

の続きを食べ出した。

父親が真白の次に家を出たのは、真白が出てから十五分程後〈あと〉の事だった。

そんな真白はと言うと。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

息を切らして、町の外〈はず〉れにいた。

真白が昨日、穂稀と出会った場所だ。

此処〈ここ〉で真白は速めていた足を止めた。

膝〈ひざ〉に手をついて、俯〈うつむ〉くと、息を整〈ととの〉え始めた。

落ち着いて来ると、真白は顔を上げた。

横断歩道〈おうだんほどう〉の向こう側の自動販売機〈じどうはんばいき〉に、見覚えのある後ろ姿を見つけた。

真白は大きな声を出して話し掛けた。

「秋畑さーん!」

名前を呼ばれたその女性は、真白の声に反応して振り向いた。 

真白の姿を見るなり、穂稀は満面の笑みを浮かべ、横断歩道を駆〈か〉けて渡って来た。

穂稀が着くと真白は挨拶を言った。

「おはよう」

言われた穂稀も挨拶を返した。

「おはよう、マシュマロ君」

その言葉を聞いた真白が不満を述べた。

「僕、真白なんだけど」

穂稀も言葉で返した。

「知ってるわよ」

担任の裃大道がわざとなのか、それとも本当にただのおっちょこちょいなのか、名前を言い間違〈まちが〉えて紹介された昨日から、転校初日早々〈そうそう〉、女子ウケには良さそうだが、こんなか弱〈よわ〉そうな渾名〈あだな〉が昼休みにはもう、定着してしまった。

「確かに肌白いし、体力無いし、暑いの苦手だけど」

真白はつらつらと渾名の理由になりそうな、自分の特徴を述べた。

「え、自分で言っちゃうんだ?それ」

意外〈いがい〉な思いもよらない言葉に、穂稀は軽く驚いたような言葉を口にした。

「まあ、それはさておき、行きましょうか、遅刻しちゃう」

と、続けた。

「そうだね、行こう」

真白が返事をした。

二人は歩き出した。

薬局、診療所、雑貨屋、郵便局、洋菓子店、リサイクルショップ、ガソリンスタンド、道の駅、歯医者、自動車整備工場、電化製品販売店の前を通って行った。

「昨日はごめんね、校舎案内出来なかったうえに、放課後まで付き合わせちゃって」

穂稀が話し掛けた。

「へ?」

と、短く返す真白の脳裏〈のうり〉に、昨日の記憶が過〈よ〉ぎった。

        *

それは授業も休み時間の生徒達による転校生騒ぎも落ち着いた昼休みの事だった。

「それじゃ、行きましょうか」

手作りの弁当が中身のランチボックスが入ってるトートバッグを持って、穂稀が言った。

「うん」

真白も母親が作った弁当の巾着を掴むと、二人で席を立った、その時だった。

教室の引き戸が開〈あ〉いて、一人の女生徒が室内に入って来た。

「こんにちはーっと……あ、いたいた」

女生徒は、その姿を見つけると、パッと表情を輝かせて駆け寄った。

その先にいたのは、穂稀だった。

「秋畑さん、よかった、此処〈ここ〉にいて」

女生徒が話し掛けた。

「あのね、お願いがあるの」

と、続けた。

その瞬間、彼女の口から放たれたのは、二人にとって都合が悪過ぎる願い事だった。

「図書当番を代わって欲しい?」

訊〈たず〉ねるような口調で穂稀が女生徒の言った言葉を繰り返した。

「今日提出だった数学のワーク、やり忘れててさ」

穂稀は訊いた。

「放課後じゃダメなの?」

女生徒が答えた。

「もう、みんな提出済みで、やってないの私だけなの」

言われた穂稀は言った。

「急に言われても」

手を合わせ、身体を折り曲げ、祈るようなポーズをとって、女生徒は言葉を返した。

パン、と、乾いた音がした。

「お願い、後で何か奢〈おご〉るから」

それを聞くと穂稀はチラリと真白を見た。

「じゃあさ、二人で行こうよ」

真白が言った。

「え、良〈い〉いの?」

穂稀は訊ねた。

「うん、図書室までの道の行き方を覚えるのに丁度良いからね」

二人の顔を交互に見て、溜め息をつくと、穂稀は観念したように言った。

「分かった、良いよ」

この一言を聞くと、女生徒は穂稀に抱きついた。

「やったー、秋畑さんなら、そう言ってくれるんじゃないかと思った、嬉しー、ありがとー」

穂稀と真白の二人は職員室に向かった。

先を行く穂稀の後ろを真白はついて行った。

二人は鍵〈かぎ〉を借りると図書管理室に入って、向かい合ってパイプ椅子〈いす〉に腰を降ろすと、テーブルに弁当を広げた。

穂稀のは青椒肉絲〈チンジャオロース〉、チキンナゲット、ケチャップがかけられた玉子焼き、山葵〈わさび〉味のふりかけがかかったご飯。

真白のは、八宝菜〈はっぽうさい〉、きんぴら牛蒡〈ごぼう〉のサラダ、鶏肉〈とりにく〉の唐揚〈からあ〉げ、蟹〈かに〉クリームコロッケ、エビチリ、梅干しの乗っかったご飯と言ったラインナップだった。

