15.「二つの手掛かり(1)」

 時は少し遡って、潜入調査開始の前日。


「何故我がそんなことしなければならないワン? 断固として拒否するワン!」

「ぐへへ。駄目だ。一緒に来い。ほら、これをやる」

「ワオン! 骨だワン! ……ハッ! グルルルル! 呪いさえなければワン!」

「いやもう、呪いとか関係なく絆されてるじゃないっすか……魔王ともあろう存在が……」


 骨に跳んでむしゃぶりつく魔王ターサに、サユが呆れる。


「ぐへへ。他国に潜入するにあたって、お前たちは目立ち過ぎるからな。透明化する」


 庭に出て、巨躯を誇り高速での移動が可能なブラックドラゴンたち四匹のモンスターを見ながら、僕は呟いた。


 一刻も早くラルシィを救出するために、機動力は必須だからね。


「明朝までに透明化の魔導具を四つ入手しろ」

「はっ! かしこまりました」


 執事長兼私兵団団長のワドスに命じた。


 あちこちを探し回ってくれたワドスだったが。


「坊ちゃま、申し訳ございません。確保出来たのはこれだけでした……」


 項垂れながら彼が、腕輪形の透明化の魔導具一つを僕に手渡す。


「ぐへへ。気にするな。よくやった」


 透明化の魔導具なんて希少だし、時間も少なかったしね。


「えっと、坊ちゃま! 坊ちゃまに会いたいという商人の方がいらっしゃっています」


 と、そこに、メイドのメメイが声を掛けた。


 応接室に通してもらったのだが、やって来たのは、ローブに身を包み、フードで顔を隠した商人だった。


「貴方さまが透明化の魔導具を探していると小耳に挟みまして」


 そんなことを知ってるだなんて、この人すごい! 

 まだ探し始めてちょっとしか経っていないのに!


「こちらに三つございます。もし宜しければ、いかがでしょうか?」


 しかも、ちょうど三つ!


「ぐへへ。いくらだ?」

「一つにつき金貨五枚でございます」


 三つで金貨十五枚。

 相場通りだ。


 うちは公爵家だし、もし必死に探しているのを知っているのだとしたら、普通はもっと吹っ掛けてくるだろうに、なんて良心的なんだ!


「ぐへへ。ワドス。支払いを」

「はっ! かしこまりました」


 こうして、僕は透明化の魔導具を四つ入手することが出来た。


「ヴィラゴさま。この度はありがとうございました。貴方さまの旅路に幸多からんことを。フフフッ」


 そう言い残すと、商人は帰っていった。


「今、不気味な感じで笑ってたっすよ! っていうか、見た目も怪し過ぎっすよ!」


 居候という立場だからか、応接でも一緒にいたのにずっと黙っていたサユが口を開いた。


「ぐへへ。取引が上手くいって思わず笑みが零れただけだろう。それに、ファッションは人それぞれだ」

「しかも、旅路とか言ってたっすよ! 自分らがすぐに旅立つことを知ってるんすよ!」

「ぐへへ。偶然だろう。ああ、そう言えば、あの商人の名前を聞くのを忘れていたな」

「そんな人を家にあげて高価な買い物を!? セキュリティ大丈夫っすか!? 危な過ぎっすよ!」


 やっぱりサユは真面目だなぁ。すごく心配してくれる。


「ぐへへ。案ずるな。『鑑定』したが、三つとも正真正銘透明化の魔導具で、特段変わったところもない」

「いや、そうかもしれないっすけど!」


 納得出来ないという様子のサユだったが、兎にも角にも透明化の魔導具は手に入った。


「……まぁ良いっすけど。で、折角入手した魔導具っすから、すぐに使うんすよね?」


 彼女の問い掛けに、「いや」と、僕は口角を上げた。


※―※―※


 そして現在。


「ヴィラゴさま! 他国への潜入調査、頑張ってください!」

「ヴィラゴさま! 他国への潜入調査の成功を祈っています!」

「ヴィラゴさま! 他国への潜入調査、どうかお気を付けて!」

「「「「「ヴィラゴさま! 他国への潜入調査! 万歳!」」」」」

「何すかこの派手な出陣は!? 〝潜入〟の意味、分かってるっすかあああああああ!? それに、折角買ったアレを、何で使わないっすかああああ!?」


 僕とサユと魔王ターサが乗ったブラックドラゴン、ファーラが乗ったブラックベア、レピアとカカスが乗るフェンリル、ナフィが乗ったグリフォンが、街の中央通りの頭上と地上を悠々と行進し、僕たちは上から手を振り、聴衆が激励の言葉を贈り、両手を挙げる。


