恋する2人の行方は

山口甘利

恋する2人の行方は

 3年間付き合った瑛人との別れは儚いものだった。

 今日、電車で知らない女の子と手を繋いでるの見たけどどういうこと?、と亮介君と別れた後、瑛人にLINEをした。

 返事はこれだけ。

 “ごめん、好きな人ができた。別れよ。”

 あまりにも酷い文章に驚いた。私は好きな人ではなく手も繋いでいたのだから、彼女じゃないのかと思う。ごめん、とは私以外に好きな人ができたことに対してなのか、その人と手を繋いでいたからなのか。

 私はこんなにも冷酷な人だったのかと少し辛くなる。多分、私の前では“優しい人”を演じてたんだと思う。考えるだけで辛くなる。

 私以外の好きな人と付き合うなら、最初に連絡して欲しかった。確かに私だって、亮介君のことが好きになってしまった。でも、だからと言って付き合った訳でもなければ、さっきまで話したことすらなかった。

 なんだか複雑な気持ちになった。


 複雑な気持ちなままお風呂に入った後、ベットに転がりスマホを開いた。

 通知を上からスライドしていると、亮介君から15分前に連絡が来ていた。

 えっ、と嬉しい気持ちになる。すぐに通知を押した。

(亮介:体調とか大丈夫?体調崩さないようにゆっくり休んでね)

 優しい。短いのに嬉しくなる内容。わざと瑛人のことに触れないで、体調を心配してくれている。あの時、駅で亮介に会えて、亮介に話しかけて本当に良かった。

(詩央里:今日はありがとう。亮介君のおかげでほんとに助かった。彼氏とは無事別れることができました。ほんとにありがとう。)

 本当は、瑛人とのやり取りを詳しく話したかったけれど、これ以上迷惑をかけるのもどうかと思いやめた。何度も読み返し、送信ボタンを押した。

 亮介君と書いてしまったのは気づかないふりをして…。


一分程ですぐに返事が返ってきた。

(亮介:いえいえ、そんな感謝されることは全然してないよ。彼氏さんと何事もなく別れられたなら良かった。)

(詩央里:そんなことないよ、だいぶ助かった。何度も言うけど、ありがとう。じゃあ、もう遅いからおやすみ。)