「あ、唐揚げだ、いいなー」

真白の弁当を覗〈のぞ〉いた穂稀が羨〈うらや〉ましそうな声を出した。

「そっちのだって美味〈おい〉しそうじゃん」

穂稀の弁当を見て、真白も言葉を返した。

「食べようよ、私、もう腹〈はら〉ペコだよ」

腹を優しく押さえて、穂稀が言った。

「そうだね、秋畑さんは仕事もしないといけないんだもんね」

穂稀の言葉に真白が応〈こた〉えた。

二人は各々〈おのおの〉の右手と左手を合わせて、

挨拶をした。

『いただきます』

二つの声が重なった。

そうして二人は弁当を食べ始めた。

「ん、美味しい」

先に声を発したのは、穂稀だった。

「美味っ」

真白がそれに続いた。

「手作りなの?」

穂稀に真白は訊〈たず〉ねた。

「まあね、古屋君は?」

応えた穂稀も真白に訊〈き〉き返した。

「僕のは母さんが作ってくれたんだ」

真白の言葉を興味ありげに、穂稀は相槌〈あいづち〉を打った。

「ふーん」

食べていると、チン、と呼び出しのベルが鳴った。

「あ、呼ばれた、ちょっと仕事して来るね」

そう言う穂稀に真白は乗り気で言った。

「行ってらっしゃい」

穂稀が管理室に繋がる窓口の席に腰掛けると図書室側の備え付けられている机に本が一冊、置いてあった。

本の題名から名簿と照らし合わせると、返却用の本だった。

スーパーのレジでよく見る、バーコードリーダーで

書籍〈しょせき〉に記された番号を読み取って、この生徒の手続きは終了した。

生徒が来ていない頃合いを見計らって、穂稀は真白のいるテーブルに戻って来た。

「ふふーん、お弁当、お弁当っと」

鼻歌を歌って、続きを食べようとした時だった。

「あれ?」

穂稀は自分の弁当を見て、気がついた。

手つかずだった筈〈はず〉の玉子焼きが一個無くなっているのだ。

先程までの記憶を辿〈たど〉ってみるが、やっぱり食べた覚えが無い。

弁当を持ち上げて、下を見ても勿論〈もちろん〉無い。

「どうしたの?」

真白が話し掛けた。

「うん、玉子焼きがいつの間にか一個無くなってるの」

そうだ、と、穂稀は続けた。

「古屋君知らな、」

喋ってる途中で口が止まった。

玉子焼きの行方〈ゆくえ〉を訊ねようと、真白を見た時だった。

真白の口元に少量のケチャップが点々とついていた。

「秋畑さん?」

俯いて表情が隠れた穂稀を見て、真白は声を掛けた。

「マーシューマーロくーん」

そう言って上げた穂稀の顔は、眼が据〈す〉わっていた。

「よくも私の玉子焼き食べたなー」

穂稀が詰め寄った。

「一個だけじゃんか、ね?」

宥〈なだ〉めようとする真白だが、穂稀には効かなかった。

「こうしてやるー、えいっ」

穂稀は自分の箸〈はし〉を掴〈つか〉むと、真白の弁当から唐揚げを一つ摘〈つ〉まんだ。

「あー!」

盗〈と〉られた真白は声を上げた。

「僕の唐揚げー」

悲痛な思いが言葉となって口に出た。

「へっへっへっ玉子焼きの仇〈かたき〉だ、ざまあみろ」

穂稀はそう言うと、唐揚げを口の中に入れた。

「うん、美味しい、大蒜〈にんにく〉が効いてる」

がっくりと肩を落として、真白が溜め息をついていると、また、チン、と、ベルが鳴った。

穂稀は次なる利用者の相手を務〈つと〉める為、再び窓口の席に着いた。

そんなやり取りを行〈おこ〉なって行く中で、昼休みは過ぎ去って行った。

後半の授業が終わって、帰りのLHR〈ロングホームルーム〉が過ぎて放課後になった。

「それじゃ行こっか」

穂稀が真白を誘った。

「うん、行こう」

スクールバッグを肩に掛け、それぞれの速さで二人が席を立った時だった。

「あ、いたいた」

教室の引き戸が開〈あ〉いて、男子生徒が二人、中に入って来ると、真白と穂稀に近寄って来て言った。

「古屋に秋畑、二人に頼みがあるんだ」

男子生徒の一人が言った。

「頼みって?」

穂稀が訊ねると、もう一人の男子生徒が答えた。

「掃除係〈そうじがかり〉を代わりにやってくれ?」

真白がなぞるように、聞いた言葉を繰り返した。

「なあ、頼むよ、この通りだ」

昼休みに女生徒がそうしたように、男子生徒の一人は手を合わせて、もう一人は手を組んで、祈りの姿勢を取りながら、二人に縋〈すが〉った。

「今日が期限だった英語のプリント、まだやってなくて」

男子生徒が言うと、もう一人も続いた。

「俺も、先生待たせてるんだ」

更に男子生徒は言った。

「他の生徒達にも頼んだんだけど、ダメだったんだ」

続くように、もう一人も言葉を紡いだ。

「もう、頼めるのがお前ら二人しかいないんだよ」

最後には二人の声が重なった。

『頼む……!』

俯いたまま、苦痛に歪〈ゆが〉んだような顔をした。

「僕は良いよ」

真白が返事をした。

「本当か!?」

もう一人の方の男子生徒が反応して、顔を上げた。

「先生待たせてるんじゃ仕方無いよね」

その言葉に、もう一人の男子はパッと表情を明るくして、真白に近寄り、手を握った。

「ありがとう!」

残るは男子生徒に対する穂稀の返事のみとなった。

真白ともう一人の男子が見守る中、穂稀は口を開〈ひら〉いた。

「分かった」

返事を聞いてすぐ、男子生徒は顔を上げた。

「ありがと!」

男子生徒も穂稀と握手〈あくしゅ〉を交わした。

二人は机の横についている鉤〈かぎ〉にスクールバッグを掛けると、隅〈すみ〉に置かれているロッカーに向かい、扉を開けると、中から道具を取り出して掃除を始めた。

これで、穂稀と真白の空いている時間は潰れてしまったのである。

          *

「ああ、あの事なら、気にしてないよ」

振り返りを終えて、真白は言った。

「今日こそは案内するからね、町も学校も」

意気込〈いきご〉んで穂稀は言葉を口にした。

麻雀荘、横澤算盤、公文式、水野床屋と店を通過して行く。

「昨日の数学分かった?」

穂稀が質問した。

「まあね」

真白は答えた。

そして、こう続けた。

「僕は、古典の方が分からなかったなぁ」

穂稀が言った。

「今度教えてよ、分かるのか分からないけど」

誘われた真白も、穂稀に返した。

「うん、良いよ、そっちも教えてね」

今度は真白が穂稀に訊ねた。

「昨日、何かテレビ見た?」

穂稀は答えた。

「見たよ、櫻井・有吉のThe〈ザ〉夜会」

続けて真白が訊いた。

「じゃあ、プレバトは?」

穂稀も続けて答えた。

「見た見た、くっきーが色鉛筆〈いろえんぴつ〉で描〈か〉いたイラスト、面白かった」

真白が共感するように喋った。

「だよね、昨日のも浜田を描いてたね」

それに穂稀は言葉で返した。

「次はどんなの描くか楽しみだね」

池田酒店、横屋釣り具店、占いの館〈やかた〉、菅原美容院、居酒屋よっといで、Bar hurt、多田青果店、寿司・正太郎、薬王堂、様々な店が二人の横に通り抜けて行った。

