スピアラーの愛人

夢炎(姓黒丸)

First Chapter 「追放された先にいる者」

一話 パーティーの実態

「はぁ………なんでこうも怠いトコ行くかねぇ……」

 僕は誰にも聞かれない様にパーティーの後ろで小さく呟いた。

 現在僕は貴族間で一番注目されていて、パーティー間では最高峰の実力を誇る「ウンベジークト」に所属している。で、ガッチガチの装備でパーティーの先頭に立ってる高身長のイケメン君は、ここのリーダーであり勇者などという神みたいな職業を神みたいな奴から授けてもらっているレオール・ラ・リンパルトだ。名前が全部ラ行なのでRRRなんて愛称があったりする。ところで、レア度の表記と思った皆に言いたい。僕も最初は思った。

 そして、そのレオールの後ろを歩いている3人はそれぞれ魔法使いがビックリするくらいに似合う魔導師のフロール・エミリア、清楚の塊みたいな女高僧のメール・ホワイツ、厳ついつよつよオッサンの狩人のヨルン・グルゴル・デーレシュナイトだ。

 皆のレベルは最高値の一歩手前であるLv.99に到達していて、史上初めてのLv.100達成者を掛けて冒険をしている。

 で、その中に僕は槍使いとして所属している。今の僕の両親は戦士で、子供の頃からよく稽古やら遊びやらで色々な武器の練習に励んだ。その結果、僕は今一番人気のあるパーティーに参加することができたのだが、どうにも僕はこの場所に合わない。何よりも勇者が傲慢だ。こんなことは良くあるらしいのだが、世間に揉まれてこうも可笑しくなる勇者はこのパーティー意外にも結構いるらしい。

「何か言ったか」

 そして、この勇者は変に地獄耳なのがウザったらしい。

「いや、何でもない」

 僕は手をパタパタと横に振る。

 何故僕が先程怠いトコへ行くのかと言ったのか。

 まぁまずこの前の塔を見て欲しい。なんだよこの高さ。普通に東京スカイツリーの高さ遥かに超えてるだろ。

 所謂、ダンジョンという奴なのだが、ダンジョンというのは高くなる、または深くなると中にいるモンスターが徐々に強くなっていく。そして、このダンジョンは今まで見た中で言えばそこそこ高いレベルのダンジョンだろう。依頼でもない所に態々行くという事に僕は不満を感じている。

 ダンジョンの前で止まり、レオールは振り返った。

「これより、ダンジョンの攻略を始める」

 覇気のある声が響いた。モンスターが寄って来るからあまりやって欲しくないなと思う気持ちを抑えて空を見上げる。

 言い終わって直ぐに僕はレオールに問いた。

「薬草は持って来たんすか?」

 すると、レオールは怪訝そうに聞き返す。

「何故持って来る必要がある?」

「逆になんで持ってこなかった?」

 そう言うとレオールは鼻で笑った。

「今の私達に必要がないからな」

「……そうかい」

 俺は溜息を吐きながら下がると、何事も無かったかの様に全員がレオールの後について行った。

 やはり勇者は傲慢だ。


「私の命令をしっかりと聞け」

 建造物の中なのかと聞きたくなる程に暗いダンジョンの壁がレオールの普段から大きい声を一層に響かせた。

「はい」

「はい!」

「はっ」

 3人は快くとばかりにレオールに返事をした。

「おい、お前も返事をしたらどうだ。フジヤマ」

 フジヤマと言うのは僕の名前、と言うより苗字だ。本名は藤山ふじやま 信吉のぶよしで、異世界転生を見事に達成させた死者だ。見事なんて言葉で片付けてしまったが、実際は結構酷かった。まず、彼女が全く作れない。俺が彼女出来ねーと嘆いていた頃、追い討ちを掛ける様に兄に彼女ができた。まぁその夜は流石に泣いたな。確かに兄はめっちゃ顔良かったし性格も良かったし勉強も出来てた。と言うか東北大医学部卒業してた。それに比べて僕は国立にギリギリで入って卒業できると言うところで死んでさぁ……。って気持ち的に死んだ訳ではない。物理的にだ。で、挙げ句の果てに知らない世界に飛ばされて、知らない訓練もさせられて、知らない生物と戦わされて、知らぬ間に天才って言われるようになってた。

 ……最後は良かったな。

 今頃兄は頑張っているのだろうか。彼女とは仲良くなれているのだろうか。そういえば今の総理大臣は誰がやってるんだろうな。僕がアッチで生きていた時の総理大臣は中曽根なかぞね 康弘やすひろだったのだが、今頃の政治界隈はどうなってるのだろうか。

 先程の様に僕は兄に恋愛の追い討ちを喰らったが、別に恨んでない。寧ろ恨んでるのはあの死んだ直後に会った無駄に綺麗で無駄に胸がデカい神とか名乗ってた奴だ。深夜帯の時にとんでもない速度で飛んで来た車、多分酒が入ってたんだろうな。ソイツに撥ねられてめっちゃ身体が痛いと思った瞬間には知らないトコの真っ白な床で寝っ転がってた。そしたらめっちゃアワアワしてる頭に輪っかが浮いてるなどと言ったとても非現実的な箇所が何個か見つかる人間見た目をした天使に会い、色々の手続きをしてここに来たのだが、話曰く、その天使が間違えて僕を殺すなどと言う馬鹿みたいなミスをかましたらしく、その結果僕はあの世界からサヨナラバイバイをせざるを得なくなったらしい。非常に腹立たしい話だ。因みにだが僕は貧乳派なので余計に腹がたった。微妙に。

