カス短編連作 [魔法少女と自警団 ~滅亡へのカウントダウン~]

@hakuentou

ノストラダムス

俺が生まれる随分前に、世間ではノストラダムスの大予言なるものが流行ったらしい。なんでも、1999年に恐怖の大王が降臨して世界を滅ぼすって話だ。2000年問題なんてのもあったらしいし、破滅的な妄想をするならネタに事欠かなかったんだろうな。あくまで推測だけど。


厨二病に走った時代がある。

当時の俺は世界がある日突然滅亡すると本気で信じていた。

ある日奇妙な夢を見て、それが予知夢であるとして疑わなかった。そいつは未だに鮮明に残っていて、まるで夢であるように思えなかったのだ。

滅亡が起こる具体的な日付も割り出していて、そして終活に勤しんでいた。学校なんて放り出して、自分が世界に遺せる証を求めて散々考えあぐねていた。もちろんノストラダムスについては知っていたし、そっちは当然信じていなかったのだが、俺のその滅亡論については特別だと思っていた。この予知夢は必ず現実になると、信じて疑っていなかった。

そうして数年間終活に勤しみ、人生に暗雲が立ち込めた頃、ようやく俺は自分の予知夢が全くの幻想であると認め、後悔した。

そこには、幼稚な虚無主義に陥って不登校に陥り、やがて中卒のまま職務経験もなく成人を迎えたニートが、のうのうと惰眠を貪っていた。まるで再び予知夢と邂逅することを待ちわびるかのごとく。


あの頃、俺が見た夢の話をしよう。中学時代に見た、忌々しい夢だ。

その夢は、布団から目を覚ますところから始まる。

妙に体が重かった。空は晴れていて、生暖かい気温。枕元に置いてあるデジタル時計は午前8時を表示していた。辺りを見渡すと、薄汚れていることを除けば俺の部屋だ。パソコンもスマホも見慣れない形状をしていたので、俺は明確に当惑した。鏡を見るために、部屋を出て階段を降り、洗面所に向かった。

鏡に映る顔は無精髭を垂らした痩せぎすの男で、俺と随分似た目鼻立ちをしていたが、中学時代の俺と比べると大人びていた。もしかして俺は未来に迷い込んだのかもしれないと思い、胸が踊った。

外に出てみようと、布団を敷いたままの自室に戻り、くたびれた安っぽい服を選定して着替え、当時の俺からすればスタイリッシュなスマホを握り、玄関へ向かった。

扉を開けようとした瞬間、手元のスマホが振動する。着信が来たようで、画面には電話番号が表示されている。登録している連絡先ではないらしい。

まあ、これは夢だ。躊躇する理由もないので、とりあえず出てみる。

「えっと…もしもし」

初めて声を出した。自分の声とは思えないほど低い声だった。

「さて、どうやら目覚めたみたいだね。外が気になるかもしれないけど、ひとまず待って欲しい。一旦僕の言うことに従ってくれないだろうか」

声変わり前の少年のような声だった。それにしても奇妙な事を言っている。突然電話をかけてきたと思えば、まだ外に出るな、言うことに従えと頼んでくる。

何者だろうか、まずは聞いてみることにするか。

「どちら様でしょうか?」

「失敬、君はまだ僕のことを知らないんだったね。でもすまない。一刻を争う事態なんだ」

なるほど、それは興味深い。付き合ってみようじゃないか。

「わかった、じゃあ聞かない。さっさと要件を教えてくれ」

「話が早くて助かるよ。まず、自室に戻ってほしい」

また階段を登るのか。体が重いから地味に疲れるんだが、乗りかかった船だ。

「なぜ…って聞くのは野暮なんだろうな。了解」

と言い、履いていた靴を脱いで自室に駆け戻った。少し息が切れる。

「ごめん、吐息が聞こえて気分が悪いんだけど。なんのつもり?」

こいつよく喋るな。

「あんたの指示を催促しているといえばいいか?」

「ほほう」

ほほうじゃねえよ。

「気に障ったかな?」

こっちの心を読むな。気持ち悪い。

「ごめんごめん。君の内部に直接アクセスしてる都合上、どうしても君の声が聞こえてしまうものでね」

「なんだそれ」

変なことを言う奴だ。

「後で説明するよ。じゃあ、パソコンを開いてくれる?」

「ちょっと待て」

スマホを机に置いて、スピーカーモードに切り替えておいた。

「いや、パソコンのパスワードなんて知らないぞ?」

「大丈夫、今の君が使ってるスマホと同じコードを打てばいい」

「なんだ、そいつは随分と都合がいいし、ザルだな」

「君のことは君自身が一番よく知っているはずだけどね」

「それもそうかもな。あ、ロック解除できたぞ」

「了解。じゃあちょっと面倒なんだけど、渋谷スクランブル交差点の定点カメラを検索してくれ」

「妙に具体的だな。何がある?」

「見れば分かるさ。いや、見てくれなければ困るんだ」

「そうか」

適当に流して検索画面を開く。

「あの、もっと早く打てないかな?時間がないんだけど」

「生憎パソコンは使い慣れてないんだよ」

適当な検索ワードを打ってエンターキーを押すと、検索結果が出る。見慣れたスクランブル交差点の画像が並んでいた。一番上にライブ放送中の表記。100万人が視聴中と書いてある。

「検索したぞ」

「じゃあそれをクリックして再生ね」

「それって、100万人が視聴中のやつで合ってるか?」

「そうだけど」

「やけに多くないか?」

「だからこそなんだ、早くクリックしてくれ」

「まあ、わかったよ」

そうして再生画面に移行する。動画内では土煙がカメラを包んでいて、交差点がまるで見えなかった。風がふぶくような轟音がスピーカーから鳴っている。右端にチャット欄が配置されているが、コメントが目まぐるしくうごめいていた。

