第2話 なんかやだぁ
話を聞いてみると、退魔の鎧を着ていた彼は、気がついたら大穴から地底湖まで落ちていたらしい。
アルコール検査をしたところそれはもう飲みに飲んでいたので、酔った拍子に地上から地底湖まで続く大穴に落ちてしまったのだろう。
「でも、変ですよ! だってあの穴って確か鋼鉄で塞いでましたでしょ!」
「それ俺のスキルのせいかもっす」
「スキル? あなた、能力者?」
「うす。俺のスキルは〈
「酒をやめろバカタレ!!」
「え〜!? でも酔わないと現実に殺されちゃうっす。俺、こう見えて可哀想な男の子だから」
「…………そんなことより、早くそれ、脱いでよ。国宝よ?」
「あー、その話ね。あのねぇ、なんか脱げないんすよねぇ。脱ごうとすると身体の中に引っ込んじゃうんだわ。まるでうんこみたいに」
国宝だっつってんのにうんこで例えられたので呆れてしまう。
「バカ言ってんじゃないよ」
「じゃあ脱がしてみなよ。俺、抵抗とかしないんで。メットっつーか仮面だけでも。ほらほら、脱がしてみろよ」
デルタさんが無理矢理メットを脱がそうとして全体重をかけて引っ張るけれど駄目。私も加担して腕の装甲を外そうとするけれど駄目。
本当に外れない。
「…………」
「ねー?」
「…………じゃあ、引っ込むってのは?」
「言葉の通りっすわ。見ててね」
まるで帯のようになり、臍のあたりにある赤い石に鎧が吸い込まれていき、赤い石は腹の中に引っ込んでいった。
「…………」
「ねー?」
「なんでこんなことに?」
「着たらこうなった」
「なんで、不用意に着たの?」
「俺、剣士だからやっぱり騎士とかに憧れあるんすよ。んで、騎士ってやっぱり鎧みたいなところないじゃないですが」
「ないならなんで着たの?」
「赤い石に見惚れて、なんか着たいなーって」
選ばれた?
私の頭にそんな言葉が浮かび上がった。
こんな、明らかに酒以外もやってそうな男が?
国宝「退魔の鎧」に選ばれる?
そんなことってあっていいのか?
全世界の男の子が泣いちゃうんじゃないか?
「…………もうわかった。これはもう仕方のないこととして受け取るとして……これはもう、ほんとうに、不幸が重なった事として扱うとして……少し身分を証明できるものってない?」
「あー、無いっすねぇ。見て分かるとーり」
鎧を引っ込めた彼は裸だった。かろうじてブーツやベルトは巻いていたが、それ以外は何もない。なんでベルトだけ巻いてんですか?
「あっ、でも、そこら辺ほっつき歩いてる冒険者に俺の顔写真でも見せたら何でもかんでもわかると思うっす」
「なんで?」
「えっ? あれっ、マジで俺のこと知らない系ガールズ? まぁまぁ、騙されたと思ってやってみなって」
デルタさんがインスタントカメラで彼の写真を撮り、外に飛び出す。十分後帰ってきた彼女は新聞記事を持っていた。
「そ、そそそ……その男! 今世紀無敗の剣士です!」
「えっ? 剣士?」
「今世紀無敗!! 世共政府(※正式名称:世界共同政府=魔王軍に対抗するために結成された人類の統括組織)のお抱えで……言ってしまえば私たちより階級上ですよ!! 世にはびこる悪人とかめっちゃ斬ってるすごい人です!!」
この研究所は世共政府から資金援助を受けて運営しているので、「世共政府のお抱え」という立場の人間に優しくしないと何をされるか分かったもんじゃない。資金援助の打ち切りとか、そういうのめっちゃ怖い。
「まーお抱えっつっても、半ば無理矢理だけどね」
「無理矢理……?」
「なんか、俺の立場を護りたいとか、そんなんで、半ば無理矢理契約書にサインさせられてぇ。マジムカつくっすよねあいつら! あっ、でも毎月お金もらってるからマジ愛すべきっすよねあいつら!!」
「す、スカウトされたってこと〜……?」
「おう、スカウトってなんだ」
私は彼にスカウトの意味を教えた。
「たぶんそう」
たぶんそうらしい。
えー? ……な、なんかやだぁ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます