アンドロイドの誕生日
森野 葉七
アンドロイドの誕生日
ここは田舎でもなく都会でもない街。
車はよく走っているが駅は少ない。
この街の中心部から少し外れたところのアパートに一人暮らしの女子大生が暮らしていた。
彼女は勉強が得意な訳でもなく、運動ができる訳でもなく、特に特技と呼べるようなものは無かった。
彼女の名前はマコといい、これもまたありふれた名前だ。
マコは真面目で、大学の講義には全て出席し、ノートもちゃんと取って成績もまあまあ良かった。
しかしそれは教授たちからの評価は良かったが、周りの学生からすれば地味で目立たない人という印象だった。
学生たちからマコの話題が上がるのはグループワークの時だけだった。
休日のマコは趣味を楽しむのだが、マコはインドア派で外へ出ない。
二日間とも誰とも会わずに、マコはひたすらゲームや漫画で時間を潰している。
マコは布団で寝転がりながら、自分に何か特技や能力などの自分だけの特徴が無いかと考えていた。
そんな生活にマコは少しずつ孤独を感じていた。
マコは誰かと話していたいタイプなのだが話す人がおらず、ついに我慢の限界が来た。
マコは久しぶりに自転車に乗り、昔の友達の家に行って話そうと思い、出発してペダルを漕ぎ始めた。
ここ数年は自転車に乗っていなかったのでかなりふらつきながら進む。
マコは信号が点滅しているところに急いで横断歩道へ突っ込んでいくと、マンホールを踏んで後輪が滑って転んでしまった。
目の前は大型トラック。
運転手の目に転んでいるマコは視界に入っていない。
信号が青に変わると、大型トラックは加速し始めた。
マコは慌てて前へ避けようとするが、自転車ごと脚を大型トラックに轢かれてしまう。
氷柱を横から叩き割ったような音を立てて、辺りには自転車の車輪の骨、ちぎれたチェーン、そしてマコの破片が飛び散った。
マコは横断歩道を這うように渡りきって振り返ると、大型トラックの運転手が走ってこちらへ向かってくるのが見えた。
運転手はマコの元へ駆け寄ると、「なんだ、アンドロイドか。驚かせやがって。…ほら、修理代の100万だ。じゃあな。」と言って去っていってしまった。
マコは運転手の言っている意味が分からなかった。
そういえば全く痛みを感じない脚の方を恐る恐る見ると、脚先はバラバラに砕け散っていた。
さらにマコの太ももがひび割れて黄色い配線も露出している。
マコは自分がアンドロイドだと信じられなかったが、目の前の光景を見るに認めざるを得なかった。
頭の中でぐるぐると考えながら家へ歩いて帰る。
たしかに特別な何かが欲しいとは願ったが、これではマコという存在すら怪しい。
家に着くとマコは布団へ一直線に向かい、掛布団に包まって閉じこもる。
考えれば考える程、マコは自分の存在が何なのか分からなくなってきた。
それによってマコは人間としての理性をすり減らし、無表情でいることが多くなった。
それもまた恐怖だった。
そのうちにマコはアンドロイドの体に乗っ取られ、恐怖すらもなくなった。
いや、恐怖を感じる理性が無くなったため、そもそも恐怖を感じることが出来なくなっていた。
しかし、他人とは違う自分だけの特徴を手に入れられたマコの姿はそこにあった。
アンドロイドの誕生日 森野 葉七 @morinobanana
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