 うん、まぁ一旦その話は置いといて、僕は異世界転生をしてこの世界でも有数のランサーになったのだが、この勇者は僕の事が気に食わないらしい。あっちの世界の経験で分かる。もう僕と喋る時めっちゃ眉間に皺寄まくってるから僕じゃなくても分かる。

「はいはい」

 僕は生返事をして勇者の腹立たしそうにしている顔をスルーした。

「グァアゥッ!!」

 そうこう言っている間に勇者のお誘いコールに乗ったモンスターが現れた様だ。レオールは腰につけている妙に厨二心を擽る長剣を抜き、真っ直ぐに構えた。

「全員攻撃体制に入れ!」

「「「はい!!」」」

「フジヤマも返事をしろ!」

「へいへい」

 レオールの命令で全員が武器を手に取った。僕は魔法で空中から槍を取り出すと言うこっちの世界では結構な魅せプを披露した。この世界では物理法則が思った以上に地球と同じなのだ。なので空気から金属を作り上げるなんて言う錬金術は無論出来る訳が無いので、違う所から空気と入れ替えると言う形でやるのだが、まぁそれが難しいのだ。この世界でそんなこと出来るのは多分僕とフロール位だろう。しかもフロールが出来るようになったのも僕のお陰なのだから装備召喚モドキを成し遂げたのは僕だろう。つまり、天才という事だ。わっはっは。

 ただ、この現状で笑い出すなんて頭がイカれた奴になるので、高笑いを堪えてながら自分の身長の3分の2程の大きさのそこら辺に売ってる市販の槍を手に取った。何故市販の奴なのかと言うと意外と使い方が良ければ普通の槍でも結構長持ちする。それにコスパが何と言っても良い。市販の槍だから大体1本1000ホールドで買える。まぁ円換算で言うと2500円程と言ったところだろうか。

「私とヨルンは前衛だ!フロールはその後ろで魔法を!メールは後衛で負傷者の手当てを!」

 ……って今回も俺の命令はなしかよ。このパーティーは僕を使い物にならないとばかりに命令を放棄する。全く困ったものだ。しかも相手が今回は最低でもB級、運が悪ければ、いや確実にS級とも対峙することになる。その中で連携がないこのパーティーはいつ滅んでも可笑しくない。

「ッ……!!」

 今レオール達が戦っているのがB級モンスターのナイトゴブリンだ。基本的に洞窟にいて夜に活動が盛んになる。その為か、コイツのナイトの部分は騎士という意味であり、夜という意味でもあるらしい。つまり、名前ギャグをしていると言う事なのだが、名前の緩さとは相反してコイツらのステータスはそこそこ強い。一個体のレベルが人間で言うLv.53に相当する程らしく、それが群で襲ってくので大体のパーティーはこの時点でボロボロになるか、死んでこの世からサヨナラバイバイとなる。

 で、レオールはゴブリンと戦う上で一番必要な巧緻な戦法が取れないので案の定苦戦している。本来なら助けるべきなのだろうが、レオールは僕が助けると大体文句を言うので最近は助けに行かない様にしている。まぁそれでいつも重症を負ってるのでカッコ良くないと思うのは僕だけだろうか。

 僕はレオール達が苦戦しているところを流し目に静かに奥に進んだ。奥に目をやって見るとウジャウジャといる。80といったところだろうか。見立て通り本来の数よりも多い様だ。

 僕は近づいてくる鎧姿のゴブリンを見つめながら今回のナイトゴブリンキングは統率力が高いんだろうなぁと他人事の様に考えていると自分の体が危険を感知し咄嗟に動いた。

「おっと」

 思った以上に近づいて来ていた様だ。ナイトゴブリンは鉄製の剣を素人の剣士なんかより数倍には素早い速度で切り掛かる。僕はギリギリで危険を察知し回避すると、ゴブリンが振るった剣は見事に空を切った。

「ナイス剣術」

 僕はソイツを褒める様に呟いた後、空中で隙だらけな頸に槍の柄を食い込ませる。柄が頸に当たると、首の骨から嫌な音が聞こえた。僕は槍の遠心力でそのままナイトゴブリンを壁に飛ばすと、手前にいたゴブリン達は急に突撃を辞めた。

「あれ?君達はビビリなのかな?」

 僕が煽ると、ムキになったゴブリン達コイツらは数体で一斉に飛び込んで来た。

 その光景に僕はニヤリと笑う。

「思う壺だね」

 僕は槍に魔力を溜め、片手で大きく振りかぶった。

強化魔法エンハンス魔力マジック』」

 因みにだが、この世界では強化魔法があまり推奨されていない。と言うのも、強化魔法は消費が異常で、その後に帰ってくる反動の大きさも比じゃない。昔はよく使われていたらしいのだが、それを使ったことによる死傷率がなんと90%を超えていたので国側から使うことを基本的に禁じる様になった。しかし、一部の例外があり、残りの負傷を一歳負わなかった10%は共通してLv.80を超えていたことから強化魔法の推奨レベルが83に設定されている。と、転生後の母が言っていた。

