第6話 恋愛探偵、電波に乗る

「黒田さん、ほんとに出るんですか。

 これ、生放送ですよ?」


「生がいいんだよ、生が。恋も放送もアレも!」


(お決まりの下ネタをさりげなく入れんなよ…)



FM局「ラジオ・ハートステーション」。

俺と黒田さんは、控室で

ディレクターに説明を受けていた。


「番組タイトルは『恋のコンセント』。

 テーマは“恋の停電をどう乗り越えるか”です」


「いいテーマだな。停電中こそ、探偵の出番だ」


「いや、停電関係ないだろ…」


ディレクターが苦笑いして去ると、

黒田さんはやたらテンション高く立ち上がった。


「よし、ハルトくん。

 今日の俺は“愛の配電盤”だ」


「…そっすか…」



そして本番。

スタジオにはパーソナリティの女性MC、

軽快なジングル、そして黒田さんの

“異様な落ち着き”。


「本日のゲストは、“恋愛探偵”の

 黒田ジョージさんです!」


「よろしくどうぞ。恋の現場から来ました」


(自己紹介が刑事ドラマみたいになってる)


MCが笑いながら質問する。


「では早速、“恋が冷めた瞬間”って

 どんな時だと思います?」


黒田さん、即答。


「相手のLINEが“了解です”で

 終わった時ですね」


「…妙にリアルですね?」


「“了解”には“愛を了解してません”の

 ニュアンスが含まれていることがあります」


「そんな深読みあります?」


「ええ、恋の文末にこそ真実がある」


(こいつほんと、ポエム寄りなんだよな…)



リスナーからメールが届く。


《質問:彼氏がデート中ずっとスマホを見てます。どうしたらいいですか?》


黒田さん、また即答。


「GPSをつけるしかないです」


「だめです!!」


MCが慌てる。

俺も慌てる。


「え、えーっと、探偵的な意味ではなくて?」


「ああ。恋は“位置情報共有”が基本ですから」


「いや、ほんとに

 ストーカーみたいに聞こえますよ!」


MCがなんとかまとめる。


「えー、黒田さんは“相手の気持ちの位置を知ることが大事”と、そういう意味ですね?」


「…フォロー力が恋愛偏差値高いですね」


(褒めてる場合じゃねえよ)



番組中盤。

MCが笑いながら尋ねた。


「黒田さん、ご自身は恋愛は

 うまくいくタイプですか?」


黒田さん、わずかに間を置いて言った。


「…いえ、探偵はいつも現場に置き去りです」


一瞬だけスタジオが静かになる。

黒田さんが真顔で続けた。


「他人の恋を見届けるうちに

 自分の恋の温度を忘れるんです。

 でも、それでもいい。

 誰かの恋が灯るなら、俺は暗闇で見張ってる」


(急にカッコいいなこの人)


MCがうっとりして言った。


「…今日いちばん心に刺さりました」


「ありがとうございます。

 恋の遺体処理班としての誇りです」


(さっきのが台無しじゃねえかよ!)



番組終了後。

控室で俺は黒田さんに言った。


「黒田さん、思ってたより

 反響あったみたいですよ。

 Twitter(X)で“#恋愛探偵かっけぇ”って

 トレンド入りしてます」


「ふふ…時代がやっと俺に追いついたな」


「いや、途中ほぼ炎上してましたけどね…」


「恋は炎上から始まるんだよ」


「…」



帰り道。

街の明かりの中、

黒田さんが少し真面目な声で言った。


「…ハルトくん。ラジオって不思議だな。

 誰かの声が、誰かの夜を救ってる」


「黒田さんも救えたと思いますよ。

 少なくとも“笑い”という意味では」


「笑いも愛の一種だ。

 痛みを笑えるようになった時、

 人はやっと恋を許せる」


(…またかっこいいこと言うんだよなぁ)



──恋愛探偵・黒田ジョージ。

 今夜も公共の電波で、恋の現場報告中。

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