「あ、番組と言えば、今日の金曜ロードショー見る?」

思い出したように、穂稀が訊いた。

「え、今日、何かあったっけ?」

そう真白が訊き返した。

「天空の城ラピュタ」

穂稀が教えた情報に、真白は言葉で飛びついた。

「マジで!?絶対見なきゃ」

と言うと、真白はスクールバッグのポケットからスマートフォンを取り出して、話し掛けた。

「二十一時にアラームをセットして」

真白のスマートフォンから音声が聞こえた。

「二十一時にアラームを設定しました」

旅行代理店、アパマンショップ、精肉店の前を通〈とお〉ると、校庭に到着した。

タイムリミットはまだ迎えてなかったらしく、生徒が通れるように、校門が開〈あ〉いていた。

『おはようございまーす』

生徒指導も務める大道に挨拶をして、緩〈ゆる〉めのチェックをクリアすると、二人は校舎に向かって歩き出した。

「まだ時間に余裕があるみたいだね」

慌てて家から出て来た事を真白が思い出して言った。

「このペースで歩いて行っても十分に間に合いそうね」

そう話している二人に、背後から肩を叩かれて、声を掛けられた。

「秋畑さん、マシュマロ君」

振り向くと、男女二人のクラスメートがいた。

「おはよう」

女子が先に挨拶をした。

「ういっす」

男子もそれに続いた。

「おはよう、二人共〈とも〉」

穂稀が挨拶を返した。

「おはよう、真白だけどね」

ツッコミを入れて、真白も言った。

「あら、良いじゃない、マシュマロ君、可愛いくて」

クラスメート女子が朗〈ほが〉らかに反論した。

「だってさ、マシュマロ君」

クラスメート男子もそれに付け加えるように言葉を口にした。

「肌白いし、暑さは苦手だし、体力だって無いしね」

穂稀が加勢した。

「秋畑さんまで」

真白は恨めしそうに、穂稀の名前を挙げた。

「さっき自分でそう言ってたじゃない」

そう穂稀に言われて、真白は言い返せなかった。

「う……」

それを聞いたクラスメート女子がニヤニヤしながら真白に訊ねた。

「ふーん、そうなの?マシュマロ君」

クラスメート男子もニヤけた顔で真白に詰め寄った。

「認めるのかな?マシュマロ君」

真白は言葉に詰まった。

「ぐ……」

此処で穂稀が思い出したように言った。

「遅刻しちゃうわ、冗談はこのぐらいにして、行きましょう」

クラスメート男子が穂稀に賛成した。

「そうだな」

クラスメート女子もそれに続いた。

「うん、行こ行こ」

歩きながら、クラスメート女子が言った。

「そうだ、さっき二人で話してたんだけど、今度の週末、四人で遊びに行かない?」

穂稀が訊き返した。

「遊ぶ?私達だけで?」

クラスメート女子が言葉で頷いた。

「そう、マシュマロ君の歓迎会をやって、みんなで楽しもうと思って」

それを聞いた穂稀は賛成した。

「良いね、何して遊ぶ?」

クラスメート女子が答えた。

「カラオケが今の所、入っている予定なんだけど」

クラスメート男子が言葉の続きを喋った。

「後は何にしようか良い案が浮かばなくってな、秋畑、何か良いアイディア無いか?」

ちょっと考えて、穂稀は提案した。

「うーん……あ、じゃあ、ボーリングはどう?」

クラスメート男子が賛成した。

「お、良いじゃん、流石〈さすが〉」

そんな話をしているうちに、教室に着いた。

穂稀を先頭に、引き戸を開けて、中に入った。

ヒューヒューと言う声と指笛が、拍手〈はくしゅ〉と共に聞こえた。

四人をクラスメート達が囃し立てた。

「よっ、カップルお揃〈そろ〉いでのお出ましかい」

真白を転校初日に冷やかした男子生徒が調子に乗った声を出した。

「え?え?」

真白が戸惑って、キョロキョロと首を左右に動かし、クラスメート達を見た。

「二組で仲良くご登校はやるねー」

何処〈どこ〉からか誰のか分からないが、男子生徒の声が飛んで来た。

「見せつけちゃってくれんじゃん」

また別な男子の誰かが言った。

誂〈からか〉いの言葉が飛び交う出迎えに、標的になったカップルのうち、女性陣二人が反撃した。

「もう、朝から何なのよ」

クラスメート女子が先に言った。

「また、いきなりね、どうしたの?」

穂稀がそれに続いた。

「へへっ何って二組を盛り上げようと思ってさ」

男子の一人が下卑〈げび〉た笑い声を出して喋った。

「そうそう、だってお前ら、イイ感じじゃん」

もう一人、男子が賛同した。

「君達の事、みんなで応援しようと思って」

女子からも声が上がった。

「悪い冗談止〈や〉めてよ、大きなお世話よ」

クラスメート女子が言い返した。

「激しく同意」

クラスメート男子も言った。

「私もそう思うわ、古屋君も困ってるみたいだし、ね?」

クラスメート女子の意見に加勢すると穂稀は、真白に話を振った。

「え?えーと」

先刻まで傍観〈ぼうかん〉していた光景の人物に突然、話を振られて、答えを用意してなかった真白は、言葉に詰まった。

「ま、まあ、そうだね、傍目〈はため〉からはそう見えても、実際の本人達の気持ちは違うかもしれないからね」

カップル達の味方をするような、心強い意見に背中を押されたらしく、クラスメート女子は堂々〈どうどう〉と言い返した。

「ほら、見なさい、マシュマロ君だってこう言ってるじゃない」

だが、男子達は大人しく引き下がるどころか、かえって悪ノリし始めた。

「とか、なんとか言っちゃって、本当は嬉〈うれ〉しいんじゃないの?」

下卑た笑い声を上げていた男子が言った。

「そうそう、嫌〈いや〉よ嫌よも好きのうちってヤツ?」

その男子と一緒に誂っていた男子生徒も加担した。

「はっ、はぁ!?何言ってんの、誰がこんな奴」

クラスメート女子が言った事に対して、クラスメート男子も言葉を返した。

「俺だってこんなガサツで阿婆擦〈あばず〉れなじゃじゃ馬女、ごめんだね」

どちらも似たような意見を言ってるのに、二人の間に火花が散り出した。

「何ですってぇ」

クラスメート女子が喰〈く〉ってかかった。

「お前みたいなすっとこどっこいなんてごめんだって言ったんだ」

クラスメート男子は迎え撃った。

「あんたなんてポンコツでスカポンタンのくせに」

クラスメート女子が言い返した。

「何だとぉ、そっちだって、ドジで間抜けなおかめ女じゃねぇか」

