チョコと秘密でつかまえて

星野志保

第1話 渋谷の交差点で恋が混ざる音がした



「……なに、これ」

窓の外に立ってた“影”は、手にチョコを持ったまま消えた。

代わりに、遠くからサイレンの音が聞こえてくる。


渋谷の夜は、きらきらしてて、でもどこかざわざわしてる。

――そして、だいたいの事件はここで起こる。


「なぁこはる、もう帰ろうぜ。先生もいないし」

健太がドアを蹴るけど、まだ開かない。

「マジで鍵壊れてんじゃん……」


そのとき、スマホが“ピロン”と鳴った。

グループLINEに、見知らぬ名前からメッセージが入っている。


【K】チョコを返して。返さないと、次は誰かが泣く。


「な、なにこれ……」

「ホラー!?」香澄が声を上げる。

悠は眉をひそめながらスマホを覗き込む。


「俺たち、誰かに監視されてる?」

「やめて、そういうの!」


すると、突然、ガチャリとドアが開いた。

制服姿の女の人が入ってきて、

ポニーテールを揺らしながら名乗った。


「渋谷署の朝霧です。みんな、無事?」


「け、警察!?」

「まじかっこいい!」健太がテンション上がる。


朝霧巡査は教室をぐるりと見回して、

「この学校で“脅迫まがいのメッセージ”が複数届いてるの。君たちも?」


「届きました……“K”ってやつから」

私がスマホを差し出すと、朝霧さんは真剣な目で画面を見た。


「……やっぱり。この“K”、いま渋谷の駅前にいる可能性がある」


え、駅前って、ここから歩いて5分じゃん。


「私が追う。君たちは校門まで避難して――」


その瞬間、教室の照明が“バチッ”と消えた。

停電。

窓の外から、校庭に走る足音。


「誰か、逃げた!」悠が叫んで、

みんなで廊下に飛び出す。


校門を出て、夜の渋谷の坂道を駆け下りる。

ネオンと車の光が目に刺さる。

人混みの中に、黒いパーカーの背中。


「待ってっ!」

思わず叫ぶと、パーカーの人が振り返った。


――その顔、見覚えがあった。


(うそ……なんで、あなたが?)


でも次の瞬間、トラックのライトがその人を照らす。

まっすぐ、こっちに突っ込んでくる。


「危ないっ!」


ドンッという音の直前、誰かに腕を引かれた。

振り返ると、朝霧巡査が私を抱き寄せていた。


「ギリギリだったね。……大丈夫?」

「は、はい……!」


トラックは急ブレーキをかけ、パーカーの人物は人混みに消えた。


残されたのは、道路の上に落ちたもうひとつのチョコ。

包みには、黒いペンで走り書きされていた。


『ほんとの告白は、まだこれから。』

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