無剣の退魔
蟹谷梅次
第1話 ばっしゃーん
突然だけどここでクイズ。
俺は今何をしているでしょうか。
こういう質問って面倒くさいよ〜って思うよね。
それ俺も思うんだけど、まぁ、付き合って欲しいんだよね。
だってさ、自分でもあんまり理解できてないところがあるから。
でもまぁ、なんとなくでいいよ。なんとなくで。
そういう関係性だもの、俺たちって。そうでしょう?
なんとなーく俺を知ったし、俺もなんとなーくで話しかけます。
ちなみに今、大穴を落ちてるっす。
ひゅーん。んで、ばっしゃーん。着水。
これって俺の遺書になるかもしんねぇ。
両腕と両脚を精一杯に掻き動かして水面から顔を出すと、そこが巨大な地底湖だって理解。
え〜!?
俺泳ぐのとか得意だから別にいいけどここ確か〈ウィダリア王都〉だよね? 地下にこんな地底湖ってあっていいの〜?
だとかなんとか考えながらお鼻の中に水が入ってきたんで、俺は急いでぷんすかやりながら地面を探してスイミング。
俺、田舎にいたころ水泳大会で一位とったことある。
その頃の蓄積が今の俺を生かしているんだよね。
マジ? これってそういう教訓のお話?
でもまぁ、小学生の頃のお話だから割とそうかもしんないねぇ〜。小学生の頃に一生懸命になれないやつは大人になったらすぐ死ぬよ。
「あーっ、死ぬかと思っちったよ!」
で、服濡れるじゃん。びしゃびしゃだなーって思ったら脱ぐ。
いつまでも濡れた服を着て体温を虚空にプレゼントするより脱いだほうがいいなって有能頭脳でマジ分析したから。
こういう咄嗟の判断に優れてる俺って有能な指揮官になれるかも。
「ここは何処だ?」
地上に戻れるのかな? 戻れなかったら死あるのみだけど、いざとなったらスキルを使ってみるのもいいかもしれない。
あたりを確認。
壁、壁、俺、地面、地底湖、濡れた服。
「うーん……」
そして、奥に続く道。
「おっ!」
諦めかけていた俺に一筋のホープ。俺は濡れた服をそこに放置して、ベルトと靴だけを持って道の奥に歩いていった。
奥に進むと、そこには部屋があった。
部屋の壁にはへんなポエムが書いてある。月と太陽だと、白と黒だと、天国と地獄だのと、ぺちゃくちゃと。
俺が中学生の時に書いたポエムがこんな感じだった。
ちょっと恥ずかしいこと思い出しちゃったぜ。
「へー、何このかっこいい鎧〜……」
俺は部屋の隅に鎮座ましましておられる鎧を発見した。
腰のあたりについている赤い石に見惚れながら一言。
「着てみよっかな」
◆
「──
私──アリシア・テーボンの耳にその言葉が入ったのは、月が昇り始めた頃のことだった。私は急いで研究室に入って、助手のデルタ・ハーンズの横にある椅子に腰を下ろした。
「はい! ここ、〈ウィダリア王都〉の地下から反応がありました」
魔路モニターに映し出されたマップの、ちょうど王都の真下が赤く点滅している。これは千年前の魔王軍との戦いで紛失した退魔の鎧を捜索するためのレーダーから抽出した情報である。
「誰かが地下室に隠していたとかかなぁ!?」
「二千百メートルの地底湖の存在が先月行われた宇宙線を使った高解像度調査で判明しています。おそらくそこに封印されていたのではないかと」
「地底湖……」
「……あっ? あ? あれっ?」
デルタさんが嫌な声を出した。
「どうしたの?」
「退魔の鎧が動いています」
「え?」
たしかに、点が少しずつだが南の方に動いている。
ちょうどこの研究室のある方向に。
「地下物理調査室が確か二千メートルくらいの深さの所に通路持ってたよね? デルタさん、モニターと掘削機の用意!」
私たちはすぐに地下物理調査室の鍵を借りて、穴を開けに行った。こちらに向かってくるのであれば、とっ捕まえればいいんだ。
土まみれになって、どろんこになって、ときおりダイヤの原石を発見して、それを投げ捨てて、大穴の反応を見つけると、デルタさんが「来ます」と言う。そして私たちのもとに一歩ずつ近づいてくるその鎧姿を見て、私は息ができないでいた。
生き物を殺すという一点のみを追い求めた立ち振舞をしている。
「あれっ、人だ〜!!」
その鎧からすこぶる明るい声がした。
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