配信③ 魔導覚醒! 全てを塵に帰す!

 『殲滅せんめつ形態:Mode1』。複数の魔道具の機能を組み合わせて実現した、魔法の行使に特化した形態の一つだ。


 LEDの色によって得意属性が異なり、今点いている赤は、そのうち炎属性の魔法を強く使えるモードだ。


 こうして変身を終えた俺は、ふとコメント欄に目をやる。


 :魔法少女かな?

 :仮面ライダーと魔法少女を足して2で割ったみたい

 :カッケエ……


 ――魔法少女、か。なる程、確かに魔法で戦う女の子という点ではそうとも言える。


「満足したみたいで何よりだ、制作者もこれで浮かばれる」

「んじゃまあ始めますか――ダンジョン配信のクライマックス、最大の見せ場をな!」


 俺はエネルギー源である回路を右足に集め、それで思いっきり地面を蹴って斜め上に飛び上がる。


「挨拶代わりに食らえ! ブラッドレイン!」


 背後に巨大な赤い魔方陣を作りだし、右手を勢い良く前に突き出す。すると魔方陣からコップほどの大きさの大量の魔弾が、ボスオークめがけて豪雨のように射出された。


 そしてオークはすぐに俺のその行動に気付き、持っていた刀を下から上へ斜めに力強く振り抜く。


 すると空間に黒い亀裂が入り、魔方陣から発生した魔弾は全てその裂け目に吸収されてしまう。


「!!」


 :強すぎねえかコイツ

 :オークなのにサムライ? 属性の盛り方が雑だろ

 :ボスの風格あるな


「魔法に対処出来る……!? オークは本来、魔法に対する一切の防御手段を持たないはず……」

「……いいねえ! コイツを倒したら、生きた数字がいっぱい取れるだろ! もっと頂戴よそういうの!」


 俺は空中で姿勢を変えて魔方陣に足を付け、それを踏み台にしてオークの懐へ飛び込む。


「飛び道具はそうやって全部無力化しちまうんだろ!? じゃあステゴロでガッツリやり合おうや! 黒オーク!!」


 ボスオークはそれに応じ、高速で飛び込んでくる俺めがけて刀を振り下ろす。空かさず俺はベルトの腰部分にあるボタンを左手で叩き、全身に炎を纏う。


 そんな俺に対し振り下ろされた刀は俺に触れる事無く蒸発し、刀の柄を真っ赤に変色させると同時に、オークの両手に深刻な火傷をもたらす。


『オオオオオオオオッ!!』

「だからステゴロでって言ったろ。俺の炎を前にして、揮発きはつせずにいられる物質なんかこの世にねえ……よ!」


 俺は両足を揃えてゴブリンの腹に飛び蹴りを入れ、蹴りを入れた周囲の皮膚を焦がして炭にするとそのまま通り抜ける。


 ――さっきはあんなことを口にしたが、その情報が脳に浮かび上がったのは刀を溶かす直前である。


「死んだ感じはしねえな。切札を切るなら今だぜ、黒オーク」


 反応はない。


「……オーク?」


 振り返ると、そこにはさっきまで黒オークが来ていた鎧と、脱ぎ捨てられた黒く大きなが残されていた。


 :ヤバくね?

 :逃げた?


「いや、ボスが冒険者から逃げるなんてことはありえない。まさか……」

「……お前ら、念のため心の準備しとけ。これから、要はビックリさせる何かが起きるかも知れないって事だ」


 俺は左側のボタンを叩き、LEDを青色に変化させる。そして次の瞬間――


 背後に何者かが回ってきたのを感じ、空かさず全身の回路を左足に集中させて青く光らせると亜光速の蹴りを放つ。


 蹴りが背後のそれに当たると、一瞬だけ辺り一帯を青い閃光が包み込む。


 ――『殲滅形態:Mode2』。スピードに特化した形態で、他のどの形態より火力が高くなっている。その代わり、消耗しょうもうするエネルギーも大きいが。


 :何!?

 :眩しい!!

 :音や映像じゃなくて光に気をつけろって事かよ!


 やがて光が晴れると、そこには俺の蹴りを右腕で受け止める、黒い人型の何かがいた。


「なるほどな、こりゃ全く新しい種類のボスだ。巨大な魔物の皮を被ってスペックを見誤らせようとするなんて、小賢し――ッ!?」


 その時、魔物の腕を伝って俺のスネが黒く変色し始めているのを見た。俺は慌てて足を降ろし、左手でボタンを叩いてLEDを緑に変える。


 するとあっという間にスネの変色が引いていき、それまでの戦いで使った魔力もグンと元に戻る感覚を覚える。


 ――『殲滅形態:Mode3』。治癒能力に特化した形態で、ちょっとぐらいの傷なら一瞬で直せる。だがその代わり――


「ッ!」


 黒い魔物は瞬時に距離を詰め、凄まじい速度での乱打を打ち込んでくる。そこに対し、俺は両腕でガードを固めて対応するしか無かった。


 ――この形態の弱点は、他の殲滅形態の様な卓越した戦闘能力が無いことだ。


 そしてコイツの様に頭が良いと、バックルのLEDの色からそれが伝わってしまうので、攻勢に出られてしまうのだ。


 :ヤバそう

 :おいおい また死ぬのか?

