②
声がした方へとぎこちない動作で顔を向ける。すると部屋の隅っこで膝を抱いて座る少女と目が合った。少女はざんばら髪で、頬がこけた顔は闇に浮かぶほど真っ白で、枝の様に細い手足には内出血が多くある。その姿に僕はとても見覚えがあった。
「ドロボーのおにーちゃん、ごめんなさい。おにーちゃんにあげられるものはないの、ごめんなさい」
彼女はそう言ってペコペコと何度も頭を下げる。その健気さは僕の瞼をジン……っと熱くさせた。
「……お、お父さんとお母さんは?」
少女に向けて問いかける。久しぶりに言葉を発したので少し噛んでしまったのがカッコ悪い。
「おとーさんはさいしょからいない、おかーさんは“カレシ”といっしょにおでかけしてずっとかえってこないの」
寂しげに答える少女に、いくつか質問をする。泥棒に入った家の住人と呑気に言葉を交わすだなんて泥棒失格かもしれない。
「いくつ?」
「8さい、かな?」
とてもそうには見えない。もっと幼く見える。……僕もまぁ、そうかもしれないが。
「小学校は?」
「いってない」
僕も中学に行ってない。
「いつもひとりなの?」
「うん」
それも僕と同じだ。
「ドロボーのおにーちゃん、わたしとにてるね」
そう言ってクスクスと笑う少女の隣には姿見が置いてある。そこに映る僕はぼさぼさの長い髪、痩せた身体、日に当たる機会が少ないので不自然に白い肌。そして殴られ蹴られして出来た怪我が生々しく残る手足。
「……そうだね、似てるね」
姿だけでない、きっとその境遇も。僕は少女に笑い返し、そして手を差し出して言った。
「君を
少女はキョトンとしていたが、やがて顔をくしゃくしゃにして泣き始める。彼女は嗚咽を漏らしながらふらふらと立ち上がると僕の手にその小さな手を重ねた。
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