第28話【暴徒】


(某国・管制室)


「へっ! NCFの犬が──くたばりやがれ!」


倒れたタクシのニューロアーマー。

その映像を映すモニターに向かい、若い管制士が声を荒げた。


「おい、AIテブンズの管制士が騒ぐな!」


背後から鋭い声。上官らしき男が低く叱責する。


「も、申し訳ありません!」


慌てて姿勢を正す管制士。


「俺たちの目的は純テブンズじゃない。あくまでもゾリウムの確保だ。」


「隊長、自然区のEAF警護AIが復旧しました! AIコンテナはゾリウム搬入を終えたところです!」


「よし、もう一体来る前にゾリウムを確保して退却しろ! 高い金で上がNCFから買い取ったんだ。回収失敗は重罰だぞ!」


「了解!」


若い管制官が慌ただしく指を動かす。


ピピピピッ──。


「純テブンズ、接近中!」


「なっ!? いくらなんでも早すぎだろ! あとどれ──」


ドォォォォン!!


凄まじい爆音。モニター映像が掻き乱され、光が走る。



(EAF・先住区エリア3)


「……なんだこりゃ、嘘だろおい。」


倒れたタクシのニューロアーマーが、巨大な影に覆われていた。

見上げれば、そこには十メートルに膨張したニューロの鉄塊がそびえ立つ。


「タクシ! ササナが暴徒化してる、今すぐそこから離れて!」


エリカの通信が入る。


「サスッ……ササっ?!」


タクシの呂律が回らない。

(な、なんだ? うまく体が……動かねぇ!)


深緑の装甲は、息づくように膨張と収縮を繰り返していた。

まるで複数の生物が一つに溶け合ったかのように。

その中で、時折小さな気泡が破裂し、胞子のような粒子が淡く飛び交う。


ドォォン!!


その巨躯は、足元の漆黒のテブンズへ──

拳とも塊ともつかぬ腕を叩きつけた。地面が裂け、周囲が震動する。


次の瞬間、上空から一機の戦闘機が急降下。

ゾリウム工場のコンテナにチェーンを撃ち込み、再び急上昇する。


ガシャンッ!


ササナの巨腕がチェーンを掴んだ。

鉄が悲鳴を上げ、戦闘機が強引に引きずり降ろされていく。


「タクシ!……え? なに、ちょっと待っ──」


エリカの通信が、不自然に途切れた。


(なんだ!?……チッ、考えてる暇はねぇ!)


タクシは立ち上がるが、途端に尻餅をつく。

(なんでだ!?)



(某国・管制室)


「なんなんだ、このバケモノみたいなテブンズは……退避させろ! AI機体を奪われるな!」


「し、しかし! AIテブンズの様子がおかしいんです! 動きが鈍くなっている様で……!」


「なんだと?」



(EAF・先住区エリア3)


倒れた漆黒のテブンズが、震えるように空へ手を伸ばしている。


次の瞬間、戦闘機はチェーンを外した。


ジャキン──ドスゥゥゥン。


上昇しかけたコンテナが地に落ち、解き放たれた戦闘機は上空へ消える。


ガッ……ドォォン!


ササナの拳が漆黒の機体を蹴り飛ばす。

建物に激突し、黒煙が舞い上がる。

そのまま掴みかかる巨躯──。


ザンッ! ……ズゥン。


ササナの右腕が肩から斬り落とされた。

切り口から、胞子のような物質がふわりと舞い上がる。


「ササナくん!!」


ケイトの刀が、ササナの装甲を切り裂いていた。

ハーグレスが巨体の内部に、ササナの姿を捉える。


ザンッ! ……ズゥン。

続けざまに左腕を斬り落とすケイト。

再び、緑がかった胞子が光を帯びて舞う。


「ササナくん! 目を覚ますんだぁぁ!!」


その間に、漆黒のテブンズが息を引き取るように活動を停止する。


シュゥゥゥウウ……。

煙を上げ、項垂れるように縮小していくササナのニューロアーマー。


ギギギギ……ッ。

ケイトが斬り口から装甲をこじ開ける。


焦げた空気の中で、微かに動くササナの姿が覗いた。


「ササナくん……! ササナくん!!」


煙が晴れ、音の消えた世界で──

ケイトの呼ぶ声だけが、焦げた風と胞子の中に響いていた。

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