やらかし王子の起死回生

もおきんるい

おれ、王子様に転生しちゃった?何、これって・・まさか、断罪真っ最中?


★ 『召喚に巻き込まれたアラサー女ですが、なんだか殿下が優しいです?』の

スピンオフ。隣の国のお話。光教の話のスピンオフでもあります。


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「王子!何を言ってるのですか!!」


はっ?!ダムールの声?

え?

なんだ?ここは・・・パーティー会場、かな・・?華やかだなー。

何だってそんな所に、おれ、いるんだろうねぇ・・


あれ?これはなんか見たことがあるなぁ・・・たしかー・・


妹に勧められたゲーム・・なんだっけ?





『にーちゃん、ほら、ここ!一番盛り上がるとこだよ〜』


『おい。今プレイ中なんだぞ。ネタバレやめぃ』


『みんなに悪役令嬢と誤解されたまま、王子に断罪されちゃう・・あーん、サリィムちゃ〜〜ん!』


そしてスチルを見たおれは・・・

一目惚れですよ!二次元美少女に!!

なんと、こんな可愛い子が断罪される・・だ、と?


『おのれ・・王子、死すべし!』


『死すべし!!』


兄妹二人で拳を天に突き上げ、声を上げるのだった。妹もサリィムちゃんが大好きだったもんなぁ・・・


で、おれは頑張って彼女を幸せにするルートを模索した・・・


が!!


幽閉、追放、死刑、暗殺・・・


なんでそんな『不幸の宝石箱やぁ〜〜〜!』な、ルートだけなんだ?

おれはウ●キ先生で調べたり、掲示板もいっぱいチェックしたさ!

おれと同じ思いの奴は多くいたようで、『サリィムちゃんを救済するスレ』は50を越していた。

掲示板の皆も、おれと同じ意見。


『王子はあのビッチを天真爛漫と思っていやがるが、天然ボケだっつーの。他にも攻略対象とも同時に仲良くなるって。あんなの、ビッチだビッチ』


おれは天然ボケだろうが天然たらしだろうが許さない。

おれのサリィムちゃんを地獄に落とすビッチ、そして王子もだ!


『ああ、おれがあの世界にいたのなら、絶対にサリィムちゃんを悲しませないのにー』




なーーんて思ってたんだが。


なんでゲーム世界にいるんでしょうかねぇ・・しかも王子とか。サリィムちゃんを悲しませ、苦しめ、死に追いやる元凶じゃん!


これって・・転生かな?

おれ・・そういえば・・


たしか海で泳いでたんだよな?そしたらカツオノエボシ・・電気クラゲが腹や足に3匹くらい張り付いて、強烈な痛みで足が動かなくて・・・意識が遠くなって・・・


つまり溺れて死んだんだな、ははは。それは置いといて。



で、今・・まさに!!

あの断罪のシーンじゃん?

ええええ?


おれは壇上にいて、サリィムちゃんを断罪・・・あ・・・サリィムちゃん泣いてる・・・


そして最初に戻るが、おれに駆け寄ったのが、護衛騎士で友人のダムール。凄い焦った表情してるわ、ははは・・・すまん!

つまり・・・

おれ、断罪しちゃったのかよぉ?事後ですね!言っちゃった後ですね!

あわわ、やばいまずい!!

なんでもっと早いタイミングで転生できなかったのかなぁ〜〜?せめて言う前に!!

慌ててサリィムちゃんに駆け寄ろうとすると、誰かが腕を引っ張るから足が止まった。

振り返ると、可愛い美少女がおれにしがみ付いている。


あ。


こいつ・・顔は可愛いが、ビッチ。純真に見えるけどビッチ。名前はビッテ。

名前のセンスがすげえ。ゲーム会社の人、どういうつもりでこんな名前つけちゃったんですかねぇ・・


「うげ、天然ボケビッチか」


「えっ」


おっと、スレの連中の通称がまろび出てしまったー。

おれは天然の手を振り払い、サリィムちゃんに駆け寄ろうとするが、それよりも先にダムールがサリィムちゃんに寄り添っている。そういえばダムールとサリィムちゃんは幼馴染だったな・・ん?

なんだ?

おれは何かを感じて・・・天然とダムールに視線を走らせた。そして・・

ビッチの視線と、ダムールの視線が交差するのを見逃さなかった。

あーはい、これって、アイコンタクトですねー。目配せって奴ですかねー。

・・・たしか・・・ダムールは、サリィムちゃんが追放される時に護衛として付き添うんだっけ。


あー。

これって、天然とダムールで密約してるのかな?