 亮介君から、おやすみと書かれた柴犬のスタンプが返ってきてLINEはそこで終わった。

 せっかくだから、もっと話したかったけど時間は11時を回っていた。

 今日は長い一日だったなあ、と今日を振り返る。

 駅で初めて亮介君と話せたと思ったら、瑛人が浮気していて、それを見た私が泣いちゃって、亮介君に慰めてもらって、瑛人と別れて、亮介君とLINEをした。

 辛いのか、嬉しいのか、不思議な気持ちになった。でも、亮介君と仲良くなれて私は純粋に嬉しい。それは確か。


 次の日、一限目は席替えだった。ついこの間席替えをした気がするのに。

 もしかしたら、亮介君と離れるかもしれない…。

 そんな想いを胸に、くじを引き番号の書かれた席に行った。

 残念ながら、周りには亮介君はいない。

 私の席は、廊下から三列目の先頭。亮介君は運動場側の先頭だった。

 はあ、と静かにため息を吐く。せっかく話せたのに、席が離れるなんて...。

 でもやっぱり、プリントを配る時にチラリと亮介君を見てしまう。


 放課後、私は雨が止むのを席に座って、静かに待つ。傘を忘れてしまったのだ。朝は晴れていて、天気が良かったのに今は土砂降り。

 クラスには誰もいなかった。多分、中学最後の部活を楽しんでるんだろう。私も部活に入れば良かったと少し後悔する。玲奈も部活だからいない。

 窓の外を見ても、止む気配はない。宿題も終え、やることがなくなったから帰ることに決めた。雨にはだいぶ濡れるけど、駅までは走れば5分で着くはず。

 憂鬱な気持ちのまま、トボトボと歩き、靴を履き替えていると肩を叩かれた。

 静かに後ろを振り向くと、亮介君がいた。

「あっ、入山君。」

 体の温度が一気に高まる。

「ごめん、持ってたらあれなんだけど傘ある?」

 優しい表情で私の顔を見る。

「えっ、あっ。」

 上手く答えることができなかった。

「もし、なかったら2本あるから貸すよ。」

「えっ、いやいや、そんな大丈夫だよ。」

 それはダメだよ、と言って亮介君は白い傘を私に渡した。多分、日傘と兼用の傘だと思う。新品みたいにきれいだから、扱いが良いんだろうな。

 せっかく亮介君が傘を貸そうとしてくれているのだから、借りるべきなのか私は何度も自問自答した。

「ほんとにいいの?」

 借りなければ、びしょびしょで電車を乗ることになり、それはさすがに恥ずかしいなと思い、借りることにした。

「うん。使って。」

 優しく亮介君はそう言った。

「ありがとう。ほんとに助かった。」

 いえいえ、と亮介君は照れくさそうに首を小さく振った。そんな仕草がとても可愛く見える。いや、可愛いのかな。


 駅までの帰り道、たくさん話ができた。最近の成績だとか、趣味とか。好きな人のことを知る、この時間が何よりも幸せだった。

 亮介君は、傘をまた明日返してと言ってくれた。多分、私が駅からも濡れないように。その親切心が私の亮介君への好きをを進めた。

 でも私は電車での会話が頭から離れなかった。


 亮介君は、ふいにスマホを取り出しイルカの写真を見せた。

「イルカ?」

「うん。」

 なぜか亮介君は顔を赤らめてそう言った。

「イルカかわいいよね。これどこの水族館?」

「海遊館。ねえ、あのさ。」

 私は静かに頷いた。

「海遊館さ、今度一緒に行かない?」

 えっ、チラリと横を見ると亮介君は恥ずかしそうだった。まさか...。

「行きたい。」

「ほんとに?」

 目を輝かせながら亮介君はそう言った。

「うん。私も一緒に行きたい。私はいつでも空いてるよ。今週末でも。」

 なんとなく気がついていた気がする。私と亮介君は両思いじゃないのかって。でも今、それが確実だと思いた気がする。

「ほんと良かったー俺も今週末空いてるからさ、良かったら。」

 亮介君はそう嬉しそうに言った。

「うん。めっちゃ楽しみ。また、電車の時間とかあとでLINEするね。」

「ありがとう。」

 そう亮介君が言うと、ちょうど亮介君の最寄駅に着いた。

「じゃあ、また明日。」

「うん、バイバイ。」

 お互いに手を振りながらさよならをした。


 海遊館当日

 電車に揺られながら私たちは海遊館に向かっていた。

 電車を降り、道を歩いていると観覧車が見えた。小さい頃はよく観覧車に乗っていたなと思い出す。

「詩央里、ねえ観覧車乗らない?」

 実は、私たちはいつの間にか下の名前で呼び合うようになっていた。

「うん、乗りたい。」

 私たちは微笑み合い、観覧車へと向かった。

 観覧車からは色々な景色が見えた。ユニバや大阪の街並みや海。まだ11時だけど綺麗だ。

「詩央里、ちょっと話したいことがあるんだけど。」

 最上階に近づいた時、亮介君はそう言った。胸の鼓動が早くなる。

「うん、何?」

 平常心を保ちながら私はそう言った。もう最上階。

「詩央里のことが好きです。付き合って下さい。」

「はい。私も亮介君のことが出会った時から好きでした。お願いします。」

 互いに顔を赤らめながら告白をした。

 亮介君が本当に好きだ。勇気を出して、私を海遊館に誘ったこと。観覧車の最上階で告白してくれたこと。他にもたくさんある。言い切れないくらい。

 私は亮介君なら私を絶対に大事にしてくれる、そんな気がする。いや、そうだと思う。だから私はもう一度好きを伝える。

「亮介君、ほんとに好き。告白してくれてありがとう。」

 照れくさいけど、でも伝えたかった。

「俺も。詩央里のことがもう一目見た時からずっと好きでした。」

「ありがとう。」

 そう言って、静かに笑い合う。


 海遊館デートは、ドキドキが止まらなかった。だって、私たちは手を繋いでいたから。

 手を繋いだまま、かわいいイルカを2人でずっと見ていた。

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