「おぉー。気持ち良いね」

 僕は眺める様に手を額に置いて奥を見る。放った斬撃の跡を残す様にゴブリンは吹き飛ばされていた。50は行けたな。

 僕の魔力の強さに驚愕しているのか、全員が固まって静止画の様になっていた。

「さぁて。統率者ボスは誰かな?」

 そう言い切った瞬間、後ろからピカッと光り落雷音が喚いた。音源はレオールの剣術魔法ソードベスタウだろう。

「相変わらず短気だな……」

 僕は頭を掻きながらそう呟いた後、跳んで真ん中から外れる。するとその瞬間に目の前で雷が横から流れてきたかの様に一閃の光が走った。彼の「最終剣術魔法ファイナルソードベスタウライトニング』」だ。何ともまぁ厨二臭い名称だが、一応勇者職の貴族戦士でないと習得出来ないと言う技らしい。まぁ魔法次第なら僕でも習得は可能だと思うが。

「フジヤマ!何故ここに居るんだ!動くなと言っただろ!」

「動くなとは言われてないぞ」

 僕は屁理屈みたいな事実を並べるとレオールは舌打ちをした後、怒鳴る様に命令をした。

「じゃあ動くな!」

「はぁ。了解です」

 僕は分かりやすい溜息を吐いた後、ウダウダと了承した。その態度にレオールは再度舌打ちをした。

 本当に短気なのが困る。いや、僕も大概か。


 そんなこんなでゴブリンの大群を抑え込むことに成功した僕らのパーティーは回復に入っている。

 レオールは自分の袋に顔を突っ込むのかと言いたくなる位に近づけていた。すると、睨みながら顔を上げた。

「何故薬草が無い?」

 コイツ自分で言った事忘れたのか。

「自分で要らないって言っただろ」

「要らないと言っても準備をするのがメンバーではないのか?」

 違うと思う、と口から出そうになるのを抑えた。

治癒魔法ヒールを使いますので」

 場を和ます様にメールが僕とレオールの間に割って入ったが、レオールは空気を読む事はなく、寧ろ悪化させる様に言った。

「メールは未だ使うな。治癒剤を持って来なかったコイツの問題だ」

 まさかの責任転嫁ですか。そう心の中で突っ込んだが、僕は冷静に言った。

「分かりました。じゃあ僕がやります」

 僕の発言に全員が「は?」と驚きを見せた。

 確かに僕がそんな事を言ったら違和感だろうな。なんせ治癒なんて会得する機会がない戦士なのだから。しかし、戦士だから治癒を会得しないとか言うドラクエみたいな暗黙の了解を勝手に作り上げた事なんぞ僕は転生者なので知ったこっちゃない。てことで僕は子供の内には魔法も完全習得をさせていた。

「やるんで、速く傷口見せてください」

「ま、待て!」

「なんですか」

 レオールは折角怪我を治してあげようとしている僕を止めた。

「まさか私をここで殺すつもりなのか……!?」

「なんでそうなるんですか」

「お前が治癒魔法を使えるなんて有り得ない話だ!お前は戦士なんだろ!」

「出来るから言ってるんですけど」

 いちいち逃げようとするレオールに仲間を信頼出来ないなんて情け無いなと思いつつ手に魔力を込める。

「待ってください!」

 後ろからメールが止めようとしているが僕は無視して手から僅かに魔力を放った。するとその魔力は不穏な色から綺麗なエメラルドグリーンの輝きになり、レオールの傷口に侵入する。

「なっ…!?」

 レオールは徐々に自分の腕の傷口が塞がっていく事を理解出来ないと目を大きく見開いていた。

 傷口が完全に塞がり、僕は魔力の放出を止めた。

「はい。これでいいですね。次行きますよ」

 僕はサッと立ち上がり、地面に落とした市販の槍を転送魔法トランスポートで戻した。レオール達はあり得ないと言う顔をしつつ、体制を整えた。

 やっとパーティーが動き出すと言うところで僕は地面を異常な速度で掘って来る何かを感じ取った。しかもソイツは僕らを狙っている。そう感じ取った僕は声を上げた。

「避けろ!!!」

 僕が突然怒鳴り上げたので意味が分からないと4人は振り返って突っ立っていた。

「っ……!!」

 僕は一歩も動かない仲間に腹を立てながら全力でそちらに向かった。全員を奥に飛ばせると言うところでソイツは到着した。僕は勢いに飛ばされ、メールだけを抱えたまま石の壁に叩きつけられた。

「スプリームウルフ……か………」

 叩きつけられた衝撃で痛みを感じながらそう呟いた。S級をも超えるランク、T級に配当させるモンスターがこのダンジョンの真下に居たと言うことが僕には想像もしていなかった。

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