第2話 魂契約《ソウル・リンク》

 夜の冷気が静かに流れていた。

 帰宅した相沢誠司は、玄関で深く息を吐いた。

 国営第七ダンジョンでの異変。隠し部屋、祭壇、氷の刀、そして卵。

 すべてが現実とは思えぬ出来事だった。


「ただの探索のはずが……厄介なもんを拾ったかもしれんな」


 

呟きながら、彼は収納腕輪から淡い光を放つ卵を取り出す。

 手のひらより少し大きい。表面は土のような色合いで、ところどころに光の筋が走っていた。

 熱はないが確かに“生命の気配”がある。


「誠司、それ……まさか持って帰ってきたの?」


 台所から母・芳子が顔を出した。

 エプロン姿のまま、驚きと好奇心の混じった表情をしている。


「ああ。放っておくのも気味が悪くてな。……しばらく観察する」

「ふふ、あなたらしいわね。危険なものじゃないといいけど」


 誠司は縁側に布団を敷き、卵をその上に置く。

 魔力の揺らぎを感じ取りながら、そっと掌をかざす。

 氷魔法を微かに緩めて温度を調整。彼の指先から淡い青光が流れ、卵の表面を優しく包み込んだ。


「……ふむ、温めるより“安定させる”のが正解か」

「孵るの?」

「わからん。けど、生きてる」


 芳子は微笑む。

「じゃあ、名前でも考えておかないとね」

「……まだ早いよ」

「誠司は昔から慎重ねえ」


 そんな何気ない会話が家に温もりを戻していた。



 夜半。

 誠司はちゃぶ台に広げた報告書を閉じ、静かに縁側を見やった。

 卵は淡く光り続けている。

 そのリズムはまるで心臓の鼓動のようだった。


 外は虫の声。風鈴が小さく鳴る。

 こうして夜を過ごすのは久しぶりだ。

 ここ数年、ダンジョン探索は“運動”であり“日課”であり、特別な感情を抱くことはなかった。

 だが今夜は少し違う。


 自分が生きている時間が、誰かの命を守るためにあるような気がした。



 翌朝。

 陽光が障子を透かし、部屋を照らす。

 芳子が味噌汁をよそいながら声をかけた。


「誠司、卵、まだ動かないの?」

「……いや」


 言いかけた瞬間、

 ピシリと乾いた音が響いた。


 視線の先で、卵の表面に細い亀裂が走る。

 そして……。


 モゴ……モッ。


 柔らかな鳴き声。

 殻がゆっくり崩れ、丸い毛玉が顔を出した。

 ふわふわとした灰茶の毛、つぶらな黒い瞳。

 体長は50センチほどの小動物。


 誠司は息を呑む。

「……ウォンバット型の魔獣?」

「まぁ、なんて可愛いの!」


 芳子が手ぬぐいを取り出し、毛玉をそっと包む。

 温かい。小さな命が掌の中で震えていた。


 生まれたばかりの魔獣は、目を細めながら誠司を見上げる。

「モ……モモッ」

「俺に……話しかけたのか?」

「モモモ!(おなかすいた)」


 理解不能な鳴き声なのに意味が“伝わる”。

 心の奥に直接響くような感覚。


 その瞬間、誠司の胸が青く光った。

 手の甲に浮かぶ氷の紋章。

 そして、毛玉―ウォンバットの額にも同じ紋が刻まれていく。


魂契約ソウル・リンク》成立。


 空気が震え、温かい波が身体を駆け抜けた。

 心臓の鼓動が二つ重なり合う。

 意識の奥で言葉にならない声が響いた。


 ―ありがとう。

 ―これから、いっしょ。


 その瞬間、誠司は微かに笑った。

「……そうか。よろしく頼む、モコ」

「モモ!(よろしくね!)」


 芳子は目を細める。

「モコ、いい名前ねぇ。あなたがつけたの?」

「口から出ただけだ」

「ふふ、きっとその子が“そう呼ばれたい”って言ったのよ」



 モコの世話は思った以上に大変だった。

 食事は柔らかい野菜と果物。

 好物は焼き芋で、芳子が焼くと「モモモモ~!( やきいも〜! )」と転がり回って喜ぶ。

 だが何より驚いたのは綺麗好きなことだった。


 朝から畳を拭き、玄関の土を鼻で押し出し、畑の雑草を器用に引き抜く。

 そして風呂が大好き。


「モコ、また入ってるのか?」

「モ~( いる〜 )」

 湯船の縁に顔だけ出してぷかぷか浮いている。

 時々鼻に湯が入って「モゴッ」とむせる。


「誠司、あんたより風呂好きかもね」

「……溺れるぞ」

「でも、楽しそうよ」


 湯上がりのモコは、ふわふわの毛をタオルで拭かれるのが大好きで、その度に芳子の膝で丸くなり、《モフヒール》を発動してしまう。


