第1話 何をやり直したいんだろう?

さてと、取り敢えず入学式があるみたいなのでそれに出席しないと不味いよね。中原いおりだから、結構、後ろの方なのかなとか思いつつ、別館の体育館に歩いていった。入学式で、パンフレットを持ってる人も珍しいだろうけど、私は砂河高校がどんな高校なのか概要だけでも入学式の周りの好奇な視線を耐えながらペラペラと読み込んでいく。こんな事してたら不良って思われないかな...まぁいいか。


先ずは進学実績だよねっ!

大学進学が殆どなんだ。意外だなぁ。

そう、私は高校卒業が最終学歴なので大学進学というのはよく分からなかった。あ、警察に行った人もいるんだ。え、自衛隊もあるのか色々あるんだなぁ。大学の内訳は...え!すごっ、有名私立大学、有名国公立大学の進学率が高いっ!なにこれめちゃくちゃ勉強しないと駄目じゃないの?次に館内の設備の項目をちらりと見て、うーんこれは、実際に学校を歩いてみないとわからないなぁって事で保留にした。


「新入生代表 中原いおりさん」

そうアナウンスがされた。あーうん、うん?

「はいっ!」とか叫んじゃいましたよっ!何で新入生代表なの?え、成績めちゃくちゃ良かったの?この中原いおり君は頭が良い生徒なの?それとも、気品があるとかですか?


といつつ、私はガクガクした脚を震わせながら登壇した。

うわぁ...圧巻。こんなにも大勢の人間が1点を注目、してないや、何か数名くらいは眠ってる...?まぁいいか、取り敢えずこの危機を回避しないと。原稿なんか用意してないよ。。。


「春が舞い降りて、寒い季節も暖かさに変わり、今日の門出を祝うことが出来る季節になりました」


それっぽいこと言っちゃいましたぁ!

何なんですか!そして、次に何を言えば良いのですか?


「私は、この砂河高校にて、勉学や運動に励み、、、こうして、新たに不安や希望とが胸の中でひしめき合ってます」


暗い暗い暗い暗い暗い暗い。

あと噛んだ。あと、私って使っちゃったよ。もういいや、こうなったらそれっぽい事を言って速く速く終わらせなきゃ、


「時には先生方からの叱咤激励もあるでしょう。それは不安ですが、私はそれに負けない希望を持ってこの入学式に望みました。」


パンフレット読み込んでた人が何言ってるんでしょうね。


「だからこそ、私は誠心誠意これらのことを有言実行して、日々精進しようと考えています。」

「この学園の教育指針も忘れないように、私はこの晴れやかな高校生活を高校生らしく楽しみ、生活していきたいと思います。以上です。」


よしっ、それっぽい。もういいだろ!

パチパチと油が跳ねるような音が鳴る。どうやら、成功みたいだ。よかった。というか原稿とかあったのかな。

大分短い新入生挨拶だったけど、取り敢えず降りていくか。


そして、私は自分の席へと戻っていった。それからは、校長の話やら、周辺地域の代表さんの話とかの形式的な儀礼を終えて、私の入学式は無事に終わることが出来た。


こうして、高校生活が始まる。

と、その前にこの館内を案内してもらわなきゃなとか思いながら、入学生たちは教室へと帰っていく。私の席は、中央の列の、よしっ、後ろだ。私は座った。横は女子2名と前の席は男子かな。はぁ、よかった無事に終わって、

それから、呆然と意識を飛ばして、担任の話を聞き流しながら、今日はこれで終わるみたいで、帰りに担任に聞きたいことがあり聞いた。


「先生」

「ん?」

「あの、その、校内が分からなくて。少し。歩いてみてもいいですか?」

「あー、んー、」

そうやって間をおいて、

「うん、いいよ。気をつけてね」

「ありがとうございますっ!」


ワクワクだねどんな教室があるんだろう。やり直したいって思ってた高校生活。でも、私はどんな高校生活をしたら満足できたのだろう。私の前の高校生活。周りの顔色ばかり伺ってたな、家庭環境もあまり良いとは言えなかった。学校自体が楽しくなかった。でも、学校自体は好きだった。あっ!食堂あるらしいし食べてから帰ろうかな。よーしっ、楽しみだっ!


えーと、先ず行きたいところは音楽室。私は音楽室を開けるとギターの歪んだ音とドラムの激しいリズムとお腹に響くベース音が一気に私の身体にのしかかってきた。な、なるほど。ここは軽音部みたいだった。


私は軽音部に入部しようと思っていた。音楽室の扉をすぐに閉めて、ドラム見つかるかな、ベース見つかるかなとワクワクな気持ちと、自分のギターは大丈夫かなと不安な気持ちもあった。


続いては美術室。おー、アグリッパの面取り石膏像と、スズランの少女の石膏像、ミロのヴィーナス、レリーフもある!机には、使い古された絵の具の残骸やら、筆が沢山。これは、退屈しなそうだ。


「あら、新入生?」

「え、あ、はいっ!」

「ゆっくり見てていいわよ」

「あ、ありがとうございます...」

どうやら、美術の先生みたいだ。すると、美術室に数名の女生徒が流れ込んできた。ああ、美術部なのかなと思い私は美術室を後にした。


うん、もう見たいところは見れたかな。でも、さっきも言ったけど、私は高校生活に何を求めてるんだろう。

良い大学に進学...?クラスの人気者...?長編スペクタルな大恋愛?

どれも違う気がする。なんか、どれもぱっとこない。


校門を出て家に歩いて帰る。

「何をやり直したかったんだろ」

そうやって、一抹の不安を抱えて今日は眠るのでした。

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