眠りを知らない祈り
夕凪あゆ
第1話
私、夜に君のことを考えると、優しい空気を感じる。
時計の針が、やけに正確に響くものだから
何も起こらない部屋の中で、確かに世界は動いてるって、そう思える。
君のいない場所でも
私はまだ、君の形を覚えてるんだ。
窓の外、街灯の光が
薄くカーテンを透かして
その淡い影が、まるで君の輪郭みたいで
思わず手を伸ばしてしまう
届かないって、わかっているのに
触れたい、っていう気持ちだけで生きられる
ねえ、君は今どんな顔して笑ってるの?
もう、私の知らない季節を歩いてるの?
それでも私は、
君が置いていった言葉の欠片を
ひとつずつ撫でながら眠る
まるで祈るみたいに、そっと
優しさを装うのは、少し疲れた
でも、君に出会ったあの日の私を
まだ誇りに思いたいから
強がりでもなく、後悔でもなく
ただ静かに、君を想っていたい
そうやってまた、自分に嘘をつく。
もし世界に音がひとつしかなかったら
私は迷わず、君の声を選ぶ
それくらい、私の心の中の君は美しい。
日常に溶け込んで
誰にも気づかれないまま
でも確かに、そこにいる
好き、って言葉の続きは
まだ胸の奥で眠ってる
起こすたびに痛むけど
痛いのに、それが私の生きてる証みたいで
どうしても捨てられない
君の姿を認められない朝を、
何度も迎えた。
それでも、世界はちゃんと明るくて
私もそれに合わせて笑っている。
——この笑顔は偽物だけれども。
心のどこかで、
こんな私を君が見てくれていたら、なんて考える。
私の全てを分かってくれたら。許してくれたら。
私は君になんでもしてあげる。
そんなこと考える自分を、やさしく許してみる。
ねえ、あの夜の風、覚えてる?
夕陽に照らされた君の横顔が少し赤く染まって
何かを言いかけて、
でも飲み込んだあの瞬間の、その沈黙が。
――今でも私の中で、息をしてるんだ。
夜が更けて
呼吸が深くなるたび
心臓が静かに鳴る。
まるで、「まだ俺は、ここにいるよ」って
優しい声で囁くみたいに。
君が私を思い出す日が
もしほんの一瞬でもあるなら。
その瞬間、
この世界は私のものになる。
それだけで、生きていける気がする。
愛はたぶん、終わるものじゃない。
ただ、形を変えて、
静かに、日々の隙間に染みていく
そうして私は、
君を手放さないまま、手放せないまま、
大人になっていく。
今でも、
風の音の中に君を探すよ。
見えない何かを信じることが
こんなにも苦しくて、
それでもあたたかいなんて
あの日、人間を妬んでいた私には、
きっと想像もできないだろう。
だから、ねえ、もう一度だけ言わせて。
これは、嘘じゃない。
私の中のどこを切っても
君の名前で滲んでしまうほどに、
いつまでも、愛してる。
眠りを知らない祈り 夕凪あゆ @Ayu1030
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