第3話 家族団らん

 ようやく訪れた3人での帰り道は喧騒から逃れてホッと一息といったところ。


 あいかわらず道行く人からの視線は感じるけど。キレイな姉とかわいい妹を連れて両手に華なのがうらやましいんだなと決めつけ、虚しい優越感に浸っているとひよりが苦情を言ってきた。


「ゆきちゃんひどいよ! 今朝はなんでかわいい妹を置いて先に行っちゃったの~?」


 わたしの腕を捕まえながら頬を膨らませて拗ねている。ひよりは昔からお兄ちゃん子で、中学生になった今でも変わらずこうやってくっついて甘えてくれる。


 普通の妹は兄をごみのように扱うとも聞くので、この甘えん坊の妹がかわいくて仕方ない。


 あぁもう! 拗ねた顔も可愛いなこいつは! 孫を甘やかすおじいちゃんのような、締まりのない顔になりながらひよりの頭を撫でる。


「ごめんってば。だって早く学校に行きたいのに二人とも遅いんだもん。待ちきれなくて」


「もう~!ほんとにゆきちゃんは学校好きだよね」


 しょうがないなぁといった感じで呆れられた。わたしが学校を好きなのは当然!


「そりゃわたしは雪の精霊だからね! 人の集まるところが好きなんだよ!」


 雪の精霊は人々に幸せを届けるのが使命だから、人が多く集まるところを好む生き物なんです!


「出た、いつもの厨二病設定」


 ダブルでひどい言いざまだ。中二だけど厨二じゃないし! それに設定とかゆーな。


 あか姉は口調がぶっきらぼうだし表情筋も死んでるから誤解されやすいけど、本当は世話焼きですごく優しい。歳も近いし親しみやすい、大好きなお姉ちゃん。


「あんまり人前で言うとイタイ子だと思われる」


 でも時々毒を吐く。


 通学路はそんなに長くないので他愛ない会話をしているうちに我が家へと到着。


 以前日本にいた時は3LDKのマンションに住んでいて家族みんなで雑魚寝状態だったけど、アメリカで広い家を経験してしまったわたし達は贅沢になってしまった。


 だから日本へ帰国することが決まったとき、両親に懇願して夢のマイホームを購入してもらった。


 わたしが子役時代の芸能活動で稼いだお金を両親が貯金してくれていたので、そのお金も奮発してもらって念願の一人部屋を全員獲得。


 そしてリビング。うちは家族仲が良くて基本みんなはリビングで過ごすことが多いんだけど、広さも十分で全員集まってもゆっくりできる理想の間取り。


 もうひとつスポンサーとしての発言力でワガママを言ったんだけど、その話はまた後で。


 玄関で靴を脱ぎ、憩いのリビングに入るとかの姉が先に帰っていて、ソファでテレビを見てくつろいでた。


「あらあら~。みんなそろっておかえりなさ~い。」


 口調の通りおっとり系のかの姉は我が家の癒し。ただひたすらマイペースでなにかと手のかかるところもある。あか姉が世話焼きになったのは間違いなくかの姉の影響だろう。


 どことなく母性が感じられる優しさで一緒にいると安心できる。もちろん大好きなお姉ちゃん。


「ちょっと校門前で捕まっちゃってね。より姉はまだなの?」


「まだ帰ってこないわねぇ。にしてもゆきちゃんの人気ぶりは相変わらずなのねぇ」


 わたしは何も言っていないのになぜわたしが捕まったことになっているのか。


 わたしが異議を申し立てる前にひよりが「ほんとゆきちゃん人気がすごくて、わたし達が見つけた時には芸能人並みに囲まれてたから近づくのも一苦労だったよ!」と言い、あか姉がそれにうなづいたのでわたしの言論は封殺されてしまった。


 かの姉も最初から分かっていたとばかりに「ゆきちゃんはどこに行ってもみんなに好かれますから」と事実認定。


 恥ずかしくなってきたのでなんとか反論。


「みんなも十分人気者じゃない。男子のファン多いらしいよ!」


「ゆきは男女問わず」


 あか姉によってあえなく返り討ちに会い撃沈。


「ぐう……」


 なんとかぐうの音は出た。


 同性にモテても嬉しくないし! 異性からはモテているというよりも珍しい生き物を珍重するような扱いだし。わたしはツチノコかなんかですかね?


