第18話「仲間との再構築」



 第一回戦の会場。


 僕たちは、南天学園と向かい合っていた。


 南天学園のメンバーは、五人。


 全員が、沖縄独特の穏やかな雰囲気を纏っていた。


 だが——その目は、鋭かった。


 リーダーらしき青年が、前に出た。


「はいさい。俺は、南天学園の部長——島袋タクマだ」


 彼が、穏やかに微笑んだ。


「よろしくな、本土の人たち」


 御影が、頷いた。


「よろしく」


---


 審判が、ルールを説明した。


「第一回戦は、ブラックジャック」


「各校から三名ずつ出場し、総合得点で勝敗を決する」


 審判が、僕たちを見た。


「カジノ部、出場者を選んでください」


 御影が、僕たちを見回した。


「神楽くん、天音、司——お前たちに任せるぞ」


「……分かった」


 僕たち三人が、前に出た。


 南天学園からも、三人が前に出た。


 島袋タクマ、そして——二人の少女。


「俺の能力は——"気配察知"」島袋が言った。「相手の"気"を読める」


 一人目の少女が言った。


「私は、比嘉ユイ。能力は——"感情の波"。相手の感情を、波のように揺らせる」


 二人目の少女が言った。


「私は、宮城アヤノ。能力は——"記憶の霧"。相手の記憶を、一時的に曖昧にする」


---


 僕は、三人の能力を分析した。


 気配察知——心理を読む能力。


 感情の波——感情を揺さぶる能力。


 記憶の霧——記憶を曖昧にする能力。


 どれも——厄介だ。


 だが——。


 僕は、仲間を見た。


 天音、司——二人がいる。


 一人じゃない。


---


 ゲームが始まった。


 僕 vs 島袋。


 天音 vs 比嘉。


 司 vs 宮城。


 三つのテーブルで、同時に戦いが進む。


---


 第一ゲーム。


 カードが配られる。


```

僕の手札:K♠、7♥ = 17

島袋の手札:10♦、? = 10 + ?

```


 島袋が、僕を見た。


「……お前、今——迷ってるな」


「……!」


「気配で分かる。お前の心が——揺れてる」


 島袋が、微笑んだ。


「だが、それでいい。人間だもの、迷うさ」


---


 島袋が、ヒットした。


 カードが配られる。9♣。


「バースト」


 島袋が、苦笑した。


「俺の負けだ」


 僕は、驚いた。


 彼は——わざと負けた?