 彼女の肩の痛みが取れ、腰の重さが消える。

「まあ……楽になったわ。誠司、この子、治癒魔法を使えるのね」

「回復系か。……土属性にしては珍しいな」

 誠司は腕を組み、モコの頭を撫でた。

「助かるよ。母さんのマッサージより効く」

「モモ!(もっとする!)」

「……遠慮しとく」



 日が暮れる頃、誠司はいつものように明日の資料をまとめていた。

 モコは机の上で丸くなり、時折「モ」と寝言を漏らす。

 その毛並みはまるで小さな暖炉のように柔らかく、

 静かな青光を帯びていた。


「……魂契約か」

 彼は独りごちる。

 これまで数多の魔物や魔具を扱ってきたが、

 “心を通わせた”存在は一度もいなかった。


 ダンジョンも仕事も、常に“日課”でしかなかった。

 だが、今回は違う。


 この小さな命が自分の世界を少し変えてしまった気がする。



 翌朝。

 出勤の支度をしていると、玄関でモコが不安そうに鳴いた。

「モモ……(いっちゃうの?)」


「ああ、仕事だ。すぐ戻る」


「モ……( うん…… )」


 寂しげな鳴き声に芳子が抱き上げる。

「モコ、誠司は夕方には帰ってくるわよ。一緒にお昼寝しましょう」

「モモ!(わかった)」


 誠司は軽く頷き、ドアの外に出た。

 朝の光の中、ふと振り返る。

 縁側から小さな顔が覗いていた。


「モ~!( いってらっしゃい! )」

 毛玉が両手(前足?)を振る。

 思わず口元が緩む。

「……行ってくる」


 SUVのエンジンをかけ、坂道を下る。

 ミラーの向こうでモコが小さくなっていく。


 それでも彼は不思議と胸の奥が温かかった。

 ダンジョンも、仕事も、何かが違って見える。

 日常に新しい鼓動が加わった。そんな朝だった。



 その夜、帰宅した誠司を玄関で待っていたのは、

 芳香を放つ焼き芋とタオルを巻いたウォンバット。


「モモモ!(おかえり!)」

「……ただいま」


 足元に擦り寄る毛玉の温もりが、氷のような日常を、少しずつ溶かしていった。



◆相沢誠司のステータス

相沢 誠司(あいざわ せいじ)

ジョブ: 《収格納士ストレージマスター》/氷術士

属性: 氷・無(+土・癒共鳴)

性別: 男

年齢: 50歳

レベル: 43 ↑(モコとの魂共鳴による微上昇)

HP: 757 / 757 ↑

MP: 823 / 823 ↑

筋力: 160 ↑

敏捷: 146 ↑

耐久: 140 ↑

知力: 165 ↑

精神: 172 ↑

運 : 78 ↑


■ 新特性・補正(NEW)

•《魂共鳴補正》:契約従魔モコの魔力循環と共鳴。精神+12%/MP回復速度+20%/状態異常耐性+15%。

 モコが癒し魔法を使うと誠司にも軽い再生効果が及ぶ。

•《癒土波動(リンク・リジェネ)》:一定距離内にいる間、土属性回復魔法の効果を受けやすくなる。地面に立っている状態では疲労回復速度が上昇。


■ 状態(NEW)

魂共鳴率:55%

1.魔力循環安定/精神波同調完了

2.モコが離れていても軽いテレパス通信が可能


■ スキル/魔法

•《収格納(ストレージフィールド)Lv6》

 空間を生成・圧縮・保存する高度収納術。時間停止領域を併設でき、物質・生体・魔力波を保管可能。戦闘中の「素材即時回収」や「罠無効化」にも応用される。

•《解析収納Lv5》

 収納対象を即座に解析・分類・ラベル化。未知の素材も魔素構造から自動判別。

•《氷流一閃Lv5》

 一閃の軌跡に氷魔力を凝縮し、敵を一瞬で凍結・粉砕する抜刀術。

 氷刃の残滓は数秒間持続し、範囲内にいる敵の動きを鈍化させる。

•《氷域結界(アイスドメイン)Lv4》

 広範囲を瞬時に氷結させ、敵の行動を制限。魔力消費は大きいが、持続中は氷属性魔法の威力上昇。

•《静水の構えLv3》

 水流の如く揺るがぬ構え。物理・魔法ダメージを軽減し、反射効果を付与する。

•《氷盾障壁Lv4》

 氷魔力を結晶化して盾を形成。耐久性能が高く、衝撃吸収率は通常盾の数倍。

•《凍結圏(アイスリング)Lv3》

 周囲に氷の輪を展開し、踏み込む敵を自動的に拘束・鈍化させるトラップ系魔法。

•《極冷斬・氷霞ひょうか

 新たな刀に吸収された氷核の力を解放する必殺技。斬撃と同時に極低温の結界を展開し、空間ごと封絶。 “時間を止めたような静止”を生むが、使用後は一定時間、魔力循環が鈍る副作用がある。

