配信④ 配信二回目で同接一万人!
翌朝。エネルギー節約の為スリープモードに入っていた俺は、9時間のスリープを終えて目を覚ます。
――本来体を動かしてない日のスリープは不要だが、黒化モンスターとの戦闘シミュレーションを脳内で行うため、エネルギー節約のためスリープしていたのだ。
そして瞼を開けると、昨晩飲みかけていたノンアルビールを手に持ったミツキが、テーブルを挟んで目の前に座っていた。
「おはよう、ハル」
「おう。今日は休みか?」
「定休日だよ。というか私の事はいいの。ハル、これから配信に行くんだって?」
「ああ、元よりそういう予定だったからな」
「……でも、黒化現象の『
少し驚いて息を飲む。
「いつ気付いた?」
「スリープから起きる前に、よさげなダンジョンを選んでおこうと思ってアカウントを開いたの。そしたら、あのメッセージを見てね」
あえて、少し間を置く。
「……まあ、見ての通りだ。長めにスリープ時間を取ったのも、シミュレーションを数百回して万全の準備を整えるためだ」
「そう。なら安心、するべきだろうけど……」
――なるほど。ボスゴブリンのトラウマを払拭出来てないのは、ミツキも同じらしい。
俺は立ち上がり、ミツキの隣に立って頭に手を置く。
「いつもみたいに安心しろとは言えないが……お前の為にも、勝ってみせるさ」
「……うん、勝って欲しい。そうしてようやく、私達は真の意味で前に進める気がするんだ。私達は黒化モンスターへの恐怖を克服したぞと、そう高らかに宣言してね」
軽く頷き、ジャケットを
――その背中が、たくましく見えていると良いが。
◇ ◇ ◇
~配信開始~
「よし、映ってるな。音声も良好だ、行ける!」
ダンジョンの入口。薄暗く狭い空間の中で、ドローンを起動して配信を点ける俺。すると、視界の端にコメント欄が映し出される。
:うおおおおおおお
:はやくこんにちはお前らしろ!
:おい! マイマイと会った件について聞かせろ!
「ん? もうそんな話題出たのか? まあ、詳しくはアイツに聞いてくれ。どこまで言って良いか、俺では計りかねるからな」
「じゃあ気を取り直して……こんにちはお前ら! 俺こそが話題
:その名乗りでマジで話題になってるパターンあるんだ
:新神マイ最強! 新神マイ最強! 新神マイ最強! 新……
:(映すに堪えない連投コメント)
――今の同時接続視聴者数は一万人。そこまで増えれば、そりゃあ変な虫も湧く。コメント管理AIはこの惨状を見逃してるっぽいんで、BANコマンドの感度を少し強めにしよう。
「さて、今日も今日とてダンジョン配信をして行く訳だが、一つだけ注意点がある」
「……今日の戦いは、結構激しくなる予定だ。だから、あまりコメントに反応してやれないかもしれん」
「聞いて欲しいことがあるなら今の内に言っとけよ。なんてったってここは神殿タイプのダンジョンで、もう3.4歩前に歩いたら戦場に着いちまうからな」
神殿タイプ。前の配信で当たった洞窟タイプとの違いは、魔物が湧く部屋が一つしかないという点だ。
砂で出来たレンガで組まれた床・壁・天井。その部屋は洞窟タイプの雑魚部屋より二倍ほど広く、戦うスペースに不満が出ることは無い。
――が、とにかく大量のモンスターが出る。部屋の中央にあるパネルを推して雑魚モンスターを出す、コレを二回繰り返すとようやくボスに挑める仕組みとなっている。
つまり、卓越した戦闘能力と持久力が無い冒険者がこのタイプに当たると、何もできずに死んでしまう。この事から、神殿タイプは『
――全てのモンスターが黒化している『病巣』との相性は最悪。まったく、ついてねえ。まあそれはそうと、コメントを返さないと。
:緑鬼配信見てくれた?
:マイと話したからには、そりゃあ見てから行ってるに決まってるだろ
:そうとも限らんやん
「ああ勿論見たぜ。そのほかにも、雑談の切り抜きを十何本かつまんでな」
「別にその知識が役立つ事は無かったが……それでも、話してて楽しかったとは言っておこう。結構可愛いのな、アイツ」
:【このコメントは削除されました】
:羨まし過ぎるだろこの野郎おい
:【このコメントは削除されました】
:【このコメントは削除されました】
「うわあ酷え。もういいか? もういいだろ、このままじゃ収拾付かなくなりそうだ」
「ともかく、これ以上はアイツに聞いてくれ。勿論、配信の雰囲気を荒らさないよう気をつけるんだぞ」
「……じゃあ、行くとするかね。念のため言っておくが、画面の点滅が凄いだろうからてんかん持ちの人は注意しろよ」
深呼吸をし、廊下を出て広い空間に出る。今までは画面でしか見たこと無い空間だったが、いざその中に立ってみると、思ったより辺りが眩しく感じる。
そして広場の中央には1m四方の薄い感圧式パネルが設置されており、おそらくはこのパネルを踏んで雑魚を召喚する物と思われる。
俺はそのパネルに向かって悠然と歩き始める。そしてパネルとの距離が近づくにつれ、コメント欄も沸き立ち始めた。
:キタ! 変身だ!
:変身来る?
:今だハル! 変身よ!
「残念だが、今日はしねえよ。色々と試したいことがあるもんでな」
「俺の体には、まだ俺の知らない魔道具がいくつもある。そいつを組み合わせれば、ミシックバックルやミシックブレス以上の出力を持つ何かを見つけられるかも知れねえ」
「配信者が最も恐れるのはマンネリだ。マンネリとは配信者も新しい物を見せられず、視聴者も新しい光景を望まない状況を指す。そうならないために、手札は多めに持つに限る」
うなじに手を当て、そこからガラケー型の魔道具を取り出すと、【9733】のコードを入力して握り潰す。
すると破片は光となって俺の右手を包み込み、光が晴れると俺の手には純白の拳銃が握られていた。
「悪魔の相手をするなら、銀弾が良いと相場が決まってる。コレに加えて――」
さらに俺は右上腕から少し縦に長い銀製の十字架を取り出し、それを右から左に振り抜いて銀の剣へと変化させる。
「シルバーソードも持って、今日はエクソシストスタイルで行くぞ!」
:うおおおおおおおお
:か、輝いてるううううう
:欲しい! 欲しい! 欲しい! 欲しい!
「やらねーよ。欲しかったら自分で銀のインゴットを買って作るこったな」
「そんじゃ、始めますか。ダンジョン配信最初の見せ場、雑魚モンスター
――俺はどうにか自分を奮い立たせ、戦闘狂を演じながら床のパネルを踏むのだった。
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