大晦日の雪だるま

をはち

大晦日の雪だるま

一月三十一日の大晦日、凍える闇が東京の古い路地を覆っていた。


雪は音もなく降り積もり、まるで世界の罪を隠す白い帳のように街を包み込んでいた。


そんな夜、老舗蕎麦屋「いっぱち」の裏口に、邪悪な影が忍び寄っていた。


ごろつきの一団は、かつてこの店で働いていた小松という男の入れ知恵で、この夜を狙っていた。


大晦日の「いっぱち」は、年越し蕎麦を求める客でごった返し、一日の売り上げは札束の山になると小松がほのめかしたのだ。


年明けの二時、店じまいの喧騒が収まる頃を見計らって押し入れば、誰も気づかず大金を手にできる――


そう、小松は仲間をそそのかした。


「楽な仕事だ。店員は疲れ果て、客もいない。雪が降ってるから足跡も消える」と、小松は薄笑いを浮かべながら囁いた。


午前二時、裏口をこじ開け、一団は闇に紛れて店内に滑り込んだ。


だが、事態はすぐに暗転した。


店の主、老いた蕎麦職人の佐吉が不審者に気づき、提灯の明かりで小松の顔を照らし出した。


「お前…小松じゃねえか! 店の金を盗んで逃げた小松だ!」


佐吉の声は、怒りと驚愕に震えていた。


その瞬間、小松の目が狂気じみた光を帯びた。


懐から短刀を抜き、佐吉の胸を一突きにした。鮮血が畳に広がり、店内に重い沈黙が落ちた。


仲間たちは凍りつき、小松は冷ややかに命じた。


「こいつが騒げば、皆終わりだ。店の連中、全部始末しろ」


「いっぱち」で働く12人の従業員は、抵抗する間もなく次々と命を奪われた。


血の匂いが漂う中、店の外では雪が降り続き、この惨劇を隠すかのように静寂を重ねていた。


「死体はどうする?」


仲間の一人が震える声で尋ねた。


小松は窓の外の雪の山を見やり、冷たく言い放った。


「雪だるまだ。12体作ればいい。春まで溶けなけりゃ、誰も気づかねえ」


一団は店の前庭に積もった雪をかき集め、12体の雪だるまを築き上げた。


店の周囲を取り囲むように、まるで円陣を組むかのごとく配置された雪だるまに、死体を一つずつ押し込んだ。


雪は血を吸い込み、闇に紛れて何事もなかったかのように静けさを取り戻した。


金庫からは、予想を上回る札束が溢れていた。


酒蔵から見つけた古酒を手に、仲間たちは安堵と狂気の中で杯を傾けた。


「これで一発逆転だ」と、誰かが笑った。


だが、その笑いはどこか虚ろに響いた。


正月一日の昼過ぎ、異変が訪れた。


店の戸口に「休業」の札をかけ忘れ、暖簾も出しっぱなしだった。


雪だるまを作るために店の前の雪をきれいに掻き集めたせいで、


道が開かれたかのように客が次々と吸い込まれるようにやってきた。


小松はかつて蕎麦を打っていた経験を頼りに、客をさばくことにした。


「このくらい、朝メシ前だ」と豪語し、厨房に立った。


だが、茹で上がった蕎麦は異様な味がした。


出汁は濁り、蕎麦は不気味にねっとりとしていた。


客たちはざわつき始めた。


「この蕎麦、血の味がするぞ!」


「なんだこの店、気味が悪い!」


不満の声が店内に響き、騒ぎが広がる中、一人の客が小松を指さして叫んだ。


「おい、お前! 小松じゃねえか! あの泥棒の小松だ!」


その声に、店内が凍りついた。


客の一人が、かつて小松を知る男だったのだ。


男は目を血走らせ、店の外へ飛び出した。


「警察を呼べ! 泥棒がいるぞ!」


一団は慌てて逃げ出そうとした。


だが、店の周囲を囲む12体の雪だるまが、まるで監視者のように立ちはだかっていた。


雪だるまを避けようと路地を駆け抜けようとしたが、円陣のように配置された雪だるまは逃げ道を塞ぎ、


足元は凍りついた雪で滑りやすかった。


仲間の一人が転び、雪だるまにぶつかった。


崩れた雪の中から、青白い手が覗き、血に染まった顔が現れた。


「うわっ、死体だ!」


叫び声が元日の静寂を切り裂いた。


パニックに陥った一団は、雪だるまの間を縫うように逃げ惑ったが、


まるで雪だるまが動いているかのように、行く手を阻まれた。


誰かが振り返ると、雪だるまの目が、こちらを睨んでいるように見えた。


風の音か、それとも佐吉の呻き声か、店の方から不気味な響きが聞こえてきた。


「小松…お前も…逃げられねえ…」


まるで12体の雪だるまが囁いているかのようだった。


警察の足音が近づく中、一団は雪だるまの円陣に閉じ込められ、身動きが取れなくなった。


雪はなおも降り続き、12体の雪だるまは静かに佇んでいた。


だが、その下で、冷たく固まった死体が、春を待たずして真実を暴き、一団に因果の報いを下していた。

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