•《霜華癒流(フロスト・ヒール)Lv1》(NEW)

 モコの癒魔力との共鳴で発現。氷魔力を媒介にした治癒魔法。軽度の傷・疲労を凍結鎮静し再生させる。冷気が痛みを和らげる効果を持つ。


■ 装備

•《氷霞刀(ひょうかとう)》A+級

 冷気を纏う青銀の刀。元の刀を吸収し、氷精の核と融合した特異武装。

 攻撃+65/氷属性攻撃+30%/水属性適性上昇。

 特殊:魔力同調時、使用者の魔力総量に応じて刀身構造が変化(「流刃」「凍刃」「鏡刃」など)。

•《探索者戦闘衣〈ナイトシェル・コート〉》A級

 見た目は地味な黒コートだが、内部に魔力繊維を織り込み、氷魔法耐性+50%・土耐性+30%。

 戦闘時、自動で温度調整・防護結界を発動する。

•《収納腕輪〈アーク・ストレージ〉》A+級

 収格納ストレージフィールドと連動した魔導装具。最大収納容量1.2km³、時間停止効果付き。

 収格系スキルとの親和性を上げる。

•《防魔脚具〈グレイザー・ブーツ〉》B級

 滑り止め+魔力増幅機能。氷上での移動時、加速度が1.5倍になる。 10/知力+5)


■ 装備補正(NEW)

•《氷霞刀》がモコの魔力に反応し、刀身内に微弱な土光核を生成。

 氷魔法使用時、地面からの反発力を吸収して反撃力+10%上昇。



◆モコのステータス

名前: モコ

種族: 土棲獣族モルボン・ウォンバット※変異種

属性: 土・癒

性別: ♀

年齢: 2歳(孵化換算)

レベル: 1

HP: 153 / 153

MP: 162 / 162

筋力: 59

敏捷: 46

耐久: 114

知力: 69

精神: 106

運 : 84


■ 新特性・補正(NEW)

•《魂共鳴補正》:誠司とのリンクにより、氷属性魔力に対する耐性+20%。氷術士の魔力波動を一時的に共有でき、行動反応速度+10%。

•《癒導連環リンク・モフヒール》:誠司を中心とした半径10m以内で《モフヒール》発動時、対象が複数でも効率が低下しない。リンク対象に優先補正が入る。


■ 状態(NEW)

魂共鳴率:55%

1.誠司の魔力循環に追従。離れていても微弱な感情通信が可能。

2.戦闘時、誠司の氷魔法の発動タイミングを感知し、自動で防御陣を展開できる。


■ スキル/魔法

• 《地形変動(アースシェイプ )》Lv2》

 地形や地層を自在に操る基礎土魔法。畑の耕作や岩盤成形にも応用できる。

 精密制御が得意で、掘削時は周囲を傷つけない。

• 《大地の壁(アースウォール)》Lv2》

 土魔力を硬化させ、誠司や自身を包む防御壁を展開。魔力密度に応じて岩壁・鉱壁へ変質。小型ながら防御性能は高い。

• 《土壌再生(ソイルリジェネ )》Lv1》

 汚染・枯渇した土壌を浄化・再生させる。畑を肥沃化し、植物の成長を促す。

 家庭菜園では奇跡の効果を発揮。母・芳子のお気に入り。

• 《癒毛いやしげLvMAX》

 触れた者の心を鎮め、疲労やストレスを軽減。

 触り心地は規格外(触り心地+999)。過度な接触は“モコロス”を誘発する。

• 《モフヒールLv2》

 モコの毛並みから発生する癒し魔力を媒介に、対象を包み込んで回復する特殊魔法。

 HP小回復+精神回復(大)+幸福度上昇効果。

 「モモモ……」という独特の詠唱が特徴で、聞くだけでも癒し効果がある。

• 《土精共鳴(アース・ハーモニー)》Lv1

 地属性との親和性を高め、地中の魔力流や罠、鉱脈を感知できる。

 戦闘時には地面を震わせて敵の足取りを鈍らせる補助効果。

•《土氷結合(アース・フロスト)Lv1》(NEW)

 誠司の氷魔力と共鳴し、攻撃魔法を冷却変質。

 石弾・土槍などに凍結付与効果を得る。

 土の防御壁に冷気を纏わせ、物理攻撃を減衰させる。


■ 装備

• 《ふかふか毛皮》

 天然装備(地毛)。高い防御力と耐熱・耐寒性を併せ持つ。魔力伝導性があり、回復・土属性魔法の媒介として機能。

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