第3話 おいしい魔物

 一週間後、僕たち三人は再び王城に訪れた。門番の一人が確認のために奥に消える。もう一人の門番は、僕たちを無言でじっと見ている。わかるよ、怪しいよね。


「お待たせしました。こちらへどうぞ」


 確認を終えた門番が丁寧に案内してくれる。どうしてか、ちょっと同情を含んだ表情をしている。ああ、まあ、勇者でもないのに魔王封印なんてありえないからな。そりゃ同情もされるか。やめていいなら、今からでも帰りたい。


 案内されると目の前に大きな扉があった。いかにも重厚そうで、その表面は宝石で飾り付けられて華やかだ。


「では、この扉の向こうが後宮です。ご武運を」

「「ありがとうございます」」

「…ありがとうございます」


 扉に気を取られて返答が遅れてしまった。扉を開けると長い廊下が続いていた。壁には、歴代の王様の肖像画が初代から順番に飾られている。もちろん皆、元勇者だ。三人で肖像画を見ながら、ゆっくり歩を進めると、再び扉の前に来た。


「怪しいな」

「何か来るかな?」


 幼馴染たちが扉を見ながら警戒する。

 はじめの扉とは違って随分簡素な作りだ。よく見ると扉と壁の間に隙間がある。これ、指が入りそう。どれどれ…と思い、僕は隙間に指をいれると、扉が案外薄いことに気づく。押したら倒れそうだな…と、気持ち強く押してみた。すると、ドーンと本当に倒れてしまった。


「え…?」


 まさか本当に扉ごと倒れるとは思わなかった。身体強化の魔法も使ってないよ。倒れた扉の先を見ると、後宮に勤める使用人だろうか。檻から何かを出している。グリグリの集団だ。


 グリグリは、ボール状の体全体に鋭いとげと細長い手足が四本伸びている真っ黒な魔物だ。多くは掌ほどの大きさだが、成長によって大きくなる。とげに毒はないけど、刺されると痛い。


「何してるんですか…?」


 問いかけると、慌てた使用人は何も答えないまま走り去った。もしかして悪い人? 残ったのは、放たれた魔物と僕たち。


「知ってるか? グリグリって食べられるんぜ」


 シカの言葉にグリグリが反応する。わかりにくいけど、怯えているようだ。


 僕は皆に身体強化の魔法をかける。キーヴから受け取った武器を片手に動き出すと、グリグリも一斉に散開した。数が多いから、全部の討伐は難しく、大きい個体に照準を絞る。標的にされたグリグリは、体が大きい分逃げ遅れ、あっという間に四本の手足を切られた。足を切られたグリグリは、もう抵抗することはできない。シカは、グリグリのとげを避けて硬い殻を手際よく割き始めた。僕とキーヴもそれに倣って殻を割く。キーヴから受け取った武器は、とてもキレ味がよく、グリグリの硬い殻も難なく割いていく。


「キーヴ、この武器いいね」

「でしょ。ミスリルなんだ」


 キーヴは、満面の笑みで答える。ミスリルですか…そりゃよく切れるわ。

 シカが、中から黄色いプルプルの魔石を取り出した。魔石を取り出されたグリグリは霧のように消えていった。


 シカは、取り出した魔石を器用に三つに切り分け、僕たちに渡してくれた。「採りたてだから、うまいぜ」というと、大きな口でかぶりついてみせる。僕も一口齧ってみると、ねっとりとした甘さが口の中に広がった。


「おいしい…」

「だろ?」シカが白い歯を見せてニカッと笑った。

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