泣いた赤鬼と笑う鬼
タピオカ転売屋
第1話泣いた赤鬼
とある山の中に、一人の心優しい赤鬼――アカが住んでいた。アカはずっと人間と仲良くなりたいと思って
『心のやさしい鬼のうちです。
どなたでもおいでください。
おいしいお菓子がございます。
お茶も沸かしてございます。』
という立て札を書き、家の前に立てておいた。
しかし、人間たちは疑い、誰一人としてアカの家に遊びに来ることはなかった。
アカは悲しみ、信用してもらえないことを悔しがり、終いには腹を立て、せっかく立てた立て札を引き抜いてしまった。
一人悲しみに暮れていた頃、友達の青鬼――アオがやってきた。
アカの話を聞いたアオは
「オレが人間の村へ出かけて大暴れをする、そこへお前が出てきてこらしめる、そうすれば人間たちにもお前がやさしい鬼だということがわかるだろう」
という策を思いつく。
これではアオに申し訳ないと思うアカだったが、アオは強引にアカを連れ、人間達が住む村へと向かうのだった。
作戦は成功し、アカは人間と仲良くなるが、アカには一つ気になることがあった。
それは、親友であるアオがあれから一度も遊びに来ないことであった。
今村人と仲良く暮らせているのはアオのおかげなので、アカはアオの家を訪ねることにした。
しかし、アオの家の戸は固く締まっており、戸の脇に
『アカ、人間たちと仲良くして、楽しく暮らしてくれよ。
もし、オレがこのままお前と付き合っていると、お前も悪い鬼だと思われるかもしれない。
それで、オレは旅に出ることにした。
長い長い旅に出るけれども、いつまでもお前を忘れないからな。
それじゃ、体を大事にしろよ。
オレはどこまでもお前の友達だ。
アオ』
と書かれたアオの手紙が残されており、アカは黙ってそれを2度も3度も読み上げ、涙を流すのだった。
―――――
さてさて――ご存じの方も多いでしょう、「泣いた赤鬼」というお話を。
心のやさしい赤鬼と、その友だちの青鬼。
けれどもねぇ、世の中というのは不思議なもので、
どんな話にも続きというものがあるのです。
そう、旅に出た青鬼――その後の話がね。
それでは、はじまり、はじまり〜!
――――
さて……飛び出して来たものの行く当てはなし、どうしたものかと思案するアオだったが、やがて妙案を思いつく。
「そうだ! 黄鬼――キイのところに行ってみよう! アイツ、元気にしてるだろうか? 」
そうして意気揚々と歩きだしたアオだったが、行く手を男達に阻まれた。
「村で大暴れした青鬼だな、逃がしはせんぞ! 」
男たちは手に手に鎌や鍬を握りしめ、足もとで砂利がかすかに鳴った。
その目は、氷のように冷たく――恐れと怒りがないまぜになっていた。
アオは腕を組み、ひとつ深く息を吐いた。
「……オレはもう、暴れるつもりなんかねぇんだがな」
そう言って両手を上げる、だが男たちは一歩も引かない。
恐怖と怒りが入り混じった顔。
あの日の芝居が、いつのまにか真実として語られるようになっていた。
「来るな!」
「また村を焼く気だろう!」
アオは、苦笑した。
――これでいい。これでアカは、もう疑われることはない。
アオは、男達を睨みつけながら、歩きだした。
ひっ! と声をあげ、男達は後ずさる。
そのまま、男達をやり過ごす……だが、その背中に投げられた石が、頬をかすめた。
流れた血を見た瞬間、アオの胸に、何か熱いものがこみ上げた。
「オレは……本当に悪者になっちまったのか?」
その言葉を風がさらい、どこか遠くで木の葉がざわめいた。
アオは、乾いた笑みを浮かべ
「信じてもらうために、嘘をついた。
なのに、嘘をついたせいで、信じてもらえなくなった。
……おかしな話だな。」
やがてアオは、重い足を引きずるようにして森の奥へと消えていった。
――黄鬼の住む山は、まだ遠い。
けれど、その旅こそが、青鬼の本当の物語の始まりであった。
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