言い合っている二人を交互に傍観していた真白は、同じく口喧嘩〈くちげんか〉のやり取りを見ていた穂稀に声を掛けた。

「止めなくていいの?」

肘〈ひじ〉を曲げた両手を上げて、お手上げのポーズで穂稀は答えた。

と、此処でまた、こんな声が聞こえた。

「あれあれ?二人で仲良く痴話喧嘩〈ちわげんか〉ですか?」

下卑た笑い声の男子のものだった。

『誰が(だ)!』

喧嘩していた二人の息がぴったり合った声になった。

「やっぱりそうなんじゃん」

一緒に誂っていた男子が言った。

「喧嘩する程〈ほど〉仲が、」

言い終わる前に言葉の続きを二人が遮〈さえぎ〉った。

『悪い!』

そんな時だった。

キーンコーンカーンコーン

タイムアップを告げるかのようにチャイムが校内にいる者達の耳に届いた。

バチバチのやり取りを見て、おろおろしていた真白は天の助けとばかりにホッと胸を撫で降ろした。

「みんな、チャイムなったよ、席に着こう」

チャンスが来るのを待っていた穂稀が指揮るようにみんなに声を掛けた。

「えー、もう、そんな時間?」

クラスの誰かの声が聞こえた。

「ちぇー、つまんねーの」

と言うような不満を漏らしながら、渋々〈しぶしぶ〉と言った感じで生徒達は散り散り〈ちりぢり〉

になって、自分のものになっている席に着いた。

机から本を出して、朝読書を始めた。

真白は本を持ってなかったので、穂稀のを一緒に見せて貰った。

物語の内容を空想を膨〈ふく〉らませながら読んで行くうちに、いつの間にか読書の世界に集中して行っていた。

自分では気づく事が出来ない程に時間が経過して行った。

キーンコーンカーンコーン

チャイムが朝読書時間終了の合図〈あいず〉を知らせた。

生徒達は個人のそれぞれのスピードで本を閉じ、机の中にしまった。

「読ませてくれてありがとう」

真白は穂稀に礼を述べた。

「こちらこそ、読み終わってページを捲〈めく〉るまで待っててくれてありがとう」

穂稀も真白に礼を返した。

丁度その時、教室の引き戸が開いて、担任の裃大道が入って来た。

「起立ーつ(きりーつ)」

日直が号令を掛けて、クラスの生徒達が全員、席から立ち上がった。

「気を付けー、礼」

続いての号令で、生徒達は姿勢を正して自分達の担任である師に頭を下げた。

「おはようございます」

日直の言葉に続いて、生徒達も挨拶をした。

「おはようございます」

聞いた大道も挨拶を返した。

「はい、おはよう」

最後の号令を日直が言った。

「着席ーき」

号令を聞いた生徒達は全員揃ったタイミングで席に座り直した。

「えーそれでは、出席をとる」

そう言うと、大道は生徒達の名前を呼び始めた。

LHRが過ぎて、午前の授業が終わり、昼休みになった。

「行きましょうか、古屋君」

手作りの弁当が詰まったランチボックスが入っているトートバッグを持って、穂稀が真白に声を掛けた。

「うん、行こう」

真白も母親が作ったご飯の弁当が入った巾着を掴んで言った。

二人は誰にも気づかれないように教室を出た。

二階の廊下を早足で通って、階段を駆け降りると、一階の廊下に出た。

校舎の昇降口玄関と靴〈くつ〉を履〈は〉き替える為〈ため〉の下駄箱がある場所だ。

「まず、此処〈ここ〉が玄関ね」

穂稀が場所について説明した。

「うん、それは分かった」

そう言うと真白は、こう続けた。

「次に行こう」

玄関を通ると、特別教室の前に来た。

穂稀が教室の名前を挙げて行った。

「此処が家庭科室で、真ん中が集会室、委員会や休み時間に広場として使う事が多いわね、それでその向こうが被服室ね」

真白が興味を示すような返事をすると、中を見ようと、引き戸に手を掛けて、引っ張〈ぱ〉った。

「あ、あれ?」

引き戸は少し動くようだが開〈あ〉かない。

「うーん」

力いっぱい引っ張っても、開くような様子が無い。

その様子に気づいた穂稀が言った。

「ああ、普段は施錠〈せじょう〉してあるから、職員室に行って、先生から許可を貰って、鍵を借りて来ないと開かないわよ」

それを聞いた真白がツッコんだ。

「先に言ってよ」

穂稀が言った。

「次に行きましょ」

職員室を横切って、校長室の前を通り、壁に貼ってある、誰かが美術の時間辺りに描〈か〉いたであろう、感染予防運動を推進するコンテストの金賞のポスターや交通安全運動コンテスト優秀賞のポスターを通り過ぎると、着いたのは保健室だった。

中から、他の生徒達や先生らしき人物の喋っている声が聞こえた。

「雨が降〈ふ〉った時や冬とか寒い時に来ると、先生がコーヒーをご馳走〈ちそう〉してくれるわ」

真白が言った。

「昨日、初めて会った時もそんな事言ってたね」

それを聞いた穂稀は軽く驚いたような声を出した。

「覚えててくれたんだ」

謙虚〈けんきょ〉に真白が返した。

「まあね」

照れたように指で頬〈ほお〉を掻〈か〉いた。

「さあ、次に行きましょうか」

穂稀は言った。

保健室を左に曲がると、理科室、理科準備室、美術室、図工室とそれぞれの名前が書かれてある看板が出ている教室の通りに出た。

「此処に全身骸骨〈がいこつ〉や人体模型〈もけい〉などの資料やアルコールランプとか天秤皿なんかの実験道具が置いてあるわ、後、美術室には絵の具やキャンバス、図工室には彫刻刀、粘土〈ねんど〉などの図工道具ね」

教室の紹介を聞いていた、真白は言った。

「へえー、じゃ、次に行こう」

来た道を退〈ひ〉き返して、先を歩いて行く穂稀の後を真白はついて行った。

しかし、廊下には戻らずに通り過ぎ、反対の道の端〈はし〉に出た。

そこには硝子〈がらす〉で出来た引き戸があった。

「此処は言わなくても分かるよ、体育館に繋がる渡り廊下だね」

冗談めかして穂稀が返した。

「ピンポーン、それじゃ渡り廊下でお弁当にしましょう」

穂稀のこの言葉に従って、真白達は引き戸を開けて外に出た。

渡り廊下の真ん中まで来ると、二人はそこに腰を降ろした。

弁当を広げて、蓋〈ふた〉を開けると色とりどりのご飯とおかずが、顔を出した。

穂稀のは、のりたまの振り掛け〈ふりかけ〉が掛かったご飯に、胡椒〈こしょう〉の掛かっている焼いたウィンナー、アスパラのベーコン巻き、ポテトサラダ、真白のは炒飯〈チャーハン〉、ミニハンバーグ、ピーマンの肉詰〈づ〉め、麻婆豆腐〈マーボーどうふ〉と言ったメニューだった。