 :死ぬんならマイのアーカイブを見ながらにしてくれ


 ――好き勝手言いやがって。死なねえっつうの。


 俺は距離を取るため、あえて黒い魔物の鋭い右ストレートを食らって吹っ飛ばされる。


「ぐはっ……!」


 そして案の定、黒い魔物は追撃せんとこちらに近づいてきたので――


「行け、コンカッションミサイル!」


 右足のスネの左側面から縦に四つ砲身が並んだミニロケットランチャーを出し、そこからミニミサイルを発射して魔物にぶつける。


 着弾した際に巻かれた黄色い爆煙は魔物にも効くらしく、魔物は目を覆って膝を着いた。


「申し訳程度のロボット要素だが、上手く効いてくれたな……!」

「そして今がチャンスだ、コレでキメる!!」


 俺はベルト左右のボタンをそれぞれの手で同時に押し、右足を後ろに引く。するとLEDが虹色に眩く光り出し、全身が青いプラズマに包まれる。


 :うおおおおお

 :コレはまさかライダー……


「キックじゃねえ! 素肌で触れちゃ不味いらしいんでな。となりゃあ――」


 ミシックブレスを一瞬バックルのLED部にかざすと、全身に纏っていたプラズマが右手に集まり、濃縮されて群青ぐんじょう色と化す。


 そして俺は濃縮プラズマをまとった右手を変形させて大きなガントレットに変え、その右手を大きく振りかぶって黒い魔物に狙いを定める。


 その頃には既に魔物は正気を取り戻しており、地面に両手を突いて影を伸ばし、その影から6体ほどモンスターを召喚していた。


「もう遅い! 手下まるごとぶち抜いてやる! 食らえ必殺……」


 魔物は焦り、手下達を俺の元に突撃させると共に、自分自身も影から刀を生み出して走り出す。が――


「――メテオ・ストライク!」


 俺はガントレットのブースターを起動し、プラズマ付きのガントレットと化した右の拳を思いっきり前に突き出す。


 するとその推進力で一瞬にして魔物達の中を通り抜け、魔物達は雷に打たれたように全身をビクビクと震わせた後、大きな破裂音と共に黒い爆煙を上げて爆発した。


 :サヨナラ~!!

 :迫力満点のバトルだったな

 :やれば出来るじゃん! こういうのが欲しかったワケ俺らは


「……よし」


 俺はその爆発と視聴者の反応を見届けた後、右腕を元の形に戻し、ブレスのボタンを素早く三回押してバックル共々透明化させる。


 すると長かった髪は元のショートウルフに戻り、光っていた髪や目も元に戻る。


「ふ~、どうにかなったぜ。さてさて、どんな魔道具を落としたかなぁ~ッ」


 深々と息をつきつつ、黒煙こくえんが晴れつつあった魔物の死亡現場へ向かう。するとそこには、禍々しいオーラを放つ真っ黒な短剣が残されていた。


「……なんかろくでもない代物な気がしてならんな。お前ら、これどうするべきだと思う?」


 :シラネ

 :俺達に聞くなよお前専門家だろ

 :不気味だから捨てようぜ


「捨てたいところだが……まあ捨てるのは、知り合いの魔道具エンジニアに持って行って性能解析をして貰ってからでも遅くないか」


 :俺達に聞いた意味よ


「細かいことは気にすんな。そんじゃダンジョンも攻略し終えた所だし、総括に入るぞ」

「ダンジョン配信の見所は三点。ダンジョンの構造、配信者の戦闘スタイル、そして魔物が落とした魔道具の鑑賞会だ」

「この三つの山場を楽しみに、新神あらがみマイのダンジョン配信に向き合って欲しい。いいな?」


 :は~い

 :お陰でダンジョン配信の良さを知れた ありがとな

 :じゃあマイ行くね……


「おう行け行け。だが行く前に、高評価とチャンネル登録を済ませていってくれるとありがたい」

「そう手間は掛からん、二秒で済む。その一手間で俺の活動がより手広く、より良い物となっていくだろう」

「それじゃ、今日の配信はここまで!」


 最後に、俺の周りをふよふよと浮かんでいたドローンに向かって満面の笑みを向ける。


「――おつハル! また明後日~!!」

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