「島袋」僕は言った。「お前、俺の心を読めたなら——勝てただろう」


「ああ」島袋が頷いた。「でも、勝つことが全てじゃない」


「……?」


「俺たちのポリシーは——"楽しく戦う"ことさ」


 島袋が、穏やかに微笑んだ。


「だから、勝ち負けより——お前との勝負を、楽しみたい」


---


 その言葉に——僕は、心が軽くなった。


 シオリとの戦い以来、ずっと——心に重石があった。


 だが、島袋の言葉が——その重石を取り除いてくれた。


「……ありがとう」


「ん?何が?」


「お前の言葉——俺を、楽にしてくれた」


 島袋が、満面の笑みで言った。


「いいってことよ!さあ、次も楽しもうぜ!」


---


 一方、天音のテーブル。


 天音は、比嘉の"感情の波"に苦戦していた。


 感情が揺さぶられ——判断が定まらない。


「天音ちゃん」比嘉が、優しく言った。「あなた、今——不安でいっぱいね」


「……!」


「大丈夫よ。みんな、そうだから」


 比嘉が、微笑んだ。


「でもね——その不安を、力に変えられるわ」


「……力に?」


「そう。不安があるから——慎重になれる。慎重だから——ミスが減る」


 比嘉の言葉に——天音の表情が、明るくなった。


「……そっか。不安は、悪いものじゃないんだ」


「ええ」


---


 司のテーブル。


 司は、宮城の"記憶の霧"に苦戦していた。


 カードの記憶が——曖昧になる。


「司くん」宮城が言った。「あなた、記憶に頼りすぎてるわ」


「……そうかもしれない」


「でもね」宮城が、優しく言った。「記憶がなくても——"今"を見れば、戦える」


「今?」


「そう。過去のデータじゃなく——"今、目の前にあるもの"を見る」


 宮城の言葉に——司が、はっとした顔をした。


「……そうか。俺は、データに囚われていた」


---


 ゲームが進むにつれ——僕たちは、南天学園から多くを学んだ。


 島袋からは——"楽しむこと"の大切さ。


 比嘉からは——"不安を力に変える"方法。


 宮城からは——"今を見る"重要性。


 そして——。


```

最終スコア:

カジノ部 15勝

南天学園 15勝


引き分け

```


---


 引き分け——。


 審判が、困惑した顔をした。


「これは……延長戦ですが——」


 その時、島袋が手を上げた。


「いや、俺たちの負けでいい」


「……え?」


「俺たちは——勝つために来たんじゃない。楽しむために来た」


 島袋が、僕たちを見た。


「そして——楽しめた。だから、もう満足さ」


 島袋が、深く頭を下げた。


「ありがとう。いい勝負だった」


---


 僕たちは——南天学園のメンバーと握手した。


 島袋が、僕に言った。


「神楽くん。お前、いい目をしてる」


「……いい目?」


「ああ」島袋が微笑んだ。「迷いながらも、前を向いてる目だ」


 島袋が、僕の肩を叩いた。


「その目を——忘れるなよ」


「……ああ」


---


 南天学園が去った後。


 天音が、涙を浮かべて言った。


「みんな……優しかったね」


 凛が、小さく笑った。


「……ああ。敵なのに、私たちを助けてくれた」


 司が、眼鏡を押し上げた。


「あれが——真の強者か」


 御影が、穏やかに言った。


「ああ。勝ち負けより——大切なものがある」


 御影が、僕を見た。


「神楽くん。お前も、感じただろう?」


「……ああ」


---


 その夜。


 僕たちは、宿舎で集まっていた。


 御影が、ホワイトボードに図を描いた。


「今日の戦いで——お前たちは、何を学んだ?」


 天音が、手を上げた。


「不安は——力に変えられる」


 司が言った。


「記憶より——今を見ることが大切」


 凛が言った。


「勝ち負けより——楽しむことが大切」


 御影が、頷いた。


「そうだ。そして——」


 御影が、僕を見た。


「神楽くん。お前は?」


---


 僕は、少し考えた。


「俺は——"仲間"の大切さを、学んだ」


「……仲間?」


「ああ」僕は、みんなを見た。「今日、俺は一人で戦ってたわけじゃない」


「天音がいた。司がいた。凛がいた。御影がいた」


 僕は、微笑んだ。


「みんながいたから——俺は、戦えた」


 天音が、涙を流しながら笑った。


「ユウくん……」


 凛が、照れくさそうに顔を背けた。


「……まあ、当然でしょ」


 司が、小さく笑った。


「データ的にも——チームワークは重要だからな」


 御影が、満足そうに頷いた。


「いい答えだ」


---


 御影が、ホワイトボードに大きく書いた。


```

【カジノ部の最強の武器】


仲間

```


「これが——お前たちの、本当の力だ」


 御影が、真剣な目で言った。


「能力じゃない。論理でもない」


「"仲間"こそが——お前たちの最強の武器だ」


---


 その後、僕たちは明日の戦略を練った。


 第二回戦の相手は——まだ決まっていない。


 東城学園 vs 西海学院の勝者と戦う。


 おそらく——東城学園が勝つだろう。


 つまり——氷上シオリと、再び戦うことになる。


「神楽くん」御影が言った。「シオリとの再戦——準備はいいか?」


「……ああ」


 僕は、瞑想の訓練を思い出した。


 心を無にする——それができるようになった。


 そして——。


「今度は——みんながいる」


 僕は、仲間を見た。


「一人じゃない。だから——勝てる」


---


 深夜。


 僕は、一人で宿舎の屋上にいた。


 星空を見上げながら、考えていた。


 シオリ——。


 彼女は、妹を守れなかった罪悪感で、能力を強化し続けた。


 そして——自分自身を、壊している。


 俺には——彼女を救えるのか?