「おい、なんだこれ、どうすればいいんだ」

返事がない。何が起きている?スマホの画面を確認すると、通話が切れていた。

「どういうことだ…」

再度パソコンに目を移すと、土煙が去っていて、紫色の空が広がっていた。交差点の真ん中で、ピンク色のフリルを着た少女が一人。膝を押さえ、うずくまっている。アスファルトには、先端に大きなハートのついたステッキが転がっていた。どうやら少女は魔法少女のようだった。ふと、少女の顔がカメラへ向いたかと思えば、ステッキを握って飛び跳ね、こちらへ近づいてくる。

少女はカメラを見ながらこういった。

「ねえ、ジョウ。もしかしてそこにいるの?起きてるんだったら連絡して。こっちもそろそろ限界なんだけど」

そういえば俺の名前を言っていなかったな。俺は黒田錠って名前だ。錠の読み方は、錠前のジョウだ。つまり、彼女は俺の名前…と思しきものを呼んだことになる。

今の俺を取り巻く状況から推測するに、少女は俺のことを呼んだのだろう。だが、連絡すると言ってもどうすればいい?俺は彼女の名前を知らない。連絡先が手元のスマホに入っていても、名前がわからないのでは連絡しようもない。とりあえずさっきの奴に履歴から発信してみるか。

そう思ってスマホのロックを解除し、アプリから履歴を辿って電話をかけてみたが、使われていない電話番号としての音声が鳴るだけだった。まあ、予感はしていた。

ここで悶々としているのも癪だ、渋谷に向かってみよう。渋谷は東京だから、まず新幹線に乗る必要がある。切符を買わなければならない。つまり、金が必要だ。今自分が見ている景色は鮮明すぎるし、おそらく夢のようにテレポートはできないだろう。

ダメ元で念じてみたが、やはり何も起こらない。夢ならばどれほど良かったでしょう。

どうしたものか。

そういえば、なぜ電話で外に出ることを止められたのだろうか。俺が外に出ると何かが起こる可能性があるのかもしれない。外に出るべきではないのか。

時間がない、という発言も気になる。時間切れで奴の電話が切れたのならそれでいいが、俺がこの世界に留まれる時間に限りがある事を意味しているのなら、悠長に新幹線に乗っている時間はないだろう。

外に出られないとなると、部屋の中で完結させるしかない。堂々巡りだ。

もう一度スマホを確認してみることにした。俺ならきっと女と連絡先など交換できないから、あの魔法少女の連絡先だけ例外的に登録しているかもしれない。

メッセージアプリの中に、サクラという連絡先が入っている。身内を除き、女と思しき名前はこれだけだった。流石にメッセージを送信しても見る余裕はないだろうから、発信してみる。

ふと、パソコンの画面を見てみる。

「あ…」

さっきの少女が仰向けになって倒れている。死んでないだろうか?

数コール待ってみるが、一向に電話は出ない。

30秒ほど待つと、ガチャリと音が鳴り、声が聞こえた。

「ねえ、ジョウ。君がモタモタしてる間に死んじゃったんだけど」

さっきの少女の声だった。これまた何を言っているんだ。

「あー、なんで死んだのに電話に出られるんだ?」

「今更そんなこと聞く?冗談はいいから早く蘇生して」

「どうやって」

「知らないよ。私は知らないけどジョウはいつもやってるでしょ」

「それなんだが、今の俺、中学生なんだよね」

「は?でも、ジョウがそう言うならそうなんだろうな…」

しばし沈黙が続いた。サクラが喋りだす。

「もしそうだとして、今の状況は相当やばいんだけど」

「なぜだ」

「私が復活できないとなると―」

サクラは少し言葉を噤んだ。何を躊躇っているんだろうか?

「となると、どうなるんだよ」

「君は巻き込まれただけだろうから、詳しく説明しても分からないと思う」

「そんな配慮は特に求めてないから教えてくれないか」

「私の方が面倒なの。まあいっか。うーん、単刀直入に言うと、この世界が滅ぶ」

「そうか」

「いや、そっか、じゃなくてさ。私からすれば緊急事態なんだけど」

「いまいち実感がわかないんだよ」

「じゃあ実感を持って。で、なんで滅ぶのかっていうと、今…えっと…怪人って言えば良いのかな。そんな感じの敵対勢力の侵攻が進んでる中で、唯一の戦力は私なんだよね」

「そのあんたが死んで、蘇生担当の俺はどういうわけか中学生に退行して何もできない」

「だからまずいの。今のままだと多分、数分後には地球が爆発するよ?」

「じゃあこの夢は爆発オチってわけか。よくできてるな」

「いや感心してる場合じゃなくて。君が夢としてみているこの現実は、君から見た未来なんだよ?君は実感を持てないって言ってるけど、夢みたいに曖昧な感覚じゃないのが何よりの証拠」

「これが現実になる?そんなわけないだろ」

「お願い、信じて。私たちはこのまま吹き飛んじゃうけど、君のいる時間軸はまだ挽回できる」

「挽回するったって、今何が起きてるかもわからないのにか?」

「それはなんともいえない。けど、未来を垣間見た君なら、少しでも結果は変えられる」

部屋に熱気が漂ってきた。猛暑日どころじゃない、これじゃサウナだ。

「えっとサクラさん、これどうすればいいんだ?すごい暑いんだが」

「多分ここまでなんだと思う。とりあえず、君の意識を本来の場所に戻すから。その、がんばって」


記憶はそこで途切れていた。

言っておくが、一部始終鮮明に記憶に残っているから、この説明は嘘偽りないことを保証する。そもそも、こんなところで嘘を付くメリットなんてないだろ?

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