 友達が増えるのは嬉しいんだけど。何度でも言うけど中身はちゃんとノーマルな男の子です。


「たで~ま~」


 そうこう言っているうちに長女のより姉が帰宅。おかげでこれ以上不利となる前に話題を終わらせることができた。


「おかえり~」


 あいさつは大事。我が家ではおはようからおやすみまであいさつ徹底。


 これで姉弟妹きょうだい5人が揃った。ちなみにより姉とひよりがお母さんの子供で、あか姉とかの姉が再婚したお父さんの連れ子。我ながらややこしい家庭環境だと思う。


「おーみんな帰ってきてたかー。ひさびさに帰ってきた日本は楽しかったか」


 思春期真っただ中にお母さんが再婚したせいか、一時期新しいお父さんに反抗していた時期があったより姉。その影響でちょっと口が悪いけど、誰よりも家族愛の強い我が家の長女。責任感もあってすごく頼りになる、そしてみんなを守ろうとしてくれる大好きなお姉ちゃん。


 お父さんとも今では打ち解けて、普通に会話するようになったよ。


「すごく親切にしてもらいましたよ~。やっぱり日本人は思いやりのある人が多いですね。」


「友達できた」


「みんな優しくて楽しかったよ!相変わらずゆきちゃんは大人気だったしね!」


「質問攻めでちょっと疲れたけど楽しかったよ」


 みんなの報告を聞いてより姉は満足げにうなづく。


「そかそか。みんな楽しそうで何よりだ!ゆきも相変わらずみてーだしな!わははは!」


 笑い方。アニキって呼んでいい?


