まずはとにかく文章の質が高く、情景がすっと立ち上がってくるため、ほとんど引っかかりなくサクサク読めます。とくに「光」と「冷たさ」の描写が美しくて、蝋燭の揺れや雪の気配、白い髪や帷の質感などが、視覚だけでなく体感として伝わってきます。読んでいる側の呼吸まで少し冷えるような感覚がありました。
プロローグの「虚な目の少女」は、儀礼めいた敬語と生々しい欲望が同居していて、短いのに強烈です。少女側の反応をわずかに震えさせるだけで、関係性の非対称と不穏さが一気に確定します。読後感が綺麗ではないのに、視線を外せない引力がありました。
続く創世神話は語り口がきちんと神話調に整えられていて、世界の骨格を一段深く見せてくれました。四季の神の誕生が「贈り物」と「返礼」の反復で語られ、最後の冬だけが質的に違う形で生まれる構図が、この先の物語の残酷さや運命性を予告しているようです。情報提示でありながら、ちゃんと詩として読めるのが強いです。
第一部のカルモット村パートは一転して生活の手触りが濃く、ネヴェとマリットの軽口、食糧事情、倉庫番ハーリクの義足、インク作り、そしてノサリのスープの匂いまで、「生」が具体的に積み上がっていきます。だからこそ、ネヴェの力の匂わせや、ムグロの葉の場面が効いているんだと感じました。派手に開示せず、必要なところだけ静かに超常を差し込む手法……世界観が自然に馴染んできます。
皇都の建国祭では、同じ神話が「民の祝祭」と「宮廷の政治」と別の顔で接続され、視点の切り替えが鮮やかで、「上手いなあ」と思わず呟いてしまいました。
イーシャの小さな恐怖(白い衣にソースが跳ねたら終わる、という切実さ)が緊張感の受け皿になっていて、上層の冷たい言葉や礼儀の刃がより際立っていました。セレスタリアの甘い口調に混ざる残酷さ、アストリッドの衣装の違和感など、先の火種がきれいに仕込まれていますね。これは、何かあるぞ…と思わざるを得ません。
文章が上手いだけでなく、情報の出し方が丁寧。場面ごとの温度差もよく、静謐さの中に不穏と残酷が混ざっています。
神話と生活と政治が一本の糸で結ばれていくこの導入。全体的な完成度の高さも期待できますし、自分にはない才能のオンパレードで、「これは読まれるぞ」と確信までしました。才能、少し分けてください……笑
わたしは暖炉の前で、揺り椅子に揺れている。
外は暗く、雪さえもまともに見えやしない。
けれど、悪くないものだ。星の煌めきも、銀世界も見えはしないが、膝に掛けられたブランケットの温もりを感じるのにはちょうどいい。
カップに揺れる、苦く、濁ったそれを名残惜しそうに口をつけ、本を開く。
目の前の炎が希望と言うのであれば、外の果てしなき夜闇は絶望というのだろう。
だが、わたしたちは知っている。
その絶望の先に、必ず。
この炎よりも温かい希望があることを。
今はその夜が開けるのを、その結末に幕が降りる時を。ただ静かに待つだけなのだ。
あなたも、わたしたちに倣おうというのであれば、きっと、最後まで席を立たずにすむことだろうと思うんだ──。