第7話 新聞休刊日
《ガザで紛争が始まってすでに一年が経ちましたが・・。ガザでの一方的な虐殺は今日も続いており――、収束の目途は未だに・・》
今日も僕は新聞を配る。そこは生きていないものの世界――。
事務所で誰にも会わなければ、一日誰とも口を利かない日が普通にある。
「今日が金曜日だとすると・・、明日は何曜日だったろうか・・」
時々、そんな不安に世界が壊れそうになる・・。
何か僕の将来に対する唯(ただ)ぼんやりとした不安――
芥川龍之介(自死前に旧友に宛てられた手紙より)
配達、配達、配達、あまりに同じことの繰り返しに、時々、自分が何をしているのか分からなくなる。
「こんなことの為に僕は生まれてきたのか?」
これは仕事なのか、義務なのか、逃れられない宿命なのか、この人生そのものなのか――
分からない・・。
「暗い、悲しい日々が時として余りに多過ぎないだろうか?」
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ テオへの手紙にて
あの人は僕にあやまった。
悪いのは僕なのに・・
「死にたい」
抑えきれない湧き上がる欲動。
自分がとても駄目な人間だと思う。堪らなくそう思う時がある。
死への誘惑。
死にたい、死にたい、死にたい――。
ものごとは心にもとづき
心を主とし
心によってつくり出される。
もしも清らかな心で話したり行ったりするならば
福楽はその人に付き従う。
影がそのからだから離れないように。
ダンマパダ
今日も僕はあの場所で新聞を配る。
あのいつもの、雑音を刻んだアナログで奇妙なインストゥルメンタルの曲が闇中に溶けるように流れている。
「不安過ぎて、いっそのことこの社会を壊したくなる」
そんな堪らない衝動にかられる時がある。
この地獄はいつまで続くのか。
――ここは便利で快適なアウシュビッツ。心を殺す強制収容所――
抜け出せそうで抜け出せないこの人生の牢獄。
この世は苦の上に成り立っている
相応部 一ー四〇
月に一度の新聞休刊日。夜、ちゃんと眠れるのは月に一度だけ。それが今日。
夜たっぷりと眠れることの贅沢を噛みしめるように味わう。月に一度の贅沢。
あの世界に目覚めなくていい快楽。
生きていないものの世界。
僕にはいつも時間がない。
すべてはお金がないからだ。
人生はお金じゃないが、お金で解決できることは今の世の中たくさんある。
貪ることなく、詐ることなく、渇望することなく、
見せかけで覆うことなく、濁りと迷妄とを除き去り、
全世界において妄執のないものとなって、
犀の角のようにただ独り歩め。
スッタニパータ「第一 蛇の章」 「崔の角」より
休みは、いつもあっという間に終わり、僕は今日もまた新聞を配っている。
それは生きていないものの世界――。
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