「ガハハハハ! 我が息子よ! 見事成し遂げてこい!」

「坊ちゃま! どうか御無事で!」

「坊ちゃま、御武運を」

「坊ちゃま、美味しいお料理を作って、お帰りをお待ちしております」


 父、メメイ、ワドス、そして料理長のフシェ、更には他の使用人たちも盛大に見送ってくれた。


「ぐへへ。ブラドラたちモンスター含め、俺様たち全員、これから大仕事を行うんだ。士気を高めておくのに越したことはない」

「でもこれは、やり過ぎっすよおおおおおお!」


※―※―※


 華々しく出陣した僕たちは、二組とも、まずは西隣にあるレイビット帝国に行くことにした。

 

 以前、四ヶ国連合が同時に攻めてくることを間接的に教えてくれた情報屋のメイフォルに会いに行くためだ。


「ぐへへ。他国と見せ掛けて、ティームヴィック王国内に潜伏している可能性もあるからな」


 まずはマヴァヌが他国にいることを突き止めた上で、出来ればアジトがどの国にあるのか、というところまで分かるとありがたい。


 なお、あの戦争後の四ヶ国連合に関して、僕たちの住むティームヴィック王国の国王さまは、寛大な処置をした。


 賠償金も請求せず、魔王国以外の三ヶ国がしれっと提案してきた再度の不可侵条約も締結してあげた。


「ぐへへ。もしそれで終わっていたならば、愚王と謗られていたかもしれんな」


 それだけなら、甘過ぎる、舐められると批判する者たちが出てきただろうけど、流石僕たちの国王さま、そんなことはしなかった。


 国王さまは、魔王亡き(本当は死んでないけど)魔王国――新生魔王国の新たな代表・副代表となったクレイドラゴンとゴーレムと会談をした。


 そう、あの戦争で一時的とはいえラルシィとサユの部下となったモンスターたちだ。


 ラルシィとサユが同席して通訳して、両国はまずは不可侵条約を締結した。


「ぐへへ。俺様もブラドラの言うことは分かるからな。一度は心が通じた間柄であるため、アイツらも分かるのだろう」

 

 そうして、ティームヴィック王国は、魔石の独占輸入権を得たのだ。

 全世界で一大市場を形成する魔導具、それを作るために必須の魔石の独占輸入権を。


 この異世界内では、魔石の九割は、ダンジョン内で採掘される。


 そのダンジョンを、人間との無駄な争いを避けるために、魔王国は全て閉じることとした(全てのダンジョンは、細く長く延びており、最終的には魔王国地下に通じている)。


 入り口をわざと崩落させて、侵入できないようにしたのだ。


「ぐへへ。無理矢理侵入すれば良いと考える者もいるだろうが、甘いな」


 魔法などで大穴を開けて強引に入ってきた不届き者には、強力なトラップが待ち構える。


 もし命からがらそのトラップを回避出来たとしても、そこに待ち受けるのは、ドラゴンをはじめとする、S級モンスターたちで、侵入者たちを入り口へと吹っ飛ばして排除することとなっている。


 これは全人間国へ既に通達済であり、ティームヴィック王国が魔王国から独占的に魔石を輸入する権利を得たことも、知れ渡っている。


「ぐへへ。経済活動は国の豊かさに直結する。当然、どの国も必死になる」


 その結果、残りの人間国が取れる選択肢は大きく制限された。


 そもそも、ダンジョンでモンスターを狩ってその牙・角・目玉などを売買するという、かなり大きな市場がほぼ無くなってしまった彼らは、せめて魔導具市場だけは手放したくないと考えて、何とか魔石を入手しようとした。


 そう。ほとんどの国々は、ティームヴィック王国に頭を下げて、利益分を上乗せされた価格で魔石を売ってもらうこととしたのだ。


 一部の国は、残り一割の魔石で何とかならないかと、炭鉱にてせっせと発掘に励んでいるようだが、ダンジョンと違い長時間掘っても微々たる量しか取れないため、恐らく一年も持たず、我が国に泣きついてくるだろう。


「ぐへへ。国王、中々やるな」


 戦争を仕掛けられたのを良いことに、他国から搾り取れるだけ搾り取るとは!

 国王さま、とっても悪役っぽくて素敵だね! 僕も負けていられないよ!


※―※―※


 荒野を超えて、僕たちは、レイビット帝国の帝都に到着した。


「ぐへへ。ブラドラたちはここで待機だ。透明化して待っていろ」

「ガァッ!」

「ゴアッ!」

「グルッ!」

「ピイッ!」


 少し手前で、ブラックドラゴンのブラドラ、ブラックベアのベベア、フェンリルのフェリリ、グリフォンのグフォンが頷くと、彼らは透明化した。


 彼らは首輪をしているのだが、それが腕輪形の透明化魔導具であり、身に着けた者が脳内で念じるだけで、発動出来る。


 使用者の身体の大きさに合わせて大きさは自在に変えられるタイプで良かった!


 僕ら六人と一匹は、城門にいる衛兵二人に事情を説明して、帝都内に入らせてもらった。

 

 本来は通行料を取るらしいが、戦争を仕掛けた負い目があるためか、ティームヴィック王国から来た者は無料で通らせているようだ。


「戦争を仕掛けておいて、負けたからご機嫌取りして、どうか許して欲しい、だなんて、調子が良いにも程があるわ!」

「ハッ! これから数年、場合によっては数十年単位で、あたいらの国に対して貿易で利益を提供し続けてくれるんだ、良いじゃないか。せいぜい自分たちが蒔いた種によって増えていく貿易赤字に苦しむと良いさ!」