 その時、背後から声がした。


「考え事?」


 振り返ると——天音が立っていた。


「……天音。お前も、寝れないのか」


「うん」天音が、僕の隣に座った。「明日のこと、考えてたら」


---


 天音が、空を見上げた。


「ねえ、ユウくん」


「……何だ?」


「ユウくんは——シオリさんを、救いたいんだよね」


「……ああ」


 天音が、微笑んだ。


「じゃあ、大丈夫」


「……なぜ?」


「だって」天音が、僕を見た。「ユウくんには、私たちがいるから」


 天音が、僕の手を握った。


「一人で抱え込まないで。みんなで、一緒に救おう」


「……」


「シオリさんも——きっと、一人で苦しんでる」


 天音の目が、真剣になった。


「だから——私たちが、手を差し伸べる」


---


 僕は、天音の手を握り返した。


「……ありがとう」


「ううん」天音が、満面の笑みで言った。「私たち、仲間だもん」


 その言葉が——胸に響いた。


 仲間——。


 それが、俺たちの力だ。


---


 翌日。


 第二回戦。


 予想通り——相手は、東城学園だった。


 氷上シオリと——再び、対峙する。


 だが——今度は、違う。


 一人じゃない。


 仲間がいる。


 そして——心の準備も、できている。


---


 会場に入ると——シオリが、既に待っていた。


 彼女は、僕を一瞥した。


「……来たか」


「ああ」


 シオリの目には——相変わらず、冷たい光が宿っていた。


 だが——その奥に、わずかな悲しみが見えた。


「前回は——圧勝だったわね」


「……ああ」


「今回も——同じよ」


 シオリが、冷たく微笑んだ。


「あなたは——また、負ける」


---


 だが——僕は、動じなかった。


「シオリ」僕は言った。「お前には——妹がいたんだろう?」


 シオリの表情が——わずかに、歪んだ。


「……誰から聞いた?」


「黒瀬から」


「……」


「お前は——妹を守れなかった罪悪感で、能力を強化し続けた」


 僕は、シオリを真っ直ぐ見た。


「だが、それは——間違ってる」


---


 シオリの目が——鋭く光った。


「何が、間違ってる?」


「お前は——自分を壊してまで、強くなろうとしてる」


 僕は、一歩前に出た。


「でも、それは——妹が望んだことか?」


「……黙れ、何も知らないくせに」


「お前の妹は——お前に、幸せになってほしかったはずだ」


 僕は、さらに一歩前に出た。


「なのに、お前は——自分を壊してる」


「黙れと言っている!」


 シオリが、叫んだ。


「あなたに——何が分かる!」


 彼女の目から——涙が溢れた。


「私は——ミオリを守れなかった!私が弱かったから!」


---


 僕は——シオリに近づいた。


 そして——。


「シオリ」僕は、静かに言った。「お前は——一人で戦ってきた」


「……」


「だが、もう——一人じゃない」


 僕は、仲間を見た。


 天音、凛、司、御影——全員が、シオリを見ていた。


 その目には——敵意ではなく、優しさが宿っていた。


「俺たちが——お前を、支える」


 僕は、シオリに手を差し伸べた。


「だから——もう、一人で苦しまなくていい」


---


 シオリは——しばらく、僕の手を見ていた。


 そして——。


 ゆっくりと——涙を拭いた。


「……まだ、早い」


 シオリが、顔を上げた。


「私は——まだ、救われる資格がない」


「……」


「だから」シオリの目が、真剣になった。「本気で戦いなさい」


 シオリが、ゲームテーブルに向かった。


「そして——実力を証明しなさい。」


 彼女が、振り返った。


「私に勝ったら、差し伸べた手を掴ってあげるわ。」


---


次回、第19話

「裏部、敗北」



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僕だけ“能力なし”なのに、なぜか最強のギャンブル部で目立ってます。 マスターボヌール @bonuruoboro

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