「ゆき、なんかよからぬこと考えてないか?」


「みんな帰ってきたことだし、晩御飯作り始めるね」


 より姉怒ると怖いからここは華麗にスルー。



 我が家の食事作りはわたしの役目。

 他のみんなもそれなりにできるけど、わたし自身料理が好きだし、みんなが美味しそうに食べてくれるのを見ると、とっても幸せな気持ちになる。

 だからこの役目は譲れない。


 小学生の低学年の頃からお母さんの手伝いをし始めて、全部ひとりでできるようになったころには「お母さんが作るより美味しいよ」って褒めてもらった。


 それ以来ずっとみんなに美味しい料理を食べてもらいたくて作り続けてるんだけど、幸せそうな顔をもっと見たくてレパートリーをいろいろ開発中。

 努力の甲斐もあって腕前にはそれなりの自信がある。


「昨日買い物に行って調味料を揃えることができたから今日は和食だよ。やっぱり日本は調味料が豊富で料理の幅が広がるな~!」


「しばらくは引っ越しの後片付け大変だったもんね。ゆきちゃんの和食たのしみ! あ~おなかすいた~」


「我が家のおふくろの味はすっかりゆきの味」


「いつもわりーな、ゆき。今日は転校初日だし疲れてるんじゃないか?」


「全然大丈夫! それにみんなのお世話をするのはわたしの生きがいだし!」


 みんなが安心して暮らせるように家事をするのがわたしの喜び。だから料理と掃除はわたしの担当。


 本当は家事全般したいけど、そこはさすがに年頃の女の子たち。ちゃんとわたしを男の子だと認識しているようで、洗濯だけは姉妹四人が交代でやっている。


 わたしも姉や妹に下着を触られるのは恥ずかしいんだけどな……。


 まぁみんなの下着を洗濯するっていうのもそれはそれで複雑な気分になるだろうから我慢するけど。


「手伝うことがあったらなんでも言ってくださいね~」


「大丈夫だよ!お父さんとお母さんは遅くなるのかな?」


「あー二人とも遅くなるみたいだから先に食べとけってメールきてたぞ」


 二人とも忙しいみたいで遅くなることがほとんどだけど、毎回必ずこうやって誰かに連絡をしてくれている。


 おかげで「了解。温められるようにしとくね」と対応をしておくことができるから家族の間でも報連相って大事。


 もう何年も続けてきた慣れた作業なので手際よく調理をすすめる。他の姉妹たちはひとりとして部屋にこもったりせず、リビングで思い思いに過ごすのがいつもの姿。


 みんな家族で過ごすのが大好きなので、自己中心的な行動をとる人なんていない、温かい関係。


 みんなの姿が見えて安心する。対面キッチンにしてよかった。


 ちなみに今日の献立はぶり大根と菜の花の胡麻和え、筑前煮にお味噌汁。和風調味料が嬉しくて煮物が二品になっちゃった。時短調理法でどちらもしっかり味はしみこんでいる。


 女の子とはいえみんな育ちざかりなのでけっこうな量を作る必要があったけど、それもいつものことなので手際よく料理してほどなく完成。


 配膳や食器を出したりはいつも手伝ってくれるのですぐに準備も終わり、わたし以外はみんな食卓に着いて待機。


 調理器具を洗うわずかな時間だけど待ってくれている。


 我が家では仲間外れは許されない。洗い物も終わり、わたしが席についたのを見てより姉がみんなに呼びかける。


「みんな揃ったなー。んじゃ食べっか」


 全員で声をそろえて『いただきます』


 いつもと変わらないみんな揃っての食事。なんてことはないみんなにとっては当たり前、日常の一コマに過ぎないこの時間がわたしにとっては至福の時間。


「おいし~!さすがゆきちゃんだね! 割と短時間で作ってるのに煮物もしっかり味が染みてるのすごいよね」


「これも才能と経験ってやつかな。料理にもセンスが必要って言うし、ゆきには歌と踊り以外に料理のセンスもあるってこった。下手なお店よりうめーもんな」


「普通にお金とれるレベル」


「ほんとゆきちゃんはいいお嫁さんになれるわねぇ」


 嫁ちゃうし。


「そんな褒めてもデザートのわらび餅くらいしか出ないよ~」


「やった~ゆきちゃん手作りのわらび餅だ!」


「手作りかー。あいかわらずのことだけどゆきはほんとなんでもできるな」


「そんなに難しいもんじゃないよ。覚えればみんなでもできるくらい」


「それできるやつ理論」


 あか姉いわく、その辺で買えば決して高価でもないものをわざわざ自分で作ろうとすること自体が、できるやつだからこそ。


 まず作ろうという考えすら浮かばないとのこと。


 どうせならおいしいのを食べてほしいから手作りをするだけなんだけどな。自分で作れば好みの味に調整できるしね。


「ちょっとしたものでも一番いいものをあたしらに提供しようとしてくれてるってことだろ。ゆきみてーなできた弟をもったあたしらは幸せもんだな」


 そこまで褒められたら悪い気なんてしない。

 でもね、優しい姉さんたちと可愛い妹に囲まれて暮らしてるわたしが一番幸せ者だと思ってるよ。恥ずかしいから口には出さないけどね!



「おいしかった~!」


 いつも食べるのが一番遅いひよりが食べ終わったところで、みんな揃って「ごちそうさま」


 全員が食べ終わるまで誰も席を立とうとしないのも我が家での暗黙の了解。その後に出したわらび餅をおいしくたいらげて、何も言わずとも各々がシンクに運んでくれた食器を洗い出す。


 これもみんなのお世話の内だからわたしのお仕事だけど、いつも誰かが手伝ってくれる。今日はひよりが食器拭きを手伝ってくれた。


 そして食後のまったりタイム。


 アメリカに住んでいた時からの習慣で、十分な広さのあるリビングには家族全員が座っても余裕があるほどのソファーがコの字に配置されてるんだけど、相談したわけでもないのに座る位置はいつも同じ。


 テレビ正面の中央がわたしで左側にひより。右がより姉。テレビに向かって左側の辺にかの姉とあか姉が座る。普段あまり家にいることの少ない両親だけど、いても右側の辺に二人並んで座るのでわたしの場所は変わらない。


 一家の大黒柱なんだから真ん中に座るように言ってもわたし達が並んでいるのを眺めているのがいいからと拒否された。


 広いソファーなのでひよりとより姉の両側も空いてるからそこに座らないのかとかの姉たちに聞いたところ、それだとわたしの顔が見えないからイヤらしい。


 年長者たちを差し置いてど真ん中へと座ることに最初はいたたまれない気持ちになったけど、誰も場所を変えようとしないのでそのうちに慣れてしまった。


 ちなみにひよりやより姉がいない時はかの姉かあか姉が代わりに座るから、わたしの両側が空席になることはない。


 2人は順番を決めていないみたいだけど、争うことなくその時の状況次第って感じでわたしの隣に座る。性格は正反対なのに仲がいいんだよね。小さいころから2人でいることが多かったせいかな。


 テレビを見ながら何気ない会話をしていたら、いい時間になってきたのでお風呂に湯を張った。


 我が家のお風呂もこだわりポイントのひとつで、とにかく広い。

 旅館の家族風呂なみの広さがあるので姉たちが全員で入っても余裕なくらい。


 シャワーは4つ。

 

 本当はもっと増やそうとしたけど水圧が維持できないという理由でこうなったみたい。でもそれ以上増やす意味ないよね?


 家族全員で入る気だったのか?

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