「あ、ウィンナーだ、いいな」

羨〈うらや〉ましそうに真白は言った。

「そっちだってハンバーグじゃない」

穂稀が言い返した。

「じゃあ、交換する?」

提案するように真白は訊いた。

「良〈い〉いね、そうしよっか」

真白の言葉に穂稀が乗った。

穂稀はウィンナーを、真白はミニハンバーグをそれぞれ交換した。

そして、手を合わせて挨拶を言った。

『いただきます』

二つの声が重なった。

穂稀はウィンナーを一口齧〈かじ〉ると、その次にミニハンバーグを一口食べた。

「ん、デミグラスソースが濃厚〈のうこう〉で美味しい」

その言葉を聞いて真白も真似〈まね〉をするように、ミニハンバーグを半分程〈ほど〉食べてから

ウィンナーも半分を口の中に入れた。

「うん、胡椒が効いててスパイシーで美味い」

と、穂稀に続くように、感想を述べた。

「美味しいわ、このミニハンバーグ」

そう言う穂稀に真白が返した。

「そっちこそ、このウィンナー美味いじゃん」

更に穂稀は言った。

「交換して良かったわ」

続けて真白も言葉を返した。

「お互いにね」

それからも二人は自分達の好きなおかずの話なんかをしながら、弁当を食べ進めて行った。

隙間〈すきま〉無く弁当箱を埋〈う〉めていた筈のご飯とおかずはみるみる消えて行った。

食べ終えると、蓋〈ふた〉をして、その上に箸〈はし〉を置いて、二人は手を合わせた。

『ごちそうさまでした』

空〈から〉になった弁当箱を二人でしまっていると、真白が穂稀に訊〈たず〉ねた。

「次は何処〈どこ〉に行くの?」

穂稀は答えた。

「三階よ、それじゃ、行きましょう」

二人は渡り廊下の元来〈もとき〉た道を退き返して、硝子の引き戸を開けると、再び校舎の中へと入った。

階段を登って行き、三階に上がった。

続いている廊下が左右に分かれていた。

穂稀は迷う事無く、まず、右に曲がって、道を歩いて行く。

それに真白も続いて行った。

ポスターも知らせの便〈たよ〉りも何も貼られてない、延々〈えんえん〉と伸び続けている廊下を二人は進んで行った。

「さっきの数学分かった?」

歩いている間〈あいだ〉、会話を先に始めたのは穂稀だった。

その言葉に真白が答えた。

「まあまあかな」

今度は真白が訊いた。

「現代文の暗唱出来た?」

勿論〈もちろん〉、穂稀も答えた。

「うん、まあ」

そう言うと、思い出したように、こう付け足した。

「そう言えば、確かに何度も並んでたもんね」

言葉に詰まりながら、真白が返した。

「う……なんだ、バレてないと思ってたのにな」

言葉の終わりに溜め息を吐いて、しょぼくれた。

と話していると、穂稀の足が止まった。

少し遅〈おく〉れて真白も足を止めた。

着いたのは視聴覚室〈しちょうかくしつ〉だった。

「日本史のモニタリングとかの授業は此処でやるのよ」

穂稀は隣りの教室であるパソコンルームについても説明をした。

「情報処理の授業は此処で行〈おこ〉なうわ、先生暗黙の了解でインターネットも使えるの」

その言葉を聞いた真白がこう述べた。

「それも昨日聞いたよ」

真白の言葉に穂稀は返した。

「さあ、次に行くわよ」

パソコンルームで留〈とど〉まっていたその足で穂稀は、視聴覚室と反対の方に歩き出した。

「古屋君はカラオケとか行くの?」

また、先に口を開いたのは穂稀からだった。

「うん、偶〈たま〉に行くかな」

そう答える真白に、穂稀は質問を続けた。

「一人で?それとも誰かと一緒に行くの?」

真白もそれに答えた。

「それがさ、一人でしか行った事が無いんだよね」

聞いた穂稀が意外そうに問い掛〈か〉けた。

「マジで?仲の良い人いないの?」

言葉で頷いて、真白は答えた。

「うん、今でも一人だよ」

自分がボッチである事を告白した真白の言葉を気にせず、穂稀は次の質問をした。

「そっか、で、どんな曲歌うの?」

それに対して真白も答える。

「Youtubeで流れてるヤツだったり、歌本見て気になった曲だったり様々かな」

聞いた穂稀が言った。

「ふーん、それじゃあ、今度の週末、楽しみだね」

短いけれど嬉しそうに真白は答えた。

「うん」

なんて話をしていたら、再び穂稀が歩みを止めた。

真白もその後ろで立ち止まった。

二人が着いた先に見たのは音楽室と書かれた看板のある教室だった。

その隣りには音楽準備室があった。

「看板の名前を見ての通り、此処は音楽の授業を受ける所よ」

穂稀の解説を聞いた真白は訊ねた。

「音楽準備室には何があるの?」

自分に問い掛けられた穂稀が答えた。

「メトロノーム、タンバリン、トライアングル等〈など〉の音楽道具が置いてあるわ」

興味ありげに真白は感嘆〈かんたん〉して言った。

「ふーん、授業をするのに必要な道具が収納されているんだね」

ついでに穂稀は補足としてこんな言葉を述べた。

「ちなみに音楽室にはベートーヴェン、モーツァルト、バッハと言った音楽家の肖像画〈しょうぞうが〉が飾ってあるのよ」

聞いた真白が返した。

「そうなんだ、今度、授業がある時に見てみるよ」

穂稀が頷いて返事をした。

「うん」

話すと穂稀は手を叩いて言った。

「さてと、そろそろ教室に戻りましょうか」

真白が疑問形〈ぎもんけい〉で返した。

「え?もう、そんな時間?」

そう言うと、制服のポケットからスマートフォンを取り出して、時刻を見た。

「本当だ、教室へ帰らなきゃ」

戻りながら、二人は喋った。

「これで校舎はあらかた周ったから、次は町内ね」

またしても先に話し出したのは、穂稀だった。

「そうだね、宜〈よろ〉しくね」

階段を一階分下りればいいだけなので、歩いて言っても若干の余裕を残して間に合うペースだ。

次に二人が話したのは自分が好きな菓子についてだった。

会話している間〈あいだ〉も穂稀と真白は足を止めなかった。

気がつくと、自分達が所属している教室の前まで来ていた。

「もう、こんなとこまで来てたんだね」

真白が喋った。

「時間も丁度良いわね、中に入りましょう」

穂稀の言葉に従って、二人は廊下に取り付けられているロッカーを開けて、授業道具を取り出すと、中身の無くなった弁当と一緒に持って、教室の中へと入った。

「あー、秋畑にマシュマロ」

二人で隣り合う席に座っていると、そんな声が掛かった。

クラスメート男子が二人を指さしていた。

ガタンと重い音を鳴らして椅子から立ち上がると、ツカツカと早足でこちらに歩み寄り、二人の前で止まった。

クラスメート女子も一緒について来た。

「二人で何処行ってたんだよ」

機嫌〈きげん〉の悪そうな声で、クラスメート男子が言った。

「そうよ、今朝言ってた話の続きしようと思ってたのに」

クラスメート女子も便乗した。

「そうだったわね、ごめんなさい」

穂稀が謝った。

「ごめんごめん、秋畑さんに、昨日出来なかった校舎の案内をして貰ってたんだ」

真白も教室にいなかった理由を挙げて、陳謝した。

「もう、言ってくれれば、ウチらだって案内したのに」

クラスメート女子が言った。

「本当、そうだぜ、まったく」

クラスメート男子が言葉に乗った。

「あ、じゃあさ、今日一緒に帰ろうよ」

真白が提案した。

「え?」

クラスメート女子が訊ねた。

「三人で町を案内してよ」

真白が言葉の意図〈いと〉を分かるように話した。

穂稀が賛成した。

「良いわね、詳しい人は多い方が良いもの」

クラスメート男子も賛同した。

「そうだな、歓迎会の打ち合わせもしたいし」

クラスメート女子も頷いた。

「そうね」

と、話していると、二人に穂稀が言った。

「あ、ほら、席に戻った方が良いよ、先生来ちゃう」

ハッとしてクラスメート女子は喋った。

「そうだった」

穂稀の言葉に従〈したが〉うように二人は慌てて席についた。

教科書を持った担当の教師が教室に姿を現したのは、その直後の事だった。

午後の授業が始まった。

こうして穂稀と真白はクラスメートの二人と、四人で一緒に帰る事になった。

選択授業、情報処理と二つの授業が過ぎて行き、放課後になった。

キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴り終わった時、穂稀と真白が座っている席に、クラスメートの男子と女子が集まっていた。

