第2話 なんとなくってどういうこと?
無茶な依頼に逃げたくなった僕は、幼馴染であるキーヴの家に駆けこんだ。それなのに彼は僕を見た途端、「勇者の代わりに魔王封印に行くんだって?」と目をキラキラさせる。
僕よりも小柄な彼は、男でありながら可愛いという表現がピタリと当てはまる。ファンクラブもあるらしいが、性格は割と…そんな情報は置いといて、なぜ魔王封印のことを知っている?
「魔王封印に行くなら、装備は重要だよね」
キーヴは、何やら楽しそうにぶつぶつ言いながら、次から次へと装備品を並べてくる。さすが武器屋を営むだけあって、いろいろ揃えてるな。
つい感心していると、あれよあれよという間に、それらしい出で立ちに整えられてしまった。
「いや、僕は…」
「ああ、そうか! 冒険の旅に出るには、道中のおやつが必要だね!」
キーヴは、忘れていたよ、とばかりにウインクをする。おやつ? いや、そこは携帯食では?
「話は聞かせてもらった! おやつなら、まかせとけ!」
バーンと派手な音を立てながら扉が開けられる。今度は誰? というか、個人の私室にノックもなく入るのは、ちょっとどうなの? って、そういえば僕も勝手に入ってきたわ。キーヴ、ごめん。
乗り込んできたのは、もう一人の幼馴染であるシカだった。ガタイのいい彼は、大きな口を開けて白い歯を見せながら豪快に笑う。
「バナナがおやつに入るかなんて古いことは言わないぜ。おやつの基本はシェアできることだ! シェアすることで仲間との距離が縮まるんだ! 見ろ! これが俺のオススメだ!」
言うが早いか、お菓子の詰め合わせが広げられる。
「いや、だから…」
「心配するな。封印までの旅は長いからな。飽きが来ないように選んであるぞ。これは…」
そう言って徐にお菓子の解説を始める。菓子屋だから詳しいな。あ、これ新作のお菓子だ、食べたかったんだよね。って違う違う、と首を振る。流されちゃダメだ。
「ん? 途中で無くなることを心配しているのか? それも大丈夫だ、俺が一緒にいるんだから大船に乗ったつもりでいろ!」
首を振った僕の何を勘違いしたのか、シカは見当違いなことを言う。遠足じゃないんだ、おやつの心配なんてしてない。どうして、僕の話を聞こうとしないんだ。って、今なんか、おかしなことを言ってなかったか?
「一緒…?」
「おう。俺とお前とこいつの三人で行くんだ。お前知らなかったのか?」
は? どういう事? そんなの、今はじめて聞いたわ。というか、魔王封印の人選おかしくないか?
「誰が決めたの…?」
「お前の母さんだが?」
「は…?」
僕は固まるしかなかった。いつの間に?
「あのさ、魔王の封印だよ? 僕たちが敵うわけないよね? 無理だよね?」
しかし、幼馴染たちの返答は、僕を裏切るものだった。
「「何とかなるんじゃない?」」
「その根拠は?」
「「なんとなく?」」
いやだからどうして。
思わず考えることを放棄した僕は、そこからの記憶は曖昧だ。気がつけば、僕は幼馴染とともに王城で謁見をしていた。
「すまんな、頼むわ」
王様は煌びやかに飾られた椅子ではなく、庶民が使うような丸椅子に座っていた。その両手は杖を握りしめている。姿勢はすごくいいのに、何か違和感がある座り方だ。
「ぎっくり腰とは情けないよの」
なるほど、だからそんな座り方なのか。そうか、ぎっくり腰か、痛そう…。
「あの…何で僕に魔王封印を依頼されたのでしょう?」
「うむ、それはな」
あ、ちゃんと理由があるの? 僕は、ちょっと緊張して王様の言葉を待った。
「なんとなくじゃ」
え? は?
「なんとなくじゃ」
思ったことが声に出ていたらしい。繰り返された。
「では、行って来るがいい」
王様の一言で、謁見の場から追い出された。いや、何もわからないままですが? すると、宰相さんがアフターフォローに現れた。
「これが、魔王のいる地図だ」
渡されたのは一枚の紙。幼馴染と一緒に覗き込む。赤いバツ印がつけてあるところが、魔王のいる場所なのだろうか。よく見ると、王城の隣だ、後宮かな? 魔王ってこんな近くにいるの? このお城大丈夫?
「あの…こんなに近くに魔王がいて、このお城は大丈夫なんですか?」
「そのために騎士がいる」
「じゃあ、その騎士の方々が魔王を…」
「そればできない」
あのさ、騎士が無理なものを代行業の僕ができる訳ないよね? しかも後宮に魔王がいるって、王妃様たちは大丈夫なの? もしかして、魔王封印だけじゃなくて、王妃様たちを僕たちが助け出すの?
「まあまあ、もう引き受けちゃったんだから仕方ないよね」
キーヴが、困惑を隠せない僕の肩を軽く叩く。いやいや、僕は引き受けたつもりはないけど⁉
「では、頼んだ」
今度こそ本当に放り出された。
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