花火鯨は電脳おでんの花を咲かせるのか ~ドキドキ☆波乱のサマーミュージックフェスティバル~

ハクセキ レイ

第1話 ぼっちと水まんじゅう

 寂しいと言うより、虚しいと言う言葉が正しいのかもしれない。

 友達がほしいと言う理由で、VRMMOを始めて約3ヶ月が経過した。

 そして今、フレンドは0人。

 乾いた笑いが漏れる。


 バーチャル世界なら、気の合う友人の1人や2人、3人くらいは出来ると思っていたが、そう甘くはいかなかった。


 極度の人見知りと逃げ癖。コミュ障。

 最悪の三重奏。

 自分が自分の邪魔をしている。

 ここも結局は現実と同じだもんな。

 自分以外のユーザーも画面越しでは生身の人間。

 ネットを通してコミュニケーションをしているだけ。

 リアルでコミュニケーションをとるのが下手な人間が、この世界でも上手くいく訳が無い。

 そう。そうだよな。と、そう自分に言い聞かせる。


 でも、そうやって言い訳と自己嫌悪する自分がくだらなくてダサいとも思う。

 心底己に辟易する。


 まぁ、心の隅でそう思いつつも毎日このゲームにログインをするし、ソロ活と称してソロダンジョンを攻略したり、数多あるミニゲームを1人で遊び尽くしている。

 1人である事に空を覚えるが、それでも全力でやれることを楽しめている。才能が過ぎる。もしや天才か?


 そして今日もログイン直後のルーティンとして、いつもの場所に行く。

 ワールドが一望出来る見晴らし場。

 そこから見える景色は、リアルにも劣らない。

 なにより現実の時間とリンクした空になるのでお気に入り。

 今は朝焼け。

 早朝4時半。


 空から目線を逸らし、下の麓に目をやると自分の所属するワールドのメインエリアである『広場』が見えてくる。

 日中と深夜は賑わっているが、朝方のこの時間にはあまり人が居ない。

 チラホラと、まばらにユーザーが留まっている程度の様だ。


 普段の広場なら、多種多様なアバターが闊歩していて、とても賑わっていているんだけどな。

 人間、亜人、人外、獣、宇宙人、無機物、植物、よく分からないモノetc.

 各々が好みのモデルをこのゲームにインポートして使っているから、

 それはそれは百鬼夜行みたいで、眺めているだけでも面白いものだ。


 そして、今見えているのは、寝落ちて地面に横たわっている人たち、徹夜でゾンビのようにフラフラしている人たち、何故かずっとイチャイチャしている人たちくらいか。

 あ、嘘。

 自分みたいに朝活ログインをしているっぽい人も何人か居るな。

 ……その大半が誰かしらと共に居るけど。


 とは言え1人行動をしている人も居る。

 ならば自分も降りて、1人の人にちょっと声でもかけてみようかな。

「…………」

 その思いをキチンと行動に移せていたのなら、もう既に友人が出来ているだろうさ。

 気持ちとは裏腹に実行出来ない自分が嘆かわしい。


 でも悔やんでもいられないや。

 マイナスな事を考えている時間がもったいないし。

 だから、今日もいつもの如くソロダンジョンにでも行きますかー……


 虹?


 広場の奥、ちょっと離れた森に虹が掛かっている。

 いつから表示されていたんだろう?

 気が付かなかった。


 そう言えば、あの辺りには行ったことが無かったな。

 たまにはダンジョン攻略じゃなくて、ワールドの探索に行けって事なのかもしれない。

 これは何かの思し召しか?分からんけど。


 あ、もしかしたらランダムイベント出現の目印なのかも!

 それとも今までも定期的に出現していたけど気付かなかっただけ?

 まぁ、何でも良いや。

 何かあっても無くても良い。

 兎にも角にも近くに行って何かあるのか知りたい。

 そう思ったが吉日、自分は虹の根本に行くことにした。


 ふわりと宙に浮き、飛行して虹に近付く。


 これがもしも超低確率のイベントだとしたら、何か特別なアイテムでもドロップ出来るのだろうか?

「虹の根本にはお宝がある」とも言うし。

 でもそんな俗信がこのゲームでも通用しているのかな。

 ……してたら嬉しいな。


 特別なアイテム入手を切っ掛けに誰かが話しかけてくれてさ、そこから会話が弾んで、フレンドになれたりしたら最高だなぁ……って思うじゃん。

 夢の見すぎかな?良いよね、妄想くらいはさ。


 目的の上空に近付き、下を見た。


 キラキラと何か、透明な石のようなモノが虹の根元に落ちている様に見える。

 あれは……課金通貨のレインボージェムか……な?

 いや、それにしては大きいし色も微妙に違うか。

 上空からだと良く分からない。

 透明だけど水色と黄緑が内包されている様にも見える。アレに似てるな。何だっけ……えっと……。

 あ、あー!そう!

 水まんじゅう!水まんじゅうみたい。

 それが朝日と虹の光を反射させ、キラキラと輝いていた。


 やっぱり低確率イベントだったって事か!

 って事はアレがお宝?

 アイテムと言うよりはレア素材かな。

 いや、どちらにせよ宝だとしたら心が踊っちゃうね!


 我先に、誰かに先を超されて奪われない様にとスピードをあげて急降下する。


 目があった。

 水まんじゅうっぽいそれと。今、確かに。


 何を言っているか良く分からないと思うが、でもー瞬だけ突然の事に思考が停止した。

 驚くと脳味噌って考えるの止めるよな。

 そしてそのまま急ブレーキをする間も無く、自分は地面とキスをした。

「~~っ!?」

 痛みは無いけど最悪な気分だ。

 勢い良く顔面から地面にダイブしちゃったし。

 ただの映像と分かっているつもりだけど怖かった。

 未だに心臓がバクバクしている。

 夢だったら今の衝撃で目が覚めちゃうな。

 そんな事を思いながら立ち上がり、自分のアバターに異常が無いか確認をした。


 ここはダンジョンじゃないからHPと言う概念は無い訳だけど、思いっきり地面にぶつかったし、その衝撃でアバターのポリゴンやボーンがバグってないかとかテクスチャが変になってないかとか念の為ね。

 うん。変な動作はしてないな。見た目も見える不具合は無い。

 いつも通りだ。安心した。

 ホッと胸を撫で下ろす。


「ねぇ」


 安心したのも束の間、ドキリとした。

 中性的な声。自分のではない。

「凄い勢いで地面と衝突してたけど、大丈夫?」

「あ、は、はい。なんとか……」

 恐る恐るその声の方を向く。

「それは良かった」

 声の主はそう言いながら微笑んだ。





 地面から顔を突き出して。





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