配信ビデオ
とほこ
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高校の時の友達が死んだと連絡が来た。
高校を卒業してもう5年。そいつは高橋って奴で卒業後はお互いに就職に就いた。時々会って遊んでいたが、だいたい1年前くらいか、高橋が仕事をやめたあたりから連絡しても遊べないと返され、そこから連絡を取らなくなっていた。
高橋と俺は高校の時からパッとせず、よく2人でつるんでいた。あいつは慣れると自分の思想をベラベラ語るくせに強情で曲げやしない。だから友達ができないのだ、と俺は思っていた。かく言う俺も友達が少ないのでそいつに軽く合わせながら話をしていたのだが…。
連絡は高橋の親からだった。俺は高橋の家に遊びに行った唯一の友達らしい。だから高橋の親から覚えられており連絡が来た。
どうやら自殺だったらしい。少し離れた山で首を吊って死んだそうだ。だがそこには死んだという連絡だけでは無く、手伝いをして欲しいと言う文言があった。家族で終わらせればいい話じゃないかと思ったが、一人っ子でかつ高橋の親の歳が歳だ。仕方が無い。手伝いに行くことにした。
高橋は仕事に就いてから一人暮らしをしていたが、仕事を辞めてからも同じところに暮らしていたらしい。家賃も、食費も、何もかも親が支払っていた。高橋の親も仕事に就けとは言っていたが話を聞き入れず、それよりも大事な事があると言って聞かなかったという。
高橋の親に連れられて奴の家に入った。俺は目を疑った。そこには大量のビデオテープが積み上がっていたからだ。家具は最低限の物しかなく、後はビデオテープまみれだ。そのビデオテープのラベルには「終里ナイト○○月○○日○○時」と日付・時間が書いてある。どうやら日付順に積まれてるらしい。気味が悪い。なぜこの時代にビデオテープ?とも思った。高橋の趣味なのだろうか?
高橋の親に聞くと、「一度本気で就職に就けと家族会議になった時にこの名前が出てきたような気がするのよねぇ…。彼女の配信が最優先とかどうとか言って…。」と言われた。そうか、この配信者にハマって仕事を辞めたのか、と思った。俺はその配信者の名前を聞いたことも無かったが…。
俺は興味本位で高橋の親にこのビデオを見ても良いかと聞いた。まぁ、別にといった感じで見ても良いと言われたのでこの家にあったビデオデッキを使い見ようとした。しかし、ビデオデッキにテープを入れてもすぐ出てきてしまう。どうやら壊れているらしい。こうなるとどうしても見たくなる。日も暮れてきたので、俺は高橋の親に後は任せてくれと言って帰ってもらい、中古屋にビデオデッキを買いに行った。そこには何が映っているのか。気になってしょうがない。
ビデオデッキを買い、高橋の家に着く。コンセントを繋ぎ日付の1番古いビデオテープを入れる。すると映った。知らないVtuberの配信が。かわいいく、儚い声だ。そこで彼女はVtuber特有の挨拶をしていた。
「初めまして、あなたの夜に優しく寄り添う、終里ナイトです…。よろしくお願いします…。」
高橋…このVtuberにハマってたのか…。配信の様子は至って普通。特段面白くも無ければ、リアクションも薄い。けどなんだか癖になる。なんだかんだ高橋と好きな物のフィーリングが合うのかも知れない。ずっと見ていると確かにちょっとハマっていた。俺はその配信ビデオを見ながら終里ナイトと検索した。だがYouTubeのアカウントは無くなっていた。どうやら引退しているらしい。TwitterのアカウントともSNS関係は特に出てこない。
俺はTwitterで検索をかけてみた。すると数えるくらいの応援イラストと配信感想が出てくるのを見た。そして最新のツイートタブに移動させると。「また終里ナイトちゃんの配信見たいなぁ…」「終里ナイト…どうして急に辞めたんだ…生きがいが…」などのツイートを見た。
どうやら全てのSNS関係を急に消したらしい。だいたい1ヶ月前くらいだろうかと推測できる。…にしては話題が少ないな、と思った。今流しているビデオの視聴者数を見ると3人。まぁ、最初の方だからな、と思い日付の中盤頃のテープを入れて見た。それでも視聴者数は16人。まぁ、なかなか見てもらうのは難しいのかなぁと思った時、聞き覚えのある言葉をその配信者が口に出した。
「ちょっと…この道アイテム無いじゃないですか…、タナカの橋さん…!」
タナカの橋!高橋が昔一緒にやってたソシャゲで使っていたハンドルネームだ!
まぁ当たり前と言えばそうだが、高橋はコメントを残していたらしい。しかも馴れ馴れしく、相手をイジるような感じで。普通にイメージが悪い。個人的に嫌なタイプのコメントだ。配信者は笑って過ごしていたが面倒くさい感じを放っている。しかも高橋はどんどんコメントをしていく。こういうのを見ると配信者は大変だと身に染みて感じる。
俺は飛ばし飛ばしビデオを見ながらそのVtuberの配信の様子を見ていた。高橋のコメントが鬱陶しいなぁと思いながら…。すると最後から2番目のテープを見ていて、少し時間を飛ばすと急に配信者の怒号が聞こえた。
俺はびっくりした。声を荒げるような配信者では無いからだ。どうやら高橋とケンカをしているらしい。
「そんなに言うのならコメントブロックしますからね!」
配信者がムキになって言う。こちらからは見える。高橋が平謝りなコメントを打っているのを。しかしもうブロックしているらしい。コメントは読み上げられない。他のユーザーも配信者を慰めている。
事の重要さを理解したのか高橋がしっかりした謝りのコメントを打つ。が読まれない。そりゃブロックされてるのだろうから見れていない。しかしどんどん打っている。どんどん、次第に過激なコメントになり、そのうち「殺してやる」とまで打ち込んでいた。
普通に怖い。しかし配信は終了し、ビデオテープはそこで終わった。次のビデオテープで最後だが、ちょっと見るのが怖い。でもそのテープを掴みビデオデッキを入れる。やっぱり最後は見てみたくなるものだ。
最後のビデオ、高橋はコメントをしていない。配信者は普通に雑談配信している。録画だけがされている。すると1時間後くらいに配信者が席を外した。宅配が来たらしい。しばらくして配信者が戻る。少し小さな声で「ごめん…今日用事があったんだ…。今日の配信はこれで終わるね…。」そう言って配信が切れた。
しかし録画は終わらない、「配信が終了しました」の画面から終わらない。早送りして見てもその画面のままだ。ついにはそのままビデオは終わってしまった。
俺はそのビデオを巻き戻し、席を外すシーンまで戻した。そして再生する。席を外して1分、何か小さく音が聞こえる。ちょっと戻して音量を上げ、その音を聞く。すると小さく悲鳴のようなものが聞こえる気がした。そして配信者が戻り配信終了の言葉を言う。何か違和感がする。もう一度巻き戻し、よくよく聞いてみる。すると、配信者の声とは違う。男が女の声を真似しているかのように聞こえるのだ。
背中がゾッとした後すぐテープを取り出した。すると最後のテープに興味を持っていたせいか、テープを入れた時には気づかなかったが、その表面には文字が書いてあった。滲んだ、黒の油性ペンで。
「これらのテープは見ずに捨ててください」
俺は高橋の家を出て高橋の親に電話をかけた。
配信ビデオ とほこ @tohoko
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