エコノミエンス

@Gee-kun-soft

第1話 古の悪魔が封印されし森で

この世界には、人類、魔族、悪魔、天使の4種が存在する。

しかし、天使は存在自体を疑われるほど確認事例が少ない。


人類が支配している領域は世界の 3分の1。

魔族が支配している領域は世界の 3分の2。


悪魔領は魔族領の中に存在し、面積はそれほど広くないようだ。


人類の人口が増え、領土拡大の為に魔族領へと人類側が攻め込んでいる。

今回攻め込んだ魔族領域は、古の悪魔が封印されし森なのだが……


俺の所属する部隊が、突然他の部隊から襲撃を受けた。


人類同士の殺戮が目前で繰り広げられ、戦場は混乱を極める。

敵味方が入り交じり、敵が分からなくなるほどの混戦の中で辺り一面が眩しい光に包まれた――


俺の体は光に包まれる直前に激しい衝撃を受け、後ろへ吹き飛ばされた時に鋭利に尖った物体が俺の胸を貫く……

赤く、生暖かい液体が肌を流れる感触が、死を直感させる。

次の瞬間、俺の体も光に包まれた――


自分の意識がハッキリしてきたので辺りを見回したが、俺の近くには誰もいない。

俺は生きているのだろうか?と思って自分の胸を見ると、そこには傷の跡すら何も残っていない……


あれは夢だったのだろうか?

それとも、今は死後の世界か?


「まさか、こんな形で眠りを妨げられるとは思ってもいなかった。

 不完全な覚醒で、しかも私とお主の一部が繋がっている状態のまま、エネルギーが固定化されてしまった様だな。」


なっ!?

いきなり、頭の中に女性の声が聞こえる!?

これは一体、どういうことなんだ?

俺は何者かに憑依されてしまったのだろうかっ!?


「まぁ、良い。トラブルも、また一興。

 ところで、お主の名前は何と言うのだ?」


声の主は、俺の素性を知りたいらしい。

俺に名前を尋ねて来るって事は、俺の記憶を勝手に読み取る事はできないのかもしれない。


「記憶は読めないが、お主の脳内で思考した内容は、私と情報が共有される。

 ただし、私はお主の思考を読み取れても、お主が私の思考を読み取る事はできないがな。

 お主に出来る事は、私が会話として送った情報のみだ。」


「それって、不公平ですよね?

 俺のプライバシーが無い!って言うか……」


「私は、お主に名前を問うたはずだが。」


この人、怖い……

先に言っておきますけど、俺の脳内では 「いつも変な事」を考えているので、聞きたくない時は適当に自分でブロックしてくださいね。

それでは改めまして、俺の名前は 「ライアン」。良い名前でしょう。


「ライアンか。私の名前は サタナキア。お主が死ぬと私の手間が増えるので、多少手助けをしてやる。3年経過すれば、いつ死んでも構わないぞ。」


「俺の命、残り 3年ですかっ!? 俺は後、100年は生きるつもりですけど!」


「長く生きるより燃え尽きるまで、燃えるような温もりを堪能した方が良いのではないか?」


「何を仰います。

 嫌いな奴や、気に食わない奴等が全員死に絶えるまで、絶対に死ねる訳がないでしょ!

 この世は、最後まで生き残った人間が勝者なんです。」


「なるほど、最後まで ゾンビに成らなかった人間が勝者なのだな。」


嫌な例えだなぁ……

24時間、ゾンビに追い回される世界は気が滅入る。


「お主が一番最初に ゾンビになるのだから、無用な心配だ。」


人の思考を勝手に読んで突っ込みを入れるのは、やめていただきたい。

それにしても、脳内で会話が成立している事は事実のようだ。

まぁ、相棒が一人できたと思えば大した問題ではないな。


「お主に 1つ頼みたい事がある。

 ここから東へ 100メートルほど離れた場所に、お主達の備品が散らかっている。

 長時間放置しておくと、何かと不都合が生じる可能性が高い。」


ライアンは、サタナキアの発言が言い終える前に全速力で駆け出した。

あれだけの戦闘が行われたのだ。お宝がいっぱい残っているに違いない!


「お主、走り出す方向が違うぞ。左手の方向へ軌道修正し、小岩の見える方向へ進が良い。」

サタナキアの呆れる顔が脳裏に浮かぶ。

確かに進む方向が分からなければ、お宝へは辿り着けない。


俺が山林の中を移動していると、見覚えのある場所へと辿り着いた。

そうだ!俺達は、この場所で戦闘を行った……


不思議な事に血の匂いもしないし、それどころか遺体すらも見当たらない。

まるで、人間の体だけが突然と消し去られてしまったかのような光景が、俺の目前に広がっている。

確かに武器や防具、全ての物がその場所に突然置き去りにされたかのようだ。


これは凄いな……お宝の山だ。

人間どころか、馬車を引く馬も消えている……


戦場の惨劇とは異なる何とも言えない恐怖と悪寒が、俺の全身を駆け巡った。


「これをこのまま放置する訳にはいかない。

 そこで、お主には後片付けをやってもらいたい訳だ。」


「何~っ!これ全部を、俺一人でか!?