「それじゃあ、帰りますか」

クラスメート男子が先だって言った。

「うん」

穂稀も頷いた。

「そうだね」

真白が続いた。

「行きましょう」

クラスメート女子も男子の言葉に応〈こた〉えた。

穂稀と真白も家で勉強する為〈ため〉に必要な道具をスクールバッグに仕舞い込むと、席から立ち上がった。

四人は歩き出した。

「三人は今日の数学分かった?」

クラスメート女子が、一緒に帰っている同級生達に訊ねた。

「私は分からなかったけど、古屋君は分かったって」

穂稀は答えると、真白に話を振った。

「ねえ?」

訊かれた真白が返答した。

「まあね」

張り合うようにクラスメート男子も言った。

「俺も分かったぞ?」

それを聞いた女子二人の声が重なった。

『マジで?』

クラスメート男子が言った。

「現代文の授業の方が難しかったぜ、暗唱なんて無理だっつーの」

その言葉を聞いた真白が共感した。

「分かる、僕も何度もやり直しさせられた」

そう聞いて、クラスメート男子が真白に返した。

「だよな!?俺も暗唱出来るようになるまで何度も言わされた」

不満を言い合う二人に穂稀が割り込んだ。

「あら、私だって面倒〈めんど〉くさかったわよ?」

クラスメート女子も続いた。

「私も、でも、よかったじゃない、そのお陰〈かげ〉で現代文の時間潰れたんだから」

穂稀が同意見を発した。

「そうそう、楽が出来てラッキーだったよね」

言葉を確認し合うように二人は同じタイミングで声を出した。

『ねー』

聞いていた真白が納得した。

「そう言われてみれば確かに」

クラスメート男子も同意した。

「そりゃあそうか」

話している間に廊下を抜けて、階段を下って行き、昇降口〈しょうこうぐち〉の玄関に着いた。

下駄箱〈げたばこ〉を開けて、中に入っている外靴〈そとぐつ〉を取り出し、上履〈うわば〉きを履き替〈はきか〉える。

「じゃあさ、情報処理のワープロタイピングは出来た?」

今度は穂稀が三人に訊〈たず〉ねた。

「分かる、一文字〈ひともじ〉間違〈まちが〉えると、そこからどんどん失敗して行っちゃうんだよね」

クラスメート女子が共感した。

「そうなのよ」

同じ境遇〈きょうぐう〉に会ったらしく、穂稀が返した。

「俺は大丈夫だったぞ」

クラスメート男子が言った。

「僕も」

真白が続いた。

四人は喋りながら校舎を出た。

「マジで?よく出来たわね」

感心したような言葉をクラスメート女子が口にした。

「本当、なんで出来るのか謎だわ」

穂稀も続いた。

「そんな事言うなら、そっちだってなんで現代文の暗唱が出来るのか不思議なんだけど」

クラスメート男子が言い返した。

「そうそう」

真白が賛同した。

「あら、そう?」

クラスメート女子が不思議そうな顔で言葉を返した。

「まあ、その話は置いておくとして、歓迎会の話の続きしようぜ」

クラスメート男子が違〈ちが〉う話を提案して来た。

言われて三人はハッとした。

「そう言えば、そうだったわね」

クラスメート女子から言葉が返って来た。

「確かにそうよね」

穂稀も同意見を述べた。

「で、カラオケとボーリングの他に何かリクエストはあるか?」

腕組み〈うでぐみ〉をして、唸〈うな〉りながらクラスメート女子が言葉を発した。

「うーん、そうねぇ」

握り拳〈にぎりこぶし〉を口元に当てて、穂稀も考えた。

「みんなで遊べそうなパーティーゲームか」

考えるのに夢中で、穂稀達は黙り込んでしまった。

沈黙の一時〈ひととき〉が四人に訪れた。

それを破った人物がいた。

真白だった。

顔色を伺〈うかが〉うように三人を見ると、それまで閉ざしていた口を開いた。

「だったら、みんなでお昼ご飯を食べる時に、注文を待っている間〈あいだ〉、トランプをするっていうのはどう?」

新鮮な意見の提案に、クラスメート男子が賛同した。

「お、良いじゃん、それ」

クラスメート女子も同意見だった。

「そうね、ナイスアイディアだわ」

穂稀が続いた。

「楽しそう、それ良い」

腰に手を当て、ふんぞり返ると、真白は短い言葉で返した。

「でしょ?」

聞いていた穂稀が一言で締〈し〉め括〈くく〉った。

「決まりね」

今度は真白が話題を変えた。

「それで、何処を案内してくれるの?」

言われて気がついたようにクラスメート女子が声を出した。

「ああ、そうだったわね」

クラスメート男子が言った。

「じゃあ、行きながら紹介するから、ついて来てくれ」

いつの間〈ま〉にか足を止めていた四人は再び歩き出した。

「みんなはカラオケでどんなの歌うの?」

真白が三人に訊〈き〉いた。

「私は古屋君と一緒、SNSで話題になっている曲だったり、なんとなく聴〈き〉いた事のある曲だったりするかな」

穂稀が答えた。

「俺もだ」

クラスメート男子が続いた。

「私もよ」

クラスメート女子も同じように答えた。

「マシュマロ君も昔の曲とか聴いたりするの?」

続けて質問をすると、真白は頷いて答えた。

「うん、偶〈たま〉に聴くかな」

クラスメート男子も会話の流れに乗って、訊ねた。

「なら、アニソンはどうだ?聴くか?」

勿論〈もちろん〉これにも真白は答えた。

「聴くよ、歌番組で出てから、アニメで流れるのを知る事の方が多いかな」

喰らいついたようにクラスメート男子が再び質問をした。

「マジか、なら好きなアニメはあるか?」

ちょっと考えてから真白は答えた。

「うーん、あ、ジブリ映画なら見るかな」

そう聞いて、クラスメート男子は返した。