多分、ダムールはサリィムちゃんが好きなんだ。

おれが断罪し、追放する時に一緒に付いて行き、どこかで二人で駆け落ちするつもりなんだろう。

確かゲームでも、ダムールはサリィムちゃんの護衛として一緒に修道院に向かっていた。

・・・だめだ。行かせちゃだめだ・・!


たしか・・・

郊外を抜け森の道に入ったところで、待ち伏せしていた山賊にサリィムちゃんもダムールも殺されるんだ・・・

・・絶対、この山賊用意したのって天然じゃね?

だって、おれの気が変わってサリィムちゃんを呼び戻すかもしれない、じゃあ口封じも兼ねて、纏めて始末、ってか?


確かゲームでも、王子は『言いすぎた、追放はやりすぎだった、どうしてあんな事をしてしまったのだろう』と後悔する話があった。

そして呼び戻そうとするんだけど、サリィムちゃんもダムールも殺されたと言う知らせが来て・・

落胆する王子を、あの天然ボケが慰めるんだ。それで更に二人の愛が深まる・・だったな。

サリィムを生かしておく・・そんな不安要素、この天然が放っておく筈がない。

まあ、サリィムちゃんを排除するのは分かった。

でも協力者であるダムールまで纏めて始末・・・おいおいおいぃ〜〜〜・・・


ヒィ〜〜〜ロォ〜〜〜イィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン〜〜〜ビィイイ〜〜ッツチィイイ〜〜〜・・・

そこまでクソだったんですかぁ〜〜〜?


まあともかく。

断罪しちゃったおれは、ここでうまく誤魔化さないとサリィムちゃんを、更にダムールまでも失うことになる!!

ダムールを失った後の王子は、諫める者がいなくなって、どんどんビッチに依存するようになるんだよな・・


そして隣国に滅ぼされるんだよな・・


長くなるので話を端折るが、隣国が攻めてくるかもしれない事態である事を知ったビッチは、『話し合えば分かり合えます!』とか言って、和平を申し入れる為に隣国に赴いて拉致されるんだ。

そりゃそうだ。このバカ、確か単身乗り込んだんだよな。


で、そこの王子に惚れられてしまうんだ。なんでや隣国の王子。


ついにはビッチを取り合い、ダブル王子の決闘・・結果、隣国の王子が勝ち、王子は死亡。

ビッチは亡き王子を悼みながら、隣国王子と結ばれる。ジャジャ〜〜ン、ハッピーエンド・・そしてスタッフロール・・

王子おれにとってはバッドエンドだけどな!!


・・・あー、そう言うことか。分かったぞ〜。

ビッチは敵国王子エンドを目指しているんですねー。


そ、う、は、さ、せ、ぬ(怒)。シナリオを思い出すんだ・・・

さあ、おれの口八丁よ、覚醒せよーー・・・

おれはにっこりと微笑んだ。


「何を目配せしているんだ、ダムール、そしてビッチいやビッテ」


ああ、つい間違えちゃった〜。まろび出ちゃう〜〜。

おれはビッチの腕を払って、サリィムちゃんの傍に悠然と近付く。


「やれやれ、ようやく確信する事が出来た・・ダムール、この小娘に何を言われたんだ?」


ダムールは体を一瞬ビクッとさせる。


「小娘とは」


「おれの傍にいた、ほれ、この不敬極まりないこいつだ」


おれは天然ビッチに視線を向けて、じろりと睨んだ。

急に態度がガラリと変わった王子おれに、ビッチはやや怯む。


「王子様、不敬って」


「黙れ。おれが調子よく話に合わせていれば図に乗りおって」


サリィムちゃんをダムールからそっと引き離し、ダムールの耳元で話し掛ける。

あまり周りに内容を聞かせたくないからな。


「サリィムには本当、すまない事をした。先ずはこの不敬な奴の尻尾を掴みたかったのだ」


「・・尻尾ですって?」


「ダムールまでつまらぬ計略に巻き込んだのでな。なあ、ダムール。あの小娘、『サリィム様が王子様に断罪されるかもしれません。その時は、サリィム様をお支えください』とかなんとか・・言ってきたんだろう?違うか?」


ダムールは、おれをじっと見つめていたが・・


「・・はい。分かっていらしたのですか」


小さくぽつりと溢した。

うんうん、サリィムちゃんは可愛くて綺麗だもんなぁ。

でも王子おれの婚約者だ。いくら信頼する護衛で友人のお前でも、やるわけにはいかないねぇ。


「そんな事だろうと思ったよ。なんだか怪しいとは思っていたのだ」


「王子は・・断罪は、あれは狂言だった、と?」


「ご名答。この小娘、最近聖女だとか言われていて、どうにも振り解けないのでな。おれには婚約者もいると言うのに、人前で。恥晒しにも程がある。しかも、後ろ盾が光教ときたから無下にも出来なくてな」


