第4話:俺はどこかのスローライフの素人ではない。
異世界四日目。 岩棚(拠点)で目を覚ました俺は、さっそく昨日の反省会を始めた。
火柱の輻射熱で芋を焼くのは、あまりにも無駄が多すぎる。 森火事でも起こしたら、この100万エーカーが全部燃えかねない。 「最強」とは、かくも使いにくいものか。
「……直接当てなきゃいい。熱を、何かに移せばいいんだ」
俺は川辺へ行き、手頃な大きさの、平らで分厚い石(花崗岩か?)を見繕ってきた。 岩棚の前にそれを据え、昨日採ってきた芋の根をナイフで薄くスライスする。
石に向かって、指を構える。 イメージは「弱火」。
プスッ。
指先に炎が灯る。 それを、そっと石に触れさせた。
ボッ!!
昨日、芋が炭化したのと同じ反応。 だが相手は石だ。燃えたりはしない。 炎は石の表面を舐めるように走り、ゴウ、と安定した音を立てて燃え続けた。
「……これだ」
石が徐々に熱を帯び、白っぽく変色していく。 数分も加熱すると、石の表面から陽炎(かげろう)が立ち上り始めた。 俺は魔法を解き、火を消す。
そこに、スライスした芋を並べていく。 ジュウウウゥゥ……!
最高の音だ。 芋が焼ける香ばしい匂いが立ち込める。 これぞ調理。これぞ文明。 完璧なホットプレートの完成だった。
こんがりと焼けた芋を口に放り込む。 熱い。甘い。美味い。 火が自在に使える。安全な寝床もある。当面の食料も(探せば)ある。 もう、サバイバル生活は終わりだ。
腹も満たされ、俺はついに「本来の目的」のために立ち上がった。 昨日目星をつけた、川沿いの平地。 ここを、俺の最初の畑にする。
俺は、おもむろにその場にしゃがみ込み、土を手で掴んだ。 指でこすり合わせ、匂いを嗅ぎ、舌先で微かに舐めてみる。
「……なるほどな」
ここが、俺の知識が試される最初の関門だ。
俺はどこかのスローライフの素人ではない。 実家は農家。就職するまで叩き込まれたのは、作物を育てる技術だ。 魔法もチートも(炎以外は)ない。 だが、俺には「土を見る目」と「経験」がある。
まず、この土が何者なのかを知らなくては始まらない。 酸性か、アルカリ性か。水はけは。有機物は。 作物の原種を探すのも重要だが、それを受け入れるベッドがなければ無意味だ。
「さて、土壌分析の開始だ」
結界の外では、今日も魔物が壁にぶつかって消えている。 だが俺には関係ない。 俺の異世界農業は、こういう地味なところから始まるのだ。
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