第13話
着信音が静かな部屋に響き渡る。
私は深く息を吸い、突然速くなった心拍を鎮めようと努め、それから通話ボタンを押した。
「もしもし、こんばんは。楓さんですか?」
できるだけ平静で自然な声を出そうとした。
受話器の向こうから、彼女の笑いを含んだ声が聞こえてきた。
「はい、そうですよ。『終わってほしくない』——楓汐里です」
私の頬が一瞬で熱くなった。この備考が、彼女に私をからかう材料を渡してしまったのだ。
「からかわないでくださいよ…」
「なんでそんなに敬語なんですか?すごく距離を感じちゃう…」
あ、疏遠に感じるんだ……
気づかなかった。過度な丁寧さが距離感を生んでいたのか。
「じゃあ…普段通りで話してもいいですか?だって女の子と電話するの初めてで…ちょっと緊張してて」
「そんなの当然でしょ、もちろんいいよ」
彼女は快く答えた。
彼女の許可を得て、私はほっとした。
「ありがとう !」
通話は一時、心地よい沈黙に包まれた。
私は窓辺に歩み寄り、窓の外の暗闇にきらめく灯りを見つめた。この夜が特別なものに変わったように感じた。
「そういえば……」
楓汐里の声が再び響いた。口調には少し躊躇いが混じっている。
「入学初日、私の命を救ってくれてありがとう ?」
「え ! ?」
私はほとんど叫び声を上げた。すべての驚きと疑問がその一音に凝縮されていた。
『なに ? あの日の向こう見ずな女生徒が彼女だった ? まさか ?』
記憶の中であの日の細不を必死に探る——なめらかな腰まである長髪、精巧で小さな顔の輪郭、そしてあのなんとなくの既視感…確かにすべて一致する。
しかし、彼女が入学初日から完璧に見えたため、あの赤信号を危うく渡るところだった向こう見ずと、目の前のこの優雅で落ち着いた優等生を結びつけることは一度もなかった。
「あなた…どうして黙っちゃったの ?」
彼女の声には少し不安がにじんでいた。
「印象悪くしちゃったかな…ごめんね」
「いやいや、とんでもない !」
私は慌てて否定した。
「むしろ、私の方があなたを『バカ』って怒鳴ったんだ。私の方が印象悪くしたはずです」
印象が悪くなるわけがない。この真実を知って、むしろ言いようのない喜びを感じた。
「実はね、あの人があなただとは知らなかったんです」
たとえ彼女を不快にさせても、嘘はつきたくないと、私は正直に話すことを決めた。
「だって入学初日から今まで、あなたはいつも完璧でしたから。たとえ二人が似ていても、あの人があなただとは思いませんでした。それに、あなたがこのことを教えてくれて、感謝の気持ちを伝えてくれたことが、とても嬉しいです」
電話の向こうでかすかな物音がした。ベッドで寝返りを打った音のようだ。
「うんうん~ ?」
彼女は理解できないというように鼻を鳴らした。
「どうして? 私はすごくそそっかしいんだよ。死にそうになったのに」と彼女は理由を追问した。
本心を言うべきかどうか躊躇った——昼間うっかり本音を漏らした結果がまだ生々しい。
しかし結局、正直に向き合うことにした。
「だってあなたは完璧すぎるから。少なくとも私の目にはそう映ってる」
深く息を吸い、語り始めた。
「あなたはクラスで輝き、学校からも認められ、私が困っているときに助けてくれて、何事にもきちんと取り組む…」
いつの間にか、彼女の数々の長所を挙げていた。すべて私が密かに観察してきたものだ。
「本当に完璧すぎる! だからこそ…」
私は話し続けた。
「あなたのように完璧な人にも、こんなそそっかしいところがあって、しかも多分私だけが知っている」
まさにこの発見が、世の中に完璧な人間はいないことを私に実感させた。
楓汐里のように輝く存在でも、不器用な一面があるのだ。
「いつもと違うあなたを見られて…なんだか心の底から嬉しい」
この言葉を聞き終えると、電話の向こうは長い間沈黙した。
聞こえるのは彼女の微かな呼吸音と、自分自身の速すぎる鼓動だけだった。
「どうして黙っちゃったの…… ?」
私は不安でたまらず尋ねたが、それでも返事はなかった。
「あ ! もしかして私の言ったこと、太ったおじさんみたいで気持ち悪かった?ごめんごめん」
私は慌てて謝った。
「久しぶりに人とこんな風に話したから、つい余計なことまで喋っちゃった。あなたも嫌になってるよね……」
あまりにも長い間、心を開いて人と交流していなかった。うっかりして独りよがりの本音をたくさん話してしまった。
もしこれで彼女がうんざりしていたら……
およそ二分後、電話の向こうからようやく彼女の声が聞こえた。
「ううん…私も嬉しかったよ !」
彼女の声はとても小さかったが、しっかりとしていた。
「本心だよ !」
口調には聞いたことのない照れくささが込められていた。
「それはよかった」
ほっと一息ついた。彼女を不快にさせなかったことを安堵した。
「とにかく、あなたが私の命を救ってくれた。恩返しするね !」
彼女の声は突然活気に満ちあふれたものになった。
「じゃあ、楽しみにしておくね」
私は珍しく冗談っぽい口調で返事した。
「え~」
彼女は特に大げさな感嘆符を発した。
「『え~』って ?」
「普段みたいに『はい』とか言うかと思ってた」
彼女はゆっくりと言った。
「楽しみにしてくれるなんて思わなかった~」
そう、中学二年生以来、私は何に対しても期待せず、誰かに期待されることも望んでいなかった。
しかし今の私は、心の底から何かを楽しみにしている……
彼女は本当にすごい人だ。
「いったい私のことをどう思ってるんですか…」
私は不満そうに応じた。
「私だって人間ですよ」
文句を言うような口調だったが、心の中はもう大喜びだった。
「ははははは~」
笑い声が収まった後、彼女は私の質問を繰り返した。
「どう思ってるか…か?」
彼女をもうからかわないでくれと言おうとしたとき、彼女は突然聞いた。
「知りたい?」
彼女の声は低く、少し茶目っ気を含んでいて、私の心をどきっとさせた。
「知りたくないわけないです……」
私は遠回しに認めた。
「教~え~な~い!」
彼女は突然声を大きくし、口調はいたずらっぽさに満ちていた。
『ああ、また人をじらすのか。前回の隣の席になる理由もまだ教えてくれないのに、今度はこれか。』
「はいはい」
「もし…機会があったら、話してあげるよ」
彼女の声は突然どもりがちになった。
「うん…」
私はまた沈黙モードに戻った。
私は5階に住み、彼女は3階に住んでいる。私たちの距離はとても近いのに、お互いの理解はとても少ない。
彼女はどんな人なのか?私はまったく知らない。私はどんな人なのか?彼女も知らない。
物理的な距離はこれほど近いのに、心の距離はどれくらい離れているのだろう?