聖女になると、光教と言う宗教団体がビッチの後ろ盾するようになるんだ。

聖女が入信すれば、聖女の力も手に入るし、広告塔としても役に立つしな。

この世界に2億人の信者がいる最大の宗教団体だ・・各国の王族達も、こいつらのお伺いしながら政をしている有様だ。

確かそんな話があったんだよな。

ゲームの『まつりごとの場面』で、いつも妹は大ポカをやらかすから隣国王子エンドに行けずしくじっていたっけ。


ちなみにおれは、隣国王子エンドもクリアしているぜ!

どういう流れかは熟知している。さあ、反撃開始だ。

腕の中にいるサリィムちゃんに『にこっ』と笑い掛けて。


「すまなかった、サリィム。驚いただろう?もう大丈夫。実は、聖女と光教団が何やらキナ臭い事を企んでいると聞いてね。茶番を演じてまでも、突き止めたかったんだ」


「王子様・・では先程の言葉は・・最近のあなたの行動は・・本心ではなかった、と・・?」


「そうだ。だがそのために・・君に辛い思いを強いた。謝って済む事ではないが・・これからは君のために生きていく。いや、嫌ってくれても構わない。おれを・・君の傍に居させてくれないか」


ひゃああ、サリィムちゃんうるうる瞳ぃい、かわいいいい・・いやいやいや、泣かしちゃってるだろうが!!

あまりにも尊くて、演技で無く『すっ』と体が動いちゃったわ。

サリィムちゃんの足元に片方の膝を付き、手を取ってその甲に接吻しちゃったわー。

あらやだ王子様みたーい。ああ、今おれ王子じゃーんやだーー。


「ゆ、赦します・・・赦しますわ、王子様・・」


ぽたっとひとつぶ、おれの頬に涙の滴が落ちた。

ああああん、泣かせちゃったよぅ。おれの前の奴、サリィムちゃんをこんなにも苦しめおってーー。

だが、これからはおれが幸せにしますからね!


でもまあ・・王子こいつも可哀想な奴ではあるんだ。

サリィムちゃんやダムールが死んでからの王子は、めっきり塞ぎ込んで頼りなくなってしまうんだ。

覇気が無くなった王子に、光教団は隣国の方が強いとみるや、この国を見捨てて隣国に肩入れをし出したんだ。

信者は教団の意向に添う。国民の半数以上が、光教信者という事は・・国民に見放されて、更に王子は追い込まれていく訳だ。そして決闘で負ける。

負けるだけじゃない、死んでしまうのだ。

乙女ゲーだから、この辺は感動的な雰囲気でぼやかされてはいるが、冷静に考えると酷い。

え?感動的な雰囲気?いわゆる・・


『王子様死なないで!わたしの為に命を落としてしまった・・!』とか言って王子にしがみついて泣く、ってアレ。

御涙頂戴の茶番、乙。


だが王子はかなり強かった。隣国の王子よりも強い筈だった。

だってゲームのストーリーの中で、クソビッチを助けるためにワイバーンと一騎打ちして見事勝つんだぜ?

強すぎじゃん!

薬?魔法?・・多分何かがあったんだ。そして実力が出せず、死んでしまった、いや殺されたんだ。

王子が死んだ事で、後継がいなくなったこの国は隣国に占領されてしまう。

まあぶっちゃければ、聖女が出しゃばって隣国に行かなければ、政治的に対話をして解決する事も出来た筈なのだ。


というわけで!!

国のため、サリィムちゃんのため、ダムールのためにも、ここで聖女ビッチをぶっ潰しておかなければならぬのだ。

ついでに光教団にも少々大人しくして戴く所存。


話の流れでは、王城を追い出されたサリィムちゃんを乗せた馬車、一緒に護衛としてダムールと数人の騎士達が森の道へ向かう流れ。まあ潰したけどな。


「急いで騎士を10名、郊外の森の道に向かわせろ!山賊がたむろしている筈だ」


おれの無茶振りの命令だけど、行きましたよ。だっておれ王子だもん!

早駆けの馬なら10数分で到着するからね、彼処。


あれぇ?ビッチなんかそわそわしてますねぇ。どうしてでしょうねぇ〜〜?



