株式会社サンキュー運輸の怪

密(ひそか)

第1話、課長(仮)Kさん 山岳信仰サークル

 私が、むかしお世話になった派遣先の会社で遭遇した怪談話でもしようかと思う。

 その会社は、本社を横浜に置く、物流&倉庫業を生業とした企業である。

 私が、この会社にいた頃、実に不可解な事件が起こっていた。

 今回は不審な動きを見せる、課長、(仮)Kさんの話である。


 当時、私は仕事先を探していた。株式会社サンキュー運輸に赴き、面接をして、ここの派遣先が決まった。

 Kさんは、当時、派遣先のサンキュー運輸の課長だと名乗っていた。   

 

 次の日、サンキュー運輸に行くと、Kさんが手招きをして別の部屋に呼んだ。ついていくと、机とソファーがあった。

 「ここにかけてよ」

 Kさんがいう。

 「まぁ、気楽に気楽に…」

 最初にソファーにかけた時、Kさんがゆっくりと話しかけてきた。

 「僕は奥さんを愛しています」

 「……?」

 よく分からないが、実にゆっくりと説明を受けた。

 目の前の机には、1枚の集合写真が置かれていた。

 「写真を見てよ」

 その写真を見て、Kさんがいった。「コレ、自分が載っているんだ」

 写真は、何処かの山道っぽかった。みんな、山高帽と背中にリュックを背負っていた。いわゆる山登りのハイキング姿の集団であった。

 「山岳信仰って知ってる?」

 私が答えた。

 「……名前だけは聞いたことがあります」

 「ほう」

 「山登りするんですよね」

 Kさんは、うんうんと頷く。

 「俺さ、大学時代、山岳信仰に所属していたんだけどね」

 「はい」

 私は聞いていた。

「この中に、自分がいるんだけど、何処か分かる?」

 写真を指差していた。それから、写真の上で手をうろうろさせる。写真が見えにくかった。それからだろうか、「探してみてよ」と続けた。

 ぱっと写真を見たが、Kさんに似ている顔はいない。

 「ね、見つかったでしょ?」

 …いないけど?

Kさんと写真を見た。

 「あれ、あれ? 分かんない〜?」

 私は、言われた通りに写真を何度も見返した。しかし、目の前の男に似ている男を、写真の中に見つけることはできなかった。

 「……何処ですか?」

 「……見つからないの?」

 Kさんは、いささか不機嫌のようだった。

 「ふ〜ん」

 Kさんは、

「じゃあ、いいから」

 何がいいのか、私にはさっぱり分からない。

 「あ、もう写真は見なくていいから」と続けると、

 「俺さ、四年生の大学卒なんだよね、私立大学だけどね。國學院大學なんだ」と続けた。

 私は尋ねた。

 「何学部ですか?」

 Kさんは答えた。

 「國學院大學法学部」

 「へぇ…」

 Kさんは、別の機会の時に「僕は法律に詳しいんだ」と述べていた。

 「ところで」

 Kさんの質問が続いた。

 「國學院大學って知ってる?」   

 と聞いた。

 山岳信仰、國學院大學……?  

 ところで、私が知っている山岳信仰というものは、杖と白い装束姿で山道を歩く集団のことであって、気軽なハイキング姿ではないのだが?

 私は國學院大學にも進学していないし、國學院大學を知ってるかといったら、何かおかしいような気もする。

 「いえ、(あまり、よく)知りません」

 私は、そう答えた。

 


 

 


 

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