深海の灯Ⅰ
第四次世界大戦が終結し、人間の身体には魔力を生み出す器官『烙円』が刻まれ、科学技術は地上から消え去った。
そして科学技術は、人に忘れ去られた深海で、AIによって過剰に発展していった。岩盤の中に作られた水中要塞『竜宮城』は、無限回のトライ&エラーによって科学が廃れた今でもその技術を拡張していっている。
そんな水中要塞の中には、棲み付いたテロリスト達がいる。
「ぐっふ……!」
「相変わらず思考が散漫だな。どんなに強かろうと、それで勝てると本当に思っているのか?」
和服少女の刀を能力で消し、腹部を狙って蹴り飛ばす。
ヒイング・メイキス。かつて世界一の傭兵集団ミーティアに所属し、今は自分たちの仲間を謀殺した者達へ復讐をしながら遺骨を回収している、世界にとって傍迷惑なテロリスト。
「ホタル様! ――っく!」
「お前は一人でも強いが、他の人間を立て過ぎだ。予想外の事が起きた時の切り替えが惡いのも気に食わん」
高速移動していたメイドさんの首を絞め落とし、ヒイングは簡単に手を払う。
復讐として暴れに暴れたヒイングは、徐々に出来る事が狭まっていた。独力で狩れる標的は狩り尽くし、世界もヒイングに対して照準を向けた。独りでは限界、だが新たな仲間を作りたくもない。そう考えたヒイングの答えは、そこら辺から死なない少女を集めて囮にする、という事だった。
「後はお前だけだが……」
「言っておくけど、今日の私は本当に負ける気は無いよ」
結果は大成功、囮としての役割を果たしつつ、強敵を撃破し自分の都合の良いように政変まで起こす。
少女たちを囮として運用する自分の判断は概ね間違っていないと思っているが、目の前のピンク髪のバカ女だけは間違いだった、とヒイングは反省している。
「今の私は、かつてないほどヒイングに怒っている」
ピンク髪の少女――囮の少女達、エルピスのムードメーカー、アーディア・アーカイブは背中の装甲にくっつけたジェットを最大出力にしヒイングへと突っ込む。
ヒイングは界華【虚無】を使う触媒である拳銃をアーディアへと向ける――
「無駄だって」
よりも先に、アーディアは界華【燎原】を発動させる。戦争に使われる武器を破壊する、戦争の界華。
触媒を失ったヒイングは、無理に界華を発動することも無く向かって来るアーディアを睨んだ。次の攻撃は想像できる、回避するつもりだ。
「余裕見せちゃって!」
アーディアはヒイングを本気で両断するつもりで、科学の光熱で作られた剣を手に取り、大きく振りかぶる。
「……あ、こっちも私の界華で壊れちゃってる。範囲指定、上手く行かないなぁ」
いつまでも経っても光の刀身が出来上がらない。アーディアの界華【燎原】は取り回しが難しく、仲間の危機で無ければ発動できないという条件も相まって未だ練度不足なのだ。
かといって振りかぶった手を今更どうする事も出来ない。アーディアはそのまま、ヒイングの整った顔面へと殴り掛かる。
「……お前、本気で俺とステゴロする気か?」
アーディアの本気の拳を、冷ややかな顔のまま左手で受け止めたヒイングは困惑を隠そうとしない。
アーディアは少しだけ首を倒し、直後思いっきり頭突きをヒイングの顎へとお見舞いする!
「ッッッ……!」
そんな一撃は想像していなかったのか、ヒイングは顎を抑えながらよろめく。そして、手加減の出来ない危機を感じ、目の前の化物のようなピンクを全力で蹴り飛ばす。
突っ込んできた速度と遜色無い速さで、アーディアは吹き飛び壁へと叩き付けられる。
「いっっったぁ~~~い……!」
纏っていた失効過学によるガードを衝撃吸収が働いたとはいえ、内臓にまでダメージが入る。口からは吐血をし、骨だって当然何本も折れているだろう。
だが、アーディアの山吹色の目が語っている。心は折れていない、と。
「……もう今回は終わりでいいぞ。油断した、とは言うまい。俺に一撃を加えられる人間はそうはいない。善い一撃と褒めるのも違うが、面白い攻撃だった。それに、制裁はさっきの一撃で充分だしな」
ヒイングは顎をさすりながら、溜息のような言葉を吐き出す。
対するアーディアは、口に溜まった血と一緒に言葉を吐き捨てる。
「それを決める決定権が、なんでヒイングにあると思っているの?」
「惡い質問だな。終わらせてやる、と言っているんだ。今からの俺は、間違いなくお前に対してやり過ぎるぞ」
ヒイングの脅しに対して、アーディアは静かに拳を握る。
「多分勝てないけど、それは敵を許す理由にも怒りを鎮める理由にもならないから」
「敵か、俺は?」
「敵だよ。突然故郷にやって来て、私の事を殺そうとした時よりも敵だと思ってる」
アーディアは三歩距離を取り、ヒイングを睨み付ける。
「今回ばかりは、絶対に許さない」
ホタルに仕込まれた、アーディアの武術が炸裂する!
そして、三十秒後。
コテンパン、念入りに足の骨を折られたアーディアを放り投げ、ヒイングは尋ねる。
「おい、なんで今日のコイツはここまで殺意が高いんだ。憎まれている自覚はあるが、ボルテージというものがあるだろ」
答えたのは、アーディアの親友であるエリザだ。
「ヒイング、この前プリン買って来たでしょ、一つ。地上から」
「ああ、買って来たな。自分の為に」
「それを勝手に食べられた、とアーちゃんは憤慨していましたわ。ヒイングの物は私の物って」
ヒイングはそれを聞き、笑おうとしたが笑えず、怒ろうとしたが怒れなかった。
「本当に久しぶりだよ。人間に対して怖い、と思った事は」
ヒイングは、こいつだけは間違いだったと、溜息と一緒に呟いた。
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