・・・数十分後。


おれの言葉通り、山賊が数人待ち構えていたそうで、騎士達と捕縛された山賊達が戻ってきた。

ゲーム中で、護衛としてはあるまじき気の抜けっぷりでやられてしまったサリィムちゃんの護衛騎士達だが、今送った騎士達は精鋭だからね。山賊が2・30人いたって10人の騎士には敵わないさ。


そして尋問タイム!

山賊どもに誰に雇われたかと問えば、金で雇われたと・・言うと思った。知らぬ存ぜぬってか?

魔法世界では、ウソ発見器よりも凄い『見た事を映像化出来る可視再現の術』ってのがあるんだよなぁ〜〜。ゲーム知識乙。

早速、山賊に術を掛けました!これってかなり高度な魔法の術なんだ。

まあ、おれ王子だもん!王子権限でほいっとな!

ほーら、画像がもわもわもわぁ〜〜〜って目の前に展開されたよ〜ん。

あ、こいつ光教の神父じゃん。クソビッチの護衛兼従者じゃーーん。なになに?


『もうすぐ追放された女と護衛の馬車が通るから、全員殺せ』ですって!まあやだ悪辣ぅ〜〜!

おやおやぁ?その当人、そこにいましたねぇ。まあクソビッチの護衛だし、いるよねぇ。

逃げなかったんですか?

まあまさか『見た事を映像化出来る可視再現の術』を使ってくるとは思いませんでしたかねぇ〜。

っつーか、こんな術知らなかったでしょうけどねぇ。

これ、王族限定の秘術ですからね。知らなくて当然。ま、この機会にバラしちゃえ♪


みなさ〜ん!この術で嘘もバレますからねーー!

王家には夢夢、刃向かわないようにしてくださいねーー!って事もアピール出来たね!ひゃはっ!


「さあて。神父殿の脳内も見せていただこうか。それと、小娘。貴様もだ」


おれはそれはそれは麗しい笑みで、ふたりを見つめました。

あれ?ビッチ何震えてるのさ。神父様にはじっくりと術を掛けさせてもらいますよ。

光教団のいろいろを教えていただきたいのでね・・




さて、その後だが・・・


聖女認定されていたビッチだが、まだ修行中で完全な聖女の術をまだ使えないらしく、今はこの国で一番高い山にある光教の神殿で修行中、いや幽閉中。もう外へは2度と出さねえけどな!!

王子の婚約者に不敬を働いたと言う事で、謹慎も兼ねている。もう降りてくんな。

光教団だが、神父が色々拙い『キナ臭い話』を露呈したために保護観察扱いとなって、各神殿には騎士が常駐する事となった。


こうして、我が国では光教団よりも王族の方が偉いと示す事が出来た。

その情報が広まって、他国の王族が我が国に訪問する事が多くなった。

内容はもちろん『光教団なんとかしたいんだけどーー』だ。

そーなんだよねー。鬱陶しいんだよねー、でかい宗教ってのは。まつりごとにも口を出してくるし。

で、そういう訪問希望の外国名簿の中に、隣国の名前が混じってた。あは!

おれは速攻隣国の訪問を許可し、ゲームでは決闘もした王子と対談したよ。

なんと仲良しになっちゃったよ!歳も近いし、話せばいい奴だったしね。

おれと王子は『光教団潰そうや』と、硬く握手を交わしたさ!




2年後、おれとサリィムちゃんの結婚式には、各国の王家の方々が来賓の席を埋め、その中には隣国の王子様が婚約者殿と連れ添って、拍手をしておれ達を祝ってくれている。

割れんばかりの拍手の中、おれはサリィムちゃんの手をエスコートして壇上へと進む。

最近まで調子付いていた光教団の神父では無く、この国最古の教会の神父様に婚姻の誓いを説いて貰うことにしたのだ。

これは『光教を重視しません』というメッセージも兼ねている。力関係大事。


この2年、おれはサリィムちゃんを甘やかし倒して、やっと結婚を赦してもらえたのだ。まったく前の奴は・・まあ許すけど。




前の奴、後は任せろ。

おれがサリィムちゃんを、国を、どっちも幸せにしてやるからな!!




・・・妹はまだこのゲームやってんのかなぁ・・


時々物思いに耽る事もあるが、まあ頑張れ。

政の場面では、宰相を言い負かさないと先には進めないからな・・・

その後のパズルが激ムズだし。あれ、お前に解けるのかなぁ・・

ヒントくらい教えてやっておけば良かったな・・

隣国王子はいい奴だから、おれを倒してでも先に進めよ。

エンドのスチルは、そりゃあもう素晴らしいからな。


おれはうとうととしつつ、サリィムちゃんを抱き締めて目を瞑る・・・



妹、まあ頑張れ。おれも頑張る。




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