配信⑤ 魔物の大群相手に無双!

 威勢良くパネルを踏む俺。すると、俺の周囲に大量の――黒いオーラをまとったゴブリンやオークの大群が湧き出てきた。


「うお、黒っ……!!」


 :やばいやばいやばいって

 :これ、全部黒化してね? 

 :まずいじゃん 引き返せって


 ――表情には偽りの驚きを貼り付けてるが、この事は協会の人間から聞いてるので本心は全く驚いていない。さすがにこの数が出るとは聞いてないが。


「いいや! 依然問題なし! 一気に仕留める!」


 俺は拳銃に魔力を注ぎ込み、空高く飛び上がると四方八方に乱射する。


 放たれた弾丸は銀色の軌跡を描いて敵に向かって飛んで行き、着弾すると銀色の爆風を伴い爆発。そこら一体のモンスターを消し炭にした。


 そうして10発ほど放つと、大軍勢の内の6割は消し飛んだ。しかし生き残った残りの四割が、俺が着地するのを待って足元にワラワラと集まっている。


 ――よくぞ集まってくれたな。全員まとめてあの世に吹っ飛ばしてやる!


銀滅降下シルバーフォール!」


 銃をホルスターに入れ、両手で剣の柄を持った俺はそのまま一直線に落下。そして剣が床に刺さると、俺の周囲に銀色の大きなトゲが勢い良く数十本飛び出し、それらは俺の真下に居た魔物達を粉々に吹き飛ばした。


 :うおおお無双だ

 :銀色のエフェクトがあると派手で良いね

 :こんな状況で配信映えを考えてるなんて、さすがだ


 ――別にそういう意図があってやったワケじゃ無いが、そう思ってくれた方が都合良いので黙っておく。


 床に刺さった刀を抜いて辺りを見渡すと、大量に居た黒化モンスター達も、既に10体ほどに少なくなっている事に気づく。


「……もう余裕だ、って思っただろ」

「違うんだよ。こいつらは冷静に、。となれば、こいつらはボスに限りなく近い実力を有してると言っても良い」

「普通のダンジョンにもそういう個体が出る事はあったが、そいつが黒化してると考えたら……舐めプは出来んな」


 俺は右の手の平から銃と剣を回収し、両方の腰を手で叩いてミシックバックルを出現させる。


 :変身だ!!

 :やっぱするんじゃねえか!!

 :だましたな! もう1000人くらい帰っちまったぞ!


「あー、まあ、今後俺が戦闘中に放った言葉は半信半疑ぐらいで捉えてくれ。その場その場で変化するからな」

「だが、バックルを使った戦いは体に負担を掛ける。変身せずに済むなら、それに越した事はないし」

「だが、残念ながらそうも行かなかったらしい――魔導覚醒」


 ミシックブレスを右腕に出し、ブレス下部のボタンを押して変身を完了する俺。


 長く伸びてはきらめく赤い髪、光る赤い瞳、肌を泳ぐ電子回路模様。俺の本気モードだ。


 それを見た他の魔物達は、唸り声を上げて一斉に飛びかかる。


 ――実力に一気に差が出来たのを感じて、全員で飛びかかる事による連携攻撃に可能性を見いだしたか。だが……


「悪手だな! 範囲攻撃は、俺の最も得意とする攻撃だぜ!!」


 ブレスのボタンを二度押し、床に思いっきり拳を叩き付ける。すると地面に赤いヒビが入り、やがて凄まじい勢いで赤いオーラが吹きだした。


紅魔滅陣スカーレットバスター!!」


 そのオーラは魔物達の体を貫いて真っ二つにし、そして真っ赤に変色させると同時に爆発させる。


 そんな攻撃は5秒ほど続くとゆったりと収まって行き、俺が拳を床から引き抜くと共に、ヒビだらけだった床も元通りになる。


「……ふう」


 俺は変身を解き、その場にしゃがみ込む。


 ――義体に汗腺は無いから、汗は出ない。だが確かに、コアの疲労を心で感じられる。


「……前に変身したときは全然疲れてそうじゃないのに、って思ったか?」

「俺も最近知ったんだが、技の威力は相手しているモンスターの強さに応じて自動で調節されるらしい」

「要するに、フルパワーに近い出力で俺はいま戦ってるってワケだ。全力で拳を振り抜いたら息が上がるだろ? そういうこった」


 再び、辺りを見渡す。すると魔物達は完全に姿を無くしており、辺りには先に起きた爆煙が僅かに残っているだけだった。


「しっかし、これをもう一回か。ちとしんどいな」


 :いくら機械の体でも持久力が持たないか

 :お、撤退か?

 :逃げるな やっぱ逃げろ

 :どっちだよ


 疲れからかいよいよ思考が後ろ向きになりかけた、その時――


『ハル! 聞こえる!? 返事は頭の中でして、それで伝わるから!』


 突然、頭の中にミツキの声が聞こえてきた。俺はこめかみに指を当て、声が漏れないよう口をギュッと閉じる。


(ミツキか? ああそういえばお前、今回の配信から裏で俺の事モニタリングしてるって言ってたな)

『今の戦闘データ見させて貰ったけど、エネルギーの無駄遣いしすぎ! 配信映えの為とはいえ、このままじゃボスまで持たないよ!』


 ――無駄遣いか……まあ、なんとなくそうだろうなとは思ったが。


『遠隔で貴女の体にある魔道具を改造して新しい武器を作ったから、ここからはそれを使って! さっきまで使ってたのより、エネルギー効率はいいから!』

(……使い方は?)

『ごめんね、マニュアルまで作ってる余裕無かったから、アドリブでお願いね』

(ああ、いつも通りの展開かだな。了解、なんとかしよう)


 俺はこめかみから指を離し、急に黙り込んだ事でざわつき始めたコメント欄を一瞥いちべつする。


「悪い、開発者から連絡が入ってな。今しがた、遠隔えんかくで新しい武器を作ってくれたそうだ」


 :もう新アイテムが!?

 :ハル! 新しいアイテムよ!

 :変身しろ変身しろ変身しろ


「変身アイテムじゃねえよ。だが、さっきまで使ってた銀弾と銀剣よりは良い……と思ってる」

「まあベラベラしゃべっててもアレだ、早速見せようじゃないか」


 俺は両手を胸の前で交差させた後、勢い良く前に突き出して手の平から一対の双剣を飛び出させる。


 そうしてすぐに俺の両手に戻ってきた双剣を眺めると、刃全体はやや大きく反った黒く頑丈な物でありつつ、それが放つ淡く黒い光からは凄まじい魔力を感じられる。


「……ハッ、なるほどこりゃすげえ」

「おいお前ら! こういう双剣をよ、ブンブン振り回して敵をなぎ倒すのって男の夢だよな!?」

「その光景をよぉ! 今からお前らにたっぷり見せてやろうってんだ! お前らはそいつをしっかり目に焼き付けながら、後でこの映像を切り抜いて拡散しろよ!!」


 :うおおおおおおおお!!!

 :録画! 録画しないと!


 急激に流れが速くなるコメントを視界から消し、俺は足元にあるパネルを再び踏み込む。


 ――もう、配信を始めた頃に抱いていた迷いや恐怖は無い。あらゆる障害を踏み越えて進む覚悟が、ミツキの後押しによって、ようやく真に固まったのだから。

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