 街で換金するにしても、これだけの量は厄介だぞ。」


「安心しろ。お主にアイテムボックスの使用を許可する。

 どんどんアイテムボックスに収納するとよかろう。」


「なるほど!アイテムボックスの能力持ちなら、持ち運びに超便利だな。

 アイテムボックスは、どうやって使用するんだ?」


「対象物を意識した状態で、収納!と心の中で考えるだけでよい。

 有効範囲は対象物との距離が、最大で約 20メートルまでだな。」


お~ぉっ!それは簡単な上、使い勝手が宜しい。

では、早速――


俺は瞬く間に、次々お宝をアイテムボックスへと収納していく。

これは、かなり楽しい!お宝達が次々とアイテムボックスへ収納され、あっという間に周辺が綺麗に片付いていくではないか!


「よ~し、次は向こう側だな。」

俺は、20~30分ほど夢中になって作業を続けた。

どんどんお宝が、アイテムボックスに貯まっていく感覚が癖になってしまいそうだぜ。


俺は周りを見渡して、これが最後の収納物である事の再確認を行った。

「ふ~う、これが最後の馬車だな。

 ……何とも言い難い気持ちだが、早速収納するとしようか……」


「食料となる物は、1つくらい残しておいた方が良いぞ。」

サタナキアの言葉が言い終えると同時に、俺は馬車をアイテムボックスに収納した。


んっ!?

何故アイテムボックスへ収納せず、残しておいた方が良いんだ?

何か意味があるのだろうか?


「それは、どういう意味なんだ?

 もうアイテムボックスに収納してしまったぞ。」


「実はな。今のお主では、アイテムボックスに収納した物を取り出す事ができない。」


なっ、何て重要な事を一番最後に仰るのかなぁ……

そういう重要な事は、一番最初に教えて戴きたい!


「……もしかすると食料だけでなく、お宝達もアイテムボックスから取り出す事はできない?」

「まぁ、当然そうなるな。」

「ちくしょう~っ!なんてこったい!」


これは悪夢だっ!否、詐欺と言っても間違いない!

俺は、騙されたんだっ!


「お、俺を騙して、掃除させたのか!?どうなんだよっ!」

「今は、お主の体を私が自由には出来ぬ故、お主の体はお主が動かさなくてはならない。」


否、否、時期に俺の体を乗っ取る事を宣言したようなものだぞ。

3年後には、俺の体が乗っ取られる事が確定ですかっ!?


「お主のレベルが上がれば、アイテムボックスも上手く使用できるようになるだろう。

 それまでの間、体に流れるエネルギーを感じ取って制御できるようになる事だな。」


「アイテムボックスの件は良いとしても、俺の体を乗っ取られては、俺が困る。」


「安心するが良い。エネルギーの制御が上手くできれば、体を乗っ取られる事はない。」


つまり、エネルギー制御が出来なければ、体の乗っ取り確定ですか!?

まぁ、何処までが本当の事かは疑わしいが、考えても仕方ない。

今直ぐに体を乗っ取られる事はないようだから、今は生き残る事を優先しよう。


俺達は、馬車が通れる道を進んできたのだから、この道を後戻りすれば街に戻れるはずだが……

俺一人で、この森と魔族領内を生きて帰らなくてはならない。ここに到達するまでにも、幾度かの戦闘があったし……


「食料も無いし、一人で人間の街まで戻る事が可能なのか?」


「一応ドラゴンが現れても、アイテムボックスに収納する事が可能だぞ。」


「ドラゴン相手に、一人で 20メートル以内に近づきたいとは思いませんけれどね。」

遠距離攻撃で攻撃されて、一貫の終わりですよ。

例え接近する事が出来たとしても、平常心で収納!とか念じている余裕がない事は断言できる。


「ちなみに、アイテムボックスに収納すると、ドラゴンの経験値は獲得できるんですか?」


「それは無理だな。ただ、アイテムボックスから自由に取り出せるようになれば、強い戦力になるだろう。」


否、否、アイテムボックスから取り出したら、敵が増えるだけでしょ。

……敵に包囲された状態ならば、ドラゴンを出す事で俺に逃げるチャンスが生まれるかもしれないけれど……

それもこれも、ドラゴンがアイテムボックスにいれば!だけれどね。


「アイテムボックスで、経験値稼ぎはできない!って事かぁ。

 取り出す事の出来ないアイテムボックスの使い道って……」


「今直ぐ答えを出さなくても良いさ。

 どうせ暫くは、この森の中から出る事はできないのだからな。

 まずは、生き残る為に行動する事だ。」


「衣食住かぁ。食事と睡眠が取れる場所は何としても欲しい。

 日が落ちる前に探索して、良い場所を見付けないとなぁ……」

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