「ナフィ、許せないの! こうなったら、帝都で一番美味しいスイーツを食いまくってやるの!」


 レピア・ファーラ・ナフィがプンプンと怒りを露にする。

 いや、最後の幼女だけは、怒りではなく食欲だった気もするが。


「っていうか、魔お――ターサが匂いで分かれば一発だったし! せっかく犬の姿してるのに、使えないし!」

「貴様、我に対する敬意が全く感じられんワン! それに、二百メートルくらいなら嗅ぎ取れるワン!」

「それくらい近付いたら、感知魔法でも反応出るし! ヴィラゴ。あんたは異世界転生だし、犬の嗅覚がどのくらいの距離まで匂いを嗅ぎ取れるか、知ってるし?」

「ぐへへ。確か二十キロだったな」

「キャハッ♪ 普通の犬の百分の一しか嗅覚がないとか、終わってるし!」

「グルルルル! 今すぐこの場で殺してや――ワオン! 骨だワン! ……ハッ!」


 中央通りを歩きながら彼女らのやり取りを眺めていた僕は、ヒートアップしそうになっていた魔王ターサに革袋から取り出した骨を放り投げて、少し落ち着かせてやった。


※―※―※


「申し訳ございません。ちょっと分からないですね……」


 冒険者ギルドで聞くと、受付の人は情報屋メイフォルのことは知らなかった。


「おう、そこに兄ちゃんたち。メイフォルを探してんのか?」


 冒険者ギルド内に併設されている酒場で、昼間からエールを飲むひげもじゃのおじさんが、赤ら顔で話しかけてきた。


「ぐへへ。知っているのか?」

「ああ。だが、ちと喉が渇いたな」

「ぐへへ。そこの女。この男に、エールを三杯持ってこい」

「エール三杯ですね! かしこまりました!」


 恐らく冒険者だろう、がっしりとした体格で斧を持ったおじさんにエールを奢ると、彼は上機嫌で教えてくれた。


「へへっ。悪ぃな兄ちゃん。ぐびぐび。ぷはぁー! そうそう、メイフォルだったな。中央通りを西へ真っ直ぐ行って、噴水手前、左手にある道具屋で聞いてみな」

「ぐへへ。感謝する」


 勘定を済ませ、冒険者ギルド入り口のスイングドアから出ようとすると。


「兄ちゃん、そんだけ大勢の嬢ちゃんたちの相手を毎晩するのも大変だろ? 気が向いたら二~三人分けてくれよな! ぶははは!」


 おじさんの下卑た笑い声に、レピアたち獣人少女三人が「ふうううう!」と、毛を逆立てて威嚇。


「ヴィラゴと毎晩……!? だ、駄目っス、そんな破廉恥なことは! 自分は勇者っすから!」


 サユは朱に染まった頬に手を当て、悩まし気な声を上げる。


「何言ってるし、あのおっさん? 呪い殺して良いし?」

「ぐへへ。魔力の無駄だ。止めておけ」


 真顔で訊ねるカカスを、僕は止めた。


※―※―※


「勇者さん! 御無事で何よりです!」


 道具屋に着くと、どこにいるかを聞くまでもなく、店長がメイフォルだった。


「あんたのおかげっすよ! 助かったっす!」

「いえ、自分はちゃんと情報を伝えられなかったですし……でも、本当に良かったです!」


 表向きは何の変哲もない道具屋だが実は情報屋という、カムフラージュなのだろう。


 僕たちの姿を見て挨拶をした直後、彼は「ちょっと失礼します」と言って、素早く外に出ると、入り口に掛かっている看板をひっくり返してクローズにして、扉を閉めた。


「ぐへへ。メイフォル。俺様たちは、ある情報を探している」


 僕がそう切り出すと、メイフォルさんは明るく笑った。


「勇者さんとヴィラゴさんたちの頼みなら、何でも言ってください! 無料で答えます! あ、ただ、俺が知らない情報の場合、三日ほど時間を頂けると助かります」


 人懐っこい笑みを浮かべる彼に、僕は叫んだ。


「このあんぽんたん!」

「あ、あんぽんたん!?」


 目を丸くするメイフォルさん。


「恩義があろうが、プロならばちゃんと金を取れ。しかも、お前は既に一度ただ働きをして恩は返したはずだ」

「! ……仰る通りですね。目が覚めました!」


 スッキリした表情の彼に、僕は依頼内容を説明する。


「なるほど、マヴァヌ、ですか……」

「潜伏先を知らないっすか?」

「いえ、残念ながら……ですが、全世界に広がる情報屋のネットワークを駆使すれば、きっと何かしらのヒントは見付かると思います!」


 僕は、金貨がパンパンに詰まった革袋を差し出した。


「ぐへへ。では、これを受け取れ」

「! こ、こんなに……!?」

「ああ。その代わり、三日ではなく、三時間で調べろ」

「! ……分かりました!」


 情報は命だからね!

 特に、今の僕たちには!


※―※―※


「ん~! ブルーベリーアイス、美味しいわ!」

「ハッ! ストロベリーが一番さ!」

「オレンジアイス、すごく美味しいの!」


 待っている間、レストランで昼食を食べて、その後スイーツを堪能した。


 サユとカカスも幸せそうに目尻を下げており、女子の甘いもの好きは、種族を超えて共通しているらしい。


「どの国にいるか、これで分かるし!」

「ぐへへ。そうだな。まぁ、一ヶ国に絞れるのがベストだが、二ヶ国の場合でも、あとは当初の計画通り、二手に分かれて探せば良いだけだ」


 ちなみに、出国する前に、カカスは、僕の家の通信魔導具を使って、ダークエルフの村の村長に連絡した。


 マヴァヌの名前を出すと、物凄く嫌そうな反応をしながらも、「潜伏先は知らない」と教えてくれた。ただ、「王国内にはいないだろう」とのことだったので、やはり国外の可能性が高いようだ。


※―※―※


「有力な情報が二つ、見付かりましたよ!」


 道具屋に戻ると、汗を拭いながら、メイフォルさんが明るい声を上げた。


 恐らくは、この短時間で、世界各国にいる何人もの情報屋仲間たちに通信魔導具で連絡を取って情報を聞き出したのだろう。


「本当っすか!?」

「はい! ただ……その二つの情報を同時に追うとなると、二ヶ国にまたがっちゃうんですが……」


 少し申し訳なさそうに、彼は説明を続ける。


「一つは、アジトの情報です。今いるレイビット帝国の西隣にあるリンティグーデ皇国北東部の活火山です」

「火山っすか!? え、まさか――」

「はい、火山の中――つまり、マグマの内部です」

「「「「「!」」」」」

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