と、三人が足を止めた。

真白も立ち止まった。

「まずは此処〈ここ〉ね」

クラスメート女子が言った。

四人の前に構〈かま〉えていたのは、精肉店だった。

「お肉屋さん?」

ショーケースの中に並べられた商品を見て、店の種類を予想した真白が、それを口にした。

「そう、いつもみんな、此処でお肉を買うんだよ」

クラスメート女子が説明していると、クラスメート男子がショーケースの上に身を乗り出して店の奥に声を掛けた。

「こーんにーちはー」

それを見た真白が訊〈たず〉ねた。

「?何をするの?」

クラスメート女子が楽しそうに言った。

「ふふっまあ、見てて、面白い事が起こるわよ」

ワンテンポ遅れて、奥から返事が聞こえた。

「はーい」

女性の声だった。

一分程〈ほど〉待っていると、店の中に女性が姿を現した。

見た感じだと初老だろうか。

「あら、こんにちは、いらっしゃい」

にこやかに明るい声で女性は穂稀達を出迎えた。

「いつものアレ、ある?」

クラスメート男子がそう訊ねると、元気なテンションのままで、女性は答えた。

「ああ、アレね、ちょっと待ってて」

女性はそう言うと、店の奥へと姿を消した。

二分程待っただろうか。

再び女性が穂稀達の前へと戻って来た。

その手には少し大きめの紙袋が抱〈かか〉えられていた。

「お待たせー、はい、どうぞ」

と言って、女性は紙袋をクラスメート男子に手渡した。

「ありがとう」

礼を言って、クラスメート男子は紙袋を受け取ると、その中身を取り出した。

中身の正体はコロッケだった。

クラスメート男子は穂稀達に一つずつ、コロッケを配った。

戸惑った真白は訊ねた。

「え?良いの?」

三人は同時に頷いた。

それを見た真白もクラスメート男子の手からを受け取った。

挨拶をすると、三人はコロッケに齧〈かじ〉りついた。

「うん、美味〈おい〉しい〜」

クラスメート女子が声を出した。

「これこれ、この味」

穂稀が続いた。

「やっぱり、此処のコロッケは美味〈うま〉いな」

クラスメート男子も味の感想を述べた。

見ていた真白もコロッケを一口齧った。

牛肉の食感〈しょっかん〉と調味料でつけた味が口いっぱいに広がった。

「美味しい」

思わずそんな声が口をついて出た。

「でしょ」

クラスメート女子が真白に同感した。

「帰り際〈ぎわ〉此処に寄るといつもくれるんだ、俺達学生専用の裏メニューって所かな」

クラスメート男子の説明を真白は感心して聞いた。

「へえー、俺達って言う事は、僕等〈ぼくら〉の他にも知ってる人達がいるって事?」

クラスメート男子が答えた。

「まあな」

付け加えるようにクラスメート女子も言葉を述べた。

「偶に見かけるもんね、別な学校の制服を来た子達が此処に寄るの」

真白から納得した相槌〈あいづち〉が返って来た。

「ふーん」

それを聞いていた、クラスメート男子が仕切った。

「まだまだ、これだけじゃないぞ、次に行こうぜ」

いつの間にか三人は食べ終わっていて、次に移動する準備が出来ていた。

『ごちそうさま』

穂稀達は初老の女性に挨拶を告げた。

「あいよ、またおいで」

女性が来店を誘う言葉を言い終えると、三人は歩き出した。

「あ、待って、ごちそうさま」

真白も慌てて食べ終えると、同じように挨拶を言って、三人の後を追いかけた。

「次は此処?」

やっとの思いで追いついた真白が三人に質問を投げ掛けた。

「そうよ」

穂稀が答えた。

着いたのは、旅行代理店だった。

「此処で何するの?」

再び真白は訊いた。

「見てれば分かるわ」

穂稀も再び返答した。

クラスメート男子が、硝子〈がらす〉で出来た引き戸に手を掛けて開けた。

「こんにちはー」

そう言って、掛けられた声に、此処の店主であろう男性が、席に着いて読んでいた新聞紙から顔を上げて、出迎えた。

「おう、いらっしゃい」

歓迎するように言うと、再び記事に視線を落とした。

「おじちゃん、いつものある?」

クラスメート男子が精肉店の時と同じような質問をした。

新聞紙を開いたままデスクに置くと、店主の男性は右の方向を向き、顎〈あご〉でしゃくって、三人が目当てにしている物の在り処〈ありか〉を教えた。

示された通りに真白も三人と一緒に振り向いてみると、室内の隅〈すみ〉に、店の雰囲気〈ふんいき〉とは不釣り合いそうな冷蔵庫〈れいぞうこ〉が置いてあった。

「んじゃ、貰ってくね」

クラスメート男子がそう言うと、店主は短く返事をした。

「ああ」

冷蔵庫を開けると、クラスメート男子は覗〈のぞ〉き込むようにして、手を入れ、中に入っている物を数〈かぞ〉えながら取り出した。

「一、二、三、四……人数分に足りるな」

持っていたのは、フルーツポンチの入ったゼリーの小さなカップだった。

四つのゼリーを左腕〈ひだりうで〉で抱〈かか〉えるように持つと、開〈あ〉いている右手で、プラスチックで出来たスプーンを上に乗せて、ドアを閉〈し〉めた。

穂稀達の所に戻って来ると、クラスメート男子はフルーツポンチゼリーとスプーンを三人に配った。

「ありがと」

穂稀が礼を言った。

「サンキュ」

クラスメート女子も言葉を返した。

「あ、ありがとう」

真白も言うと、三人はそれぞれアイスとスプーンを受け取った。

「んじゃ、食〈く〉おうぜ」

クラスメート男子の言葉に真白は訊ねた。

「え!?此処で食べて良いの!?」

穂稀が答えた。

「あら、だって、家〈うち〉に持って帰ったら溶けちゃうわよ?」

真白が言葉を返した。

「そ、そう」

三つの声が挨拶を言った。

