第2話 —カオス開幕・大乱闘獣娘シスターズ尻尾バトル!—

「えっ……ここ、本当に入っていいの……?」


入り口に立つのは、ゲームとアニメのステッカーで身を固めた若いオタク、首にカップホルダーを下げた中年サラリーマン、そして杖をついたじじいまで。噂を聞きつけ、甘狐喫茶に押し寄せてきた“狐娘になりたい願望”持ちの群れだ。


清志はふわふわの尻尾を揺らし、耳をぴくぴくさせながらカウンター越しに息を飲む。


「い……いらっしゃいませ……あの、契約のカプチーノを……」


客たちは目を輝かせ、次々に注文を口にする。

「狐娘になりたいです!」

「性別問わず、全員OKって本当ですか!?」


奥の狐娘たちは微笑むだけで、何も言わない。カップが差し出されると、客たちは躊躇なく飲む。


一口、二口……


「うわっ!?耳が……生えてきた!?」

「ちょ、ちょっと尻尾が勝手に揺れる……!」

「な……なんだこれ……俺、狐娘だ……!」


店内は一気に騒然。ふわふわの耳と尻尾が乱舞し、もはやカオス。

清志も新たな仲間たちと一緒に、ぎこちなくも注文を取り、カップを運ぶ。


「お、お待たせしました……カプチーノです……」

「ふわぁ……耳がぴくぴくする……かわいい……」

「あはは、これで俺も……女の子……?」


元オタクの狐娘たちは大喜び。元じじいの狐娘は、ふわふわの尻尾を振りながら杖で軽くカウンターをつつき、

「いや……思ったより悪くないな……」

と呟く。


しかし、甘狐喫茶の店内には暗黙のルールがある。

心から甘味を求めない者、強すぎる好奇心だけの者は、狐娘化してもすぐに元に戻る。


店内で踊るように尻尾を揺らす新人狐娘たちの姿に、清志はふと気づく。

「……俺、ほんとうにここでやっていけるのか……?」


奥の棚からカプチーノが次々と運ばれ、客の熱狂はさらに加速する。

「狐娘になりたい人~!前へ~!」

「はい、はい、はい!」


甘くて少し怖い、奇妙で異様な光景が、路地裏の小さな喫茶店に広がっていった。


* * *


「いや……甘いのは苦手なんだ……でも狐娘になれるなら……!」


扉を押し開けたのは、眉間に深い皺を寄せた偏屈な爺。背中は曲がり、手には杖――そして口からは渋い声で愚痴がこぼれる。


「何だこの香りは……甘い匂いで鼻がもげそうだ……」

店内では既に若いオタクや中年男性がふわふわ耳と尻尾を揺らしながら、ぎゃーぎゃーと盛り上がっている。


「いらっしゃいませ……あの、契約のカプチーノ……」

清志は震える耳をピクピクさせながら、偏屈爺に差し出す。


「飲むもんか……」


しかし、奥の狐娘たちが微笑むと、なぜか爺の手が勝手にカップに伸びる。

「こ、これは……?!」


一口……二口……


「むぐっ……!」


爺の背中にふわりと耳が生え、腰のあたりに小さな尻尾がもぞもぞと出てくる。頑固さ全開の目で鏡を見ると、そこにはちょっと不機嫌そうな狐娘が映っていた。


「……こ、こんな姿……俺じゃない……」


店内は大騒ぎだ。


若いオタク狐娘たちは、互いに尻尾を絡めてじゃれ合い


元じじい狐娘は杖を振り回してカウンター越しにバランスを取り


偏屈爺狐娘は渋い顔で耳をピクピクさせ、ふわふわの尻尾をぎゅっと握る


清志は耳をパタパタさせながら、カップを次々に運ぶ。


「お次のお客様も、全員……契約ですか……?」


その瞬間、入り口のベルが再び鳴る。

「あ、あの……狐娘になりたい……でも甘いものは苦手なんです……」


うわぁ……また来た。

今度は小柄な少年、赤ら顔のサラリーマン、杖をついた偏屈オタクまで。


店内はもう完全にカオス状態。

誰も落ち着かず、耳と尻尾が入り乱れ、カップの上の狐の顔が笑うように揺れる。

「ふふ……甘味を求める心は、どんな偏屈でも人を変える……」

奥の狐娘たちの影が、ひそやかに微笑む。


清志は深呼吸し、覚悟を決めた。

「……俺も、このカオスを受け入れるしかないか……!」


甘くて少し怖い、でも妙に心地よい大混乱の夜は、まだ始まったばかりだった。


* * *


店内はすでに戦場だ。

耳がピクピク、尻尾がぶんぶん、カップが空中で揺れる。若いオタク狐娘たちが互いにじゃれ合い、元じじい狐娘は杖を振り回してバランスを取り、偏屈爺狐娘はふわふわ尻尾を振り回しつつ眉間に皺を寄せる。


「キャーッ!私の尻尾に触らないでー!」

「そっちの尻尾、俺のカップを直撃したぞ!」


清志も必死にカップを運びながら、耳をパタパタ揺らす。


そのとき、店の奥から二人の存在感がふわりと現れた。


古狐(店の経営者):銀色に光る長い毛並み、深い知恵を感じさせる目。


甘狐(副経営者?):金色に輝く毛並み、微笑むだけで甘い香りが漂う存在。


「さて……今日も賑やかですな」

古狐はゆったりと尻尾を揺らすだけで、店内の騒ぎが少し落ち着くような気がする。


「でも……この店は、心から甘味を求める者しか、狐娘を維持できません」

甘狐が柔らかく告げると、戦場の中で耳と尻尾がちらりと揺れる者が現れる。


一口カプチーノを飲んだ者たちの中で、甘味を心から求めない者や、好奇心だけの者は――


若いオタクの狐娘は、尻尾がシュルシュルと小さくなり、耳が元の形に戻る


偏屈爺は、ふわふわの耳がしゅっと消えて背中が丸まる


元じじい狐娘も、杖を握ったまま人間の姿に戻る


「な……なんだ……消えた……!」

清志は目の前で次々に元に戻る仲間たちを見て、耳がピクピク揺れる。


しかし、心から甘味を愛する者だけが、狐娘の姿を維持できる。

ふわふわの耳と尻尾を揺らしながら、笑顔でカップを運ぶ者たち――それはまさに「狐娘シスターズ」の誕生だ。


古狐は静かに店内を見渡す。

「甘味を求める心……それこそが、この店の真理」

甘狐は小さく笑い、店内の空気を甘く包む。


清志は、耳と尻尾を揺らしながら思った。

「……これが、甘狐喫茶……ただのカフェじゃない、心の試練……!」


戦場は徐々に落ち着き、残った狐娘たちは互いに尻尾を絡めながら、今日の乱闘を笑い飛ばす。

しかし、店の奥では古狐と甘狐が、次なる訪問者の到来をじっと待っている――。

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