私は首を振り、これらのまとまりのない思考を振り払おうとした。
私も一歩踏み出したい。
「あの…私たち、友達になれますか?」
私は不安げにそう言った。
心に決めていた。たとえ断られても構わないと。
「え ?もうとっくに友達じゃん ?」
彼女は質問で返し、再び問題を私に投げかけた。
彼女の返答は私の予想外だった。私は彼女とまだ友達になっていないと思っていたが、彼女は私たち二人はもう友達だと思っていたのだ。
これには少し気まずさを感じた。
「あ……ははは、そうだったんですね。本当によかった」
私は気まずそうに頭をかき、どこかに潜り込みたくなった。
通話中もメッセージのように撤回できればいいのに。
「ははははは~あなたって…どこか抜けてるんだね」
彼女はまた笑った。私は静かに彼女の笑い声を聞いていた。
心が落ち着いているのに、どこかで胸が高鳴っている。
この奇妙な感覚…
時計を見ると、もう夜の10時だった。いつの間にか、私たちは1時間半も電話していた。
「普段は何時に寝るの?もう10時だよ……」
「本当だね……」
彼女は相槌を打ち、その後、突然口調を強めて言った。
「本当に終わってほしくないな」
彼女はまた、昼間に私が言って彼女につかまれてしまったあの言葉を繰り返した。
「おい。もうからかわないでくれよ……」
羞恥心が再びこみ上げてきた。自分が恥ずかしく思うことを繰り返し言われるのは、あまりにも恥ずかしい。
「からかってるわけ ?」
彼女の声は突然優しくなった。
「私の本心かもしれないよ……」
口調にはかすかに認めがたい落ち込みが混じっていた。
「自分で考えてよ !」
彼女はまた突然激昂した。
この感情の変化についていけない。女性は本当に理解しがたい……
「そろそろ切るね !」
楓汐里は相変わらず元気いっぱいに宣言した。
「ああ、そうだね。もう時間も遅いし」
私は平静に応じた。
「おやすみ、陽平くん !」
「おやすみ」
私たちはおやすみを交わし、これで通話が終わると思った。
「不合格 !やり直し」
彼女は突然わがままを言い出した。
不合格 ?おやすみの挨拶に合格基準なんてあるのか ?
「え、どこが不合格なんでしょう…。すぐに直します」
私は小心翼翼に尋ねた。
「私だって名前で呼んでるのに、どうしてあなたは私の名前で呼ばないの ?」
彼女は当然だというように聞いた。
そんな小事?まったく理解できない。
「じゃあ、もう一度やり直します」
私は折れた。
「おやすみ、汐里 ?」
これで合格だろう。
電話の向こうが突然沈黙した。数秒後、彼女の少し詰まりかけた声が聞こえた。
「はい…おやすみ…」
続けて「プッ」という音とともに、通話が切れた。
私は手机を見つめ、終了したばかりの通話画面には「1時間55分」の通話時間が表示されていた。
「今日は…いろんな意味で楽しかった」
私は「どん」とベッドに倒れ込み、思わず感嘆した。
一日を振り返ると、本当に夢のようで、現実感がなかった。
しかしすべては確かに起こった——入学初日に私が助けた女生徒は彼女で、私たちは隣の席になり、連絡先を交換し、同じマンションに住んでいることを知り、今夜は2時間近くも電話した。
(彼女は、私が高校に入学してから初めて追加した友達だと言っていた。)
そして、彼女の心中では、私はもう彼女の友達だった。
彼女と友達になれて本当に……
「あまりに非現実的だ……」
私は布団をかけ、手机を充電器に差し、一日の喜びと疲労を携えて、ゆっくりと眠りについた。
窓の外から差し込む月明かりが、この特別な夜に優しい句点を打った。
悩み事は彼に任せよう、私の届かない遠方へと漂っていく……
私とはまったく正反対の彼女 @Kazamiyuu
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