『いただきまーす』

そして、三人はスプーンの封〈ふう〉を切ると、スーパーカップの蓋〈ふた〉を開けて、中に入っているアイスを掬〈すく〉い、口の中へと入れた。

「美味〈おい〉しっ」

クラスメート女子が声を上げた。

「甘ーい」

穂稀も幸福〈しあわせ〉そうな声を出した。

「やっぱ、こうでなくちゃな」

クラスメート男子が言った。

三人のその姿を見て、真白も真似をするようにアイスを開けると、一口食べた。

まろやかな甘みやひんやりとした感触を舌で感じた。

フルーツポンチが喉〈のど〉を通〈とお〉って行く感覚〈かんかく〉が心地良〈ここちよ〉かった。

「これも美味しいでしょ?」

クラスメート女子が真白に訊ねた。

「うん」

食べながら頷いて、真白は答えた。

次々にスプーンを走らせて行く、その様子を見て、三人もゼリーを食べ進めて行った。

ゼリーは段々に減って行き、終〈しま〉いには空〈から〉になった容器とスプーンだけが残った。

一番最初に真白が食べ終わった。

それに少し遅れて三人が追いついた。

『ごちそうさまでした』

四つの声が揃〈そろ〉った。

「んじゃ、次に行きますか」

クラスメート男子が言った。

「うん」

穂稀が頷いた。

「そうね」

クラスメート女子が返事した。

「行こう」

真白も三人に続いた。

「おじちゃん、これ、どうすれば良〈い〉いの?」

穂稀が店主に訊ねた。

その手にはスプーンを乗せて重なった四つの容器

を持っていた。

「ああ、すぐ側〈そば〉にテーブルあるだろ、そこに置いといてくれ」

答えた店主に、穂稀は返事をした。

「はーい」

その言葉に従〈したが〉って、来客用なのだろう、六つの椅子〈いす〉に囲まれた、白くて四角い大きなテーブルの上に、容器を置いた。

「ありがとう、また来るね」

クラスメート男子が言った。

「ああ、じゃあな」

店主の見送る言葉を耳にしながら、四人は旅行代理店の外に出た。

「マシュマロ、動物は?」

歩きながら、クラスメート男子が訊ねた。

「好きだけど?」

訊き返すように真白は答えた。

「何かいるの?」

穂稀も続いて問い掛けた。

「昔だったらね、猫を飼ってたよ」

意味深〈いみしん〉な答え方をする真白に、今度はクラスメート女子が質問をした。

「今は?いないの?」

真白が更に答えた。

「うん、交通事故〈こうつうじこ〉で死んじゃったんだ」

それを聞いたクラスメート男子は申し訳〈もうしわ〉け無さそうに言って、謝った。

「そうか、嫌な事聞いたりして悪かった」

首を横に振って、真白は言葉を返した。

「ううん、気にしないで」

クラスメート男子の優しさに真白は嬉〈うれ〉しくなった。

「着いたわ、此処よ」

足を止めた穂稀が声を掛けた。

真白達の視界に映〈うつ〉ったのは、アパマンコープだった。

「まさか、此処でも?」

入った事は無いが、聞き覚えがある程〈ほど〉有名な店名なだけに、内容が想像出来た真白は三人に訊ねた。

「ふふふ、まあ、見てて」

面白がって、クラスメート女子がそう答えた。

引き戸に手を掛け、横にスライドさせながら開ける。

「こんにちはー」

挨拶と共に、クラスメート男子が店の中に顔を出した。

「入って良い?」

そう訊くと、嗄〈しわが〉れた低い声が店内から聞こえた。

店主のものだろう。

「はいよ、どうぞ」

中に入ると、テーブルを挟んで向かい合って置かれているソファーに通された。

「適当に掛けてくれ」

四人は店主の言う通りにした。

男子と女子の二組に分かれ、向き合って腰を降ろすと店主がトレーを運んで来た。

その上には、ティーセットが乗っていた。

敷〈し〉いたコースターに置かれたカップに紅茶を注ぎ入れると、ポットを置いて、何処かへと消えた。

会話をしようと口を開きかけた時、店主が再び、穂稀達の前に姿を現した。

その手にはクッキーの乗った皿を持っていた。

クッキーにはチョコチップが生地〈きじ〉に混ざって入っていた。

「どうぞごゆっくり」

テンションの低い声のままでそう言うと、店主は自分の席に戻り、座っていたパイプ椅子〈いす〉に再び腰掛けた。

三人は考えている事が同じだったらしく、一人ずつ一つの言葉を三つに分けて喋った。

「それじゃ」

と、クラスメート男子。

「お言葉に甘えて」

穂稀が続いた。

「遠慮無く」

クラスメート女子も言った。

『いただきまーす』

最後に三つの声が揃〈そろ〉った。

三人はそれぞれ、皿に乗っていたクッキーを手に取ると、口の中へと運んだ。

「んん、美味〈うま〉っ」

一番最初に言葉を発したのは、クラスメート男子だった。

「おいひい〜」

その次に言ったのは、穂稀。

「たまんなーい」

クラスメート女子はそう言うと、真白にも声を掛けた。

「マシュマロ君も食べなよ、美味しいよ」

と、クッキーを薦〈すす〉めた。

クラスメート女子の言う通りに、真白は従った。

「うん、美味しいね」

感じた味を言葉にして口に出した。

「この紅茶合うね」

チョコチップクッキーと紅茶、二つの味を共に感じながら、穂稀が言った。

「本当、さっぱりするね」

真白が返した。

交互に紅茶とクッキーを口に入れつつ、四人はお喋りを始めた。

「ところでさ」

口を開いたのは、穂稀だった。

三つの視線が穂稀に集中した。

「歓迎会が終わったら、今度近いうちに、みんなで勉強会をやらない?」

そんな提案を意見した。

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