第5話:土壌分析と、炎の本当の使い道

異世界五日目。 こんがりと焼けた芋の根(もう「芋」でいいだろう)と、焼いた魚で朝食を済ませる。 熱い食事は、思考をクリアにしてくれる。


腹も満たされ、俺はついに「本来の目的」である畑予定地の前に立った。 結界の外では、今日も魔物が壁にぶつかって消えている。うるさい。無視だ。


俺はしゃがみ込み、土を掴んだ。 昨日は大まかに見ただけだが、今日からは本番だ。


「……なるほど」


土の色は悪くない。黒っぽい。有機物がそれなりに含まれている証拠だ。 だが、問題は手触りだ。 指でこねると、粘土のように少し固まる。水はけが悪い、「重い土」だ。 これでは根が呼吸できず、腐りやすくなる。


次に、酸性度(pH)だ。 リトマス試験紙なんて便利なものはない。 だが、実家で叩き込まれた知恵がある。


「指標植物(インジケータープランツ)……」


俺は周囲を見渡す。 その土地に生えている雑草を見れば、土の酸性度がだいたい分かる。 酸性を好む植物、アルカリ性を好む植物。


「……あった」


畑予定地のすぐ脇に、スギナ(土筆)によく似た、節くれだった植物が群生している。 こいつは、俺の知る限り、典型的な「酸性土壌」の証拠だ。


これで診断は出た。 『水はけが悪く、酸性が強い粘土質の土』。 正直、野菜作りには最悪に近いスタートだ。


「……素人なら、ここで絶望するだろうな」


だが、俺はプロ(の卵)だ。 問題が分かれば、やることは決まっている。


水はけの悪い粘土質には、有機物――腐葉土や堆肥を大量に投入して、土を「団粒化」させ、ふかふかにしてやる必要がある。 そして、強い酸性を中和するには、アルカリ性の「石灰」が必要だ。


「石灰……」


もちろん、そんなものはない。 だが、完璧な代用品がある。


俺は森へ向かい、枯れ木や落ち葉を大量に集め、畑予定地の隅に積み上げた。 そして、その山に向かって指を構える。 調理の時とは違う。遠慮はいらない。


「最強の炎」


指を鳴らす。 ゴォォォオオオ!!!


火柱が上がり、枯れ木の山が一瞬で巨大な篝火(かがりび)と化した。 熱風が結界の壁にぶつかって渦を巻いている。


「これだ」


俺はこの魔法を、調理道具(ホットプレート)程度にしか考えていなかった。 だが、違う。 これは、農業用の最強の「土壌改良」ツールだ。


火が消えれば、大量の「草木灰(そうもくはい)」が手に入る。 草木灰は、石灰と同じく、酸性の土を中和する最高のアルカリ性資材だ。 ついでに、カリウムやリン酸も補給できる。


結界の外で、火柱に驚いたのか、魔物たちがいつもより激しく壁を叩いている。 ドン!ドン!と、ひときわうるさい。


「うるさいぞ。こっちは今、お前らよりよっぽど役に立つ『灰』を作ってるんだ」


火が落ち着くまで、俺は次の作業に移る。 この灰を混ぜ込む前に、まずは土を深く掘り返さなければならない。 道具は……あのナイフ一本か。


「……鍬(くわ)が要るな」


俺は、道具作りという次の難題に目を向けながら、熱い炎を見つめていた。

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