魔法少女になりたかった少女はもういない

鳥谷光輝

第1話 私は魔法少女になりたかった

私は魔法少女になりたかった。


それは、あのステッキからボールみたいなやつを出すために野球まで始めた。魔法少女系の作品もたくさん読んだ。一言一句、口上を覚えて練習もした。ビームの代わりにボールを投げ込みもした。それほどまでに魔法少女になりたかった。


もちろん、魔法少女がいないことは小さい頃から知っていた。それでも憧れた。


しかし、大学生にもなると幼少期の憧れも忘れてしまい、当時始めた野球だけを惰性で今もやっている。


大学2年 7月2日

最寄駅で七夕の催しをやっていた。

どうせ、叶いっこないし書いてやれと思った私は魔法少女にしてくださいと書いた。叶えてほしいとも思ってない。あの頃のような思いではなく、ただ書くことがなかっただけだ。


7月8日 朝

昨日、片付けるのをためらった、洗濯物を取り込んでいると靴下に箱が入っていた。細長くワインを包むときに使うような箱だ。

やけに豪華だし、なんとも気味が悪い。

自分のではないため、取り込むことはせず放置することにした。


7月8日 昼ー学食にて

いつものように学食でお昼をとっていると後輩が声をかけてきた。

「先輩、魔法少女にはなれましたか?」

なんだ、こいつは?

「どうしたの急になれてないよ?」

「先輩ならきっとなれますよ!」

そう言い残すと彼女は走り去った。

なんだ、あいつは?その不快感と誰にも言ってないにも関わらず、彼女が知っているという違和感に戸惑いながらもカレーをかきこんだ。


7月8日 夜

東海地方の球団と関東地方の球団が試合をしている。どちらも贔屓ではないので、どっちも負けろと思いながら試合を見ていた。

今朝、靴下の中に入っていた箱は靴下ごと机に置かれている。不気味

カランカランと郵便受けで音がして「開封しろ」そう4文字だけ書かれた手紙が投函された。普通に嫌だ。こんな気味の悪いし、開封しろと言われるとしたくなくなるものだ。これの差出人はきっと泥棒に「待て」と言えば待ってくれると思っているのだろうか。ちょっとウケる。


7月22日 夜

あれから、2週間放置した。あの後も何度か「開けろ」とかいう命令口調の手紙が届いたが全て無視していた。

14度目の無視の後、箱はひとりでに光だし、勝手に開いた。ステッキが飛び出し、私の手に無理矢理収まった。

ぽわわわーんとした黄金の粒子が私を包み込み、キュインキュインとコスチュームが装着されていく。

そんな感じで魔法少女に変身した。変身前に着ていたジャージはどこかへ消えた。

契約書は勝手に署名され、勝手に契約された。

名実共に魔法少女になったわけだ。

袖の短いフリフリのシャツに、膝上フリフリのミニスカ。めちゃくちゃ恥ずかしい。

変身の解き方もわからないため、そのまま不貞寝した。


7月23日 朝

目が覚めると変身は解けており、普段のジャージだったが、普段はない疲労感のある朝を迎えた。

机の上にはぬいぐるみのような生き物がいた。

「おはよう ヒカリ わたしは 魔法少女 の アシスタント 〇〇◯だ」

上手く聞こえないし、何故か普通にいるしでめっちゃだるいしうざい。

「君が短冊に魔法少女になりたいって書いたから、叶えたのにだるいうざいはないでしょ」

普通にうざい、まじでうざい。なんだこのうさぎ。しかも普通に話すじゃん。さっきの

「おはよう ‥」みたいなのなんだよ。

「全部 わかってるぞ ヒカリ うざいって 言うな」

心読んでるのも腹立つ。

しっかり口論になった。

普通に負けた。


魔法少女 初陣 うざいうさぎ戦 ー敗北ー







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