ep.3

※火事や火傷、暴力や犯罪に関する記載があります。実際の人物や団体とは一切関係ありません。全年齢対象作品ではありますが、ご了承の上、お読みください。





そう、やけに納得していると、コロコロと何かが転がってきた。

ボール? 不思議に見ているとパッと目の前が白くなる…。


「うっ……あ。せ、閃光、弾…?」

愛香さんの焦った声。これ光なのか…? 


目が眩んで、なにも見えない。何なら耳も…聞こえにくくなった気がする。


この間に、何人かが部屋へ入ってくる。

布の擦れる音。


やがて銃口のような、冷たい鉄の管を頬に押し当てられていた。


「谷橋ぃ、仮病使ってヨロシクやってんじゃねーよ」

聞き覚えのある声…。


「え? …先輩?」

そう、俺に先週コトリン案件を押し付けて来た職場の先輩。


「俺がハニトラにかかって楽しく過ごす予定が…何の手違いかマッチングアプリ、お前とマッチングしてやんの。くそ」


苦々しく吐き捨てた先輩に、愛香さんの声が響く。

「……やっぱり、あの銀行のトークンシステム組んだの、貴方だったんですねえ」


愛花さんの声が遠くから聞こえる。

どうやら閃光弾は食らいつつも、押し入ってきた奴らと距離は取っているらしい。


「そーーーーーだよ。会社の給料だけじゃ足りないし。真面目にやってたら睡眠時間すら確保できないからさ。学生時代の先輩が納期に間に合わないから、ちょっと手伝ってって呼んでくれたから、憧れの金融エンジニア、ちょっと体験させてもらったんだよ」


そういえば昔、珍しく飲みにつれて行ってもらったことがある。

そこでべろべろに酔った先輩が自慢していた。



――銀行のシステムは特有の言語の上、ネット上で解説が出回ってないもんだからイチから覚える必要があって大変だった――


――誓約書、書かされるんだよ。なんかあったら違約金ウン億円払いますって。それもう、一般人には内臓ルートしかないよなあ?——



あの時俺は面白い冗談なんだと思っていた。

今思えば、その前の週、先輩はインフルエンザに罹ったと一週間休んでいた。

どうやらその時に副業をしていたんだろう。


「やっぱり…谷橋くん何にも知らないんだもん。そっかあ…先輩かあ…」


トス、トス、という愛香さんの足音…周りの奴らが焦ったのがわかった。


「おま…やめ、やめろ!!」


「えー…止めたら私、捕まって拷問地獄じゃーん?」


「だ、だからって」


先輩の他にも何人かいる。でも動く奴はいないみたいだ。


やがて床についた手に流れてくる、ぬめりけのある液体——手を鼻を近づけると、たぶん油か何か。


「素人さぁん? だよね、さっき閃光弾は…中国製だったけど」 

先輩の連れている連中の事を言っているのだろう。

「私が油断してなかったら、マンションすら入れなかったのになあ…ミスったなあ…」


「動くなっつってんだろうがあぁ」

俺に銃口を押し当てている奴が叫ぶ。


「ハイスミマセン。動きません。でもね? 私がさ。パスワード言うと、玄関の火炎放射器が作動するようになってるんだ…。それ言ったら、表の見張り役、火だるまだねえ」


トク、トクという音とともに油が広がっていく。


「……出口を塞がれたらお前だって無事ではスマンだろう」

くぐもった、先輩の低い声。


「あー…ね? たしかにね。でも、このアジトがあんたらのになる方が嫌だからな。せっかく見切り発車でもなんとか情報、手に入れたのに」


先週ニュースにあった、愛香さんの銀行の大規模なシステムエラー。


顧客情報が流出したと報じられていたが、何件なのか、どのくらい大変なデータを流出させたのか続報はまだ出ていなかった。

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