夜星の恋
@KFGYN
第1話
この星、エターナイトは、永遠の闇に包まれている。ただ遠くの恒星が淡い星明かりを落とすだけだ。熱は両極の巨大火山から噴き出し、地殻を伝って赤道帯に集まる。そこでしか、私たちのような知的生命体は生きられない。極地に近づけば、灼熱の溶岩が待ち受け、反対に離れれば凍てつく寒さが命を奪う。赤道の狭い帯域に、都市が連なる。そこは、星明かりの下で輝く結晶の森と、温かな温泉が点在する、唯一の楽園だ。
私はアリア。赤道都市のひとつ、クリスタリアの住人だ。結晶の森で、星明かりを反射する鉱石を採掘して生計を立てている。体は人間に似ているが、肌は淡い青みがかり、目は暗闇を貫くように鋭い。私たちの寿命は長く、恋は一生に一度のものだと言われる。なぜなら、この星の過酷さが、心を繋ぐ絆を試すから。
ある夜──この星ではいつも夜だが──私は森の奥で、彼に出会った。名前はレオン。極地の火山監視隊から来た男だ。火山の噴火を予測し、熱エネルギーの流れを制御する仕事。危険を伴うが、都市の存続に欠かせない。彼の体は、火山の熱に耐えるよう、わずかに赤みがかった肌を持ち、肩幅が広い。星明かりの下で、彼の目は輝いていた。
「ここは危険だ。森の奥は熱流が不安定なんだ」
レオンはそう言って、私を助けた。結晶の採掘中に、地殻の亀裂から熱気が噴き出し、私は転んでいた。彼の腕に抱えられ、温かな体温を感じた瞬間、何かが変わった。この星で、恋は突然訪れる。星明かりのように、淡く、しかし確実に。
それから、私たちは会うようになった。クリスタリアの温泉で、星を眺めながら話す。レオンは極地の話をした。両極の火山は、星の心臓だ。噴火すれば熱が赤道に流れ、生命を育む。でも、予測不能な噴火は、時には都市を脅かす。「俺はそこで戦っている。君のような人々が、安心して生きられるように」
私は微笑んだ。「あなたがいなければ、私たちは凍えてしまうわ。でも、危ないのよ。極地は命懸けだもの」
彼の目が優しく細まる。「君に会えて、初めてこの仕事に意味を感じた」
恋は深まった。星明かりの下で、手を繋ぎ、結晶の森を歩く。体を寄せ合い、永遠の夜を共有する。私たちの種族は、恋に落ちると、心の波長が同期する。互いの感情が、直接伝わるようになる。喜びも、痛みも。
だが、この星は恋を許さない。レオンの任務が、急変した。北極の火山が異変を起こし、熱流が乱れ始めた。赤道の気温が下がり、結晶の森が凍りつく兆しが見えた。レオンは、火山の中心部へ調査に行くことになった。極地は、星明かりさえ届かない灼熱の地獄。帰還率は低い。
「行かないで」私は泣いた。「一緒にいて」
彼は抱きしめた。「君のためだ。熱を安定させないと、この都市が失われる。待っていてくれ」
出発の夜、私は森の端で彼を見送った。星明かりが、彼の背中を照らす。心の波長を通じて、彼の不安が伝わってきた。恐れと、愛。
日々が過ぎた。熱流の乱れは悪化し、都市に寒気が忍び寄る。私は毎日、森で祈った。レオンの無事を。同期した心が、時折、温かな脈動を送ってくる。それが、私の支えだった。
やがて、奇跡が起きた。レオンが帰ってきた。傷だらけで、火山の灰にまみれていたが、生きていた。火山の噴火を制御し、熱を赤道に戻したのだ。「君の想いが、俺を導いた」
私たちは温泉で再会した。永遠の夜の下、互いの体を確かめ合う。肌が触れ、心が溶け合う。この星の過酷さが、私たちの愛を強くした。
今、私たちは一緒に暮らす。結晶の森で、新しい生命を育む。星明かりが、淡く輝く。この恋は、永遠だ。エターナイトの夜のように。
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