桔梗レンジャー
キキョウレンジャーは、正義の味方の五人組で、そして無敵なのである。
リーダーは、レッド・キキョウなのである。
こいつは怪力の持ち主で、どれほどかというと、百キロのベンチプレスを片手で軽々と持ちあげてしまうほどの、まさに正義の超人と呼ぶに相応しい快男児なのである。
ただ、性質に少なからぬボケが入っており、事件現場に急行する途中、例えば大阪へ向かうのに東名自動車道を東京方面に走っていたりするため、到着するのはいつも事件から数日後で、当然の如く現場はもぬけの殻だったりする。
サブ・リーダーは、ブルー・キキョウ。
彼はまさに達人、合気道及び柔術の諸流派をマスターした師範代であり、パワーはないものの、技によって確実に敵の息の根を止める。瞬殺のブルーと、仲間内では呼ばれている。
ただ、彼は大層ギャンブルが好きで、緊急の呼び出しが入っても、たいていパチンコや雀荘に入り浸っており、しかも賭け事にはてんで弱いらしく、常にボロ負けしているため、つい熱くなってしまい、勝つまではやめられんと、緊急の呼び出しを無視しまくるので、いまだ事件現場に赴いたことは一度もない。
紅一点は、ピンク・キキョウだ。
彼女は、上記の二人とは違って実に真面目な隊員であり、連絡が入れば、警察よりも早く現場に急行する。いわば自己犠牲の精神に溢れた、まさに正義のレンジャーの優等生なのである。
ただ、ひどくアガリ性なため、敵を見ると体がガチガチになってしまい、蛇に睨まれた蛙の如く竦んで動けなくなり、だから変身する前に、悪の組織の戦闘員によって、その他大勢の一般市民と一緒に道端へ投げ捨てられる。事件が終わった後、またやられてしまいましたエヘって、笑顔がチャーミングなのである。
イエロー・キキョウは、隊のムードメイカーである。
いくら正義の味方とはいえ、戦闘を生業としているため、つい刺々しくなりがちなキキョウレンジャーであるが、彼の底抜けの陽気さによって、広く市民の支持を得られるのである。実力も、元プロレスラーの芸能人の付き人をしていただけあって、なかなか捨て難いものを持っている。
ただ、彼はひどく心配性で、家を出たら、あら、玄関の鍵を掛けたかしらん? と不安になり、百メートルほど行ってからまた戻って施錠を確認、ああ良かった施錠してあった、って、また百メートルほど行ってから、あ、そうそう、ガスの元栓を締めたかしらん? と不安になり、また戻ってガスの元栓を確認し、ああ良かった捻ってあった、って、また百メートルほど行ってから、あ、しまった、さっき僕は燃えるゴミを出しのだが、今日はプラの日だったかしらん? と不安になり、また戻って……。
と、このようなことを延々と繰り返し、現場に赴いた時は既に事件は終わっている。北風の吹き荒ぶ中、また遅刻してしまいましたエヘって、笑顔がチャーミングなのである。
一匹狼のパープル・キキョウは、闇の力を持つ怪人である。
なんでも幼少の頃、天狗に手ほどきを受けたという謎の経歴の持ち主で、その気になれば、怪力無双のレッドとマスターであるブルーを同時に相手しても、余裕であしらうほどの魔人なのである。
ただ、魔人だけに心の闇が深く、直前までは俺は正義の味方として頑張るのだと自分に言い聞かせるのだが、いざ現場へ急行せよとの緊急指令が入ると、俺は所詮魔人、正義の人にはなれぬのだと卑屈が入り、また、敵に裏切り者呼ばわりされるのも怖く、悶々とするうち、ついTVゲームなどをして現実逃避してしまい、半ば意図的に指令をすっぽかす。だいぶ、引きこもりの気があるんである。
「みんな、こんなことではいけない、もっと頑張ろう」
なんて、ミーティングでは実に前向きに反省をするキキョウレンジャーの隊員たちなのだが、舌の根の乾かぬうちにすぐ誓いを忘れ、また同じことを繰り返し続ける。
しているうちにはや、悪の組織ブラックレトリバーズは世界の大半を手中に治め、しかし彼らは、未だ、キキョウレンジャーの存在すら知らない。
キキョウレンジャーは今日も悪と戦う。
いや、悪と戦う気持ちだけは、人一倍なのである。
大事なのは、ハートさ。
いや、実力だって、人一倍である。
発揮できないだけで。
「まあ、いっても、世界を全て征服されたわけではあるまい、まだ可能性は残っているさ」
などとキキョウレンジャーは、この期に及んで依然として前向きであり、よって、地球がブラックレトリバーズに征服されるのは、時間の問題かと思われる。
ある意味、本当に無敵なのである、キキョウレンジャー。(完)
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