#21
***
「ん、…ぁ」
私の嬌声がフローリングに転がる。時刻は日付けを越えた。夜が深まり、そして夜に踊る。夜に深呼吸をし、夜に沈む。そうして夜に生きる。
私は桐野と時間をともにしたベッドに紫月を招いた。会いたいなら私の家に来い、それが紫月に出した条件だった。桐野と寝た数時間でセンチメンタルから脱した私だったが、やはり疲れ果てていた。桐野の言うとおりだった。組長の命が危険に晒された昼間の一件は私に疲労感を与えていたらしい。逢瀬に使ういつものホテルに向かうという行為さえも体は嫌がった。たとえ桐野が送迎してくれると言っても体は動かなかった。だから紫月を自宅に呼んだ。
「あ、っ、…待っ」
「めいちゃん、かわいー」
肌を嬲るように服の裾から侵入してくる紫月の指先に腰が砕けはじめる。ふふ、っと悪辣に微笑む紫月は私のことをちゃん付けで呼ぶ。行為が始まるまでさん付けだったのにいたずらにそうやって私を
「……どこもかしこも弱くて可愛いね、めいちゃん」
私を弛緩させる指先は服を捲り上げ、言葉どおり私の弱いところを撫ぜていく。溶けてしまうほどにいたるところを揉み解され、あっという間に紺野から与えられた服を脱がされてしまう。翻弄されるままにジーンズのフロントボタンが外され、下着と肌の間に指を一本入れられる。黒色のレースのショーツ、桐野が選んだそれをゆるゆると紫月の指がいたずらに触り、たまに引っ張るなどして遊ぶ。
「可愛い下着だね」
「……君のために選んだ」
夜に似合う嘘をつき、紫月の首筋に腕を回す。紫月はドイツ人を祖父に持つクォーターだと聞いたことがある。グレー色の瞳が不埒な私を視姦していた。私は紫月の金色の柔らかな髪の毛を抱き寄せ、唇を合わせる。
「さっき想像で抜いためいちゃんは赤色の下着を着ていたよ」
「……どちらが好みかな?」
「もちろん、本物のめいちゃん」
にこり、綺麗に微笑む紫月は私の顎に手を這わせ、くい、ッと引き寄せる。上を向いた私。近付く紫月の唇が私の唇を食す。紫月の手が背中に回り、キスをしたままブラジャーのホックを外した。口蓋を割って入ってくる舌先。上顎を丹念に撫ぜ、紫月は私の吐息を自身の体内に入れていく。どこまでが自分の咥内かわからなくなるほど、私の口の中は蹂躙されていた。下着の締めつけがなくなった上半身をいまだ服をきっちり着る紫月の指が緩慢に撫であげた。
「部屋中めいちゃんの匂いがする」
先ほどまでここに桐野の香りも転がっていたはずなのに、紫月の言葉どおり今は私の卑猥な匂いで充満している。夜の底無しの輝きがカーテンの隙間からベッドに差し込んでいる。その夜の光は淫靡な私を暴き出そうとしていた。私は紫月の薄く艶やかな唇を舐めながら彼と同じように背中に手を回す。紫月の筋肉質な体はいまだ服で覆われ、私の羞恥を煽る。
「はじめてめいちゃんの自宅に来た。いつもこのベッドで寝てるの?」
「あぁ、ここで惰眠を貪っているよ。汚なかったら悪いね」
汚いということはないと思う。桐野は私が食事を取っているときなどにシーツを洗濯機に放り込んでいる。そこまでやる必要ない、そう言おうとしたが、あいつは手持ち無沙汰なのだろうと思い好きにやらせていた。桐野は洗剤や柔軟剤の買い出しもテキパキとこなし、私を駄目人間に育て上げている。
そんなことを考えていたときだ。唇を噛まれ、胸の尖端を指で押し潰される。思わず紫月の咥内に吐息を吐き出す。
「……他のこと考えてるでしょ?」
「嫌か?」
「当たり前じゃん。……なにも考えないでよ。俺だけ、俺のことだけ考えて。嘘でも俺を愛してよ。俺で気持ちよくなって」
紫月は切実な表情で私に懇願してくる。吐息の合間で願うその言葉たちが私を殴りつける。
紺野も女や男を抱くときはそんなことを相手に言うのだろうか。性処理に愛を持ち込むのだろうか。私は誰かを愛せるのだろうか。桐野のように夢で名を呼ぶほど誰かを愛せるのだろうか。ニッキ飴が舐めたい。喉につかえるほどの大きなものを舌先で転がし飲み込んで窒息死したい。
「愛してるよ、紫月」
「めいちゃん……、俺だけを見て」
半端者の世界は誰もが片割れを探している。オレンジの片割れを探している。手に入らないと知っているからなおさら探す。
紫月の口付けが首筋の頸動脈に当たる。そのまま鎖骨を舐めあげ、胸を揉みしだく。最初は肉を柔らかくするように手の平全体を使っていく。紫月の長い指先が皮膚に食い込んだ。
「柔い…。めいちゃんって着痩せするよね。胸めっちゃ大きくて好き」
「…、ひぃぁ」
胸の突起を摘まれ、転がされ、快感の波が襲う。快感を逃がそうともがくが紫月に押さえつけられ叶わない。そのまま赤い舌が胸の尖端に触れる。
「あ…、くぅ…」
ベッドの傍に立ったままの私は背中を逸らし、蠱惑的に吐息を漏らす。耳を塞ぎたくなる雌の声が寝室に落ちていく。
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