第12話 最終決戦、天星剣の力を放つ。
夏は、金山駅の南口まで来ていた。当然まだ周囲はモノクロで、かつ時間が停止している状態だ。そこにはすでに、絶縁剣を持った皐月が立っていた。
夏は、皐月の真正面に、天星剣を持った状態で立ち止まる。
「皐月」
「よく逃げずに来たね。人間にしては肝が据わってると思うよ」
「絶縁剣に褒められても嬉しくもなんともないね」
「そんなこと言わないでよ。私は、あまり人を褒めないんだよ。常に、人間は見下しているから」
「だろうね。そういう性格、僕は嫌いだな」
「どうも。私は、他人に嫌われることは慣れているからどうとでも言いなよ」
「まあでも、そろそろお前と会話するのも飽きた。それに、これから消滅するやつの言葉聞いても意味ないからさ」
「言うねー。消えるのは、どっちかな? まさか自分が殺されないとでも思っている?」
「いや、思ってない。死ぬ覚悟はしてきた」
「死ぬかもしれないと分かっててきたとか、余計凄いな」
「どうも」
「知ってるかい? 絶縁剣は生物を殺せるんだよ」
「そうか」
「今までやってこなかっただけで、物理的にも剣としての役割は発揮できるってことだよ」
皐月は、勢いよく夏に近づいて、絶縁剣を叩きつける。夏は、天星剣で受け止める。
「くっ・・・・・・女の子の体にしては随分と力強い」
「でしょ。まあ、あんまり無理しちゃうと、この子の体自体が持たなくて壊れちゃうから加減はしないといけないけどね」
「まさに化け物でしょ」
「酷い。女の子に対してそんな言葉を吐く男の子はモテないよ」
「ご忠告どうも!」
夏は、剣で皐月を押し返す。
皐月は、驚いた表情をする。
「へー。君も意外とパワーあるんだー。まあ、男の子だもんね」
「実は昔、水泳を習っていたもんで」
「いや、関係ないでしょ」
「そうかもね!」
夏から皐月に仕掛ける。剣を上から叩きつけて、今度は逆に皐月が受け止める側になった。皐月は、苦しそうな顔をする。
「凄いね。人間でもこんなに剣を扱えるんだ。びっくりしちゃった」
「もう一つ、実は昔、剣道もやってたりして」
「なるほどね。だから、人間のくせにこんなに手強いんだね」
「おっ!」
皐月は、瞬間移動をして後退する。
「なるほどねー。聖奈が、健太じゃなくて君を選んだ理由がよく分かったよ」
「僕の力、思い知った?」
「ああ、そうだな。もうお遊びをしている場合じゃないってことは分かった」
皐月は、絶縁剣に力を込めている。どんどん剣の周りに、黒くて鳥肌が立つくらい恐ろしい感じのオーラが強くなっていっている。
「君に絶縁剣の力を本当の力をみせてやろう」
「本当の力!?」
「くらえ!」
皐月は、禍々しいオーラをまとった絶縁剣を夏に対して、縦に大きく振るう。その斬撃は、地面をえぐりながら夏へと向かっていく。
夏は、焦った顔をする。
「やばい。避けられない、うっ・・・・・・」
夏に絶縁剣の斬撃が命中した。夏自身に怪我はなく、運よく天星剣の持ち手の部分で弾くことができていた。
夏は、斬撃が当たった天星剣の持ち手部分を見て驚く。
「欠けて、る? 天星剣が欠けた」
「夏。気づいた?」
「一体、何をした!」
「これが絶縁剣の力だ」
「何?」
「力を込めて斬撃を飛ばせば、どんなものでも破壊できるという能力なんだ」
「どんなものでも」
「そうだよ。本当にどんなものでも破壊できる。たとえ、天の神が作った神聖な剣であろうと、この斬撃が当たれば一網打尽だよ」
「これは早く決着をつけないとやばそうだな。天星剣が持たない」
皐月は、煽るような顔をする。
「さあ、どうするの? このままじゃ、私に全てを破壊されて終わりだよ」
「分かってる!」
「どんな手を使うの?」
「もう使うしかない。こっちも出し惜しみしている場合じゃない」
夏は、天星剣の剣先が上を向くように両手で持つ。
「力を貸してくれ! しし座!」
剣先の上部に星座のしし座が描かれた。そこから獅子が現れる。動物園で見るようなライオンより全体的に大きく、特別なオーラを放っているのを感じる。さらに、こめかみには星のマークが付いている。
夏は、立派な獅子を前にして驚いた表情をする。
「これが、しし座」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
獅子の雄叫びは、肌が震えるくらいだ。
夏は、剣を皐月の持っている絶縁剣に向ける。
「しし座よ。あの剣を破壊してくれ!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
再度雄叫びをあげながら、獅子は皐月の元まで向かって絶縁剣に噛みつく。剣がギシギシと音をたてていて、今にも折れそうな感じがする。
皐月は、慌てながら獅子を押し返す。
「くっ・・・・・・これは星座の力。天星剣の力か。危うく絶縁剣が破壊されるところだった。なんて力だ」
夏は、獅子をぼんやりと眺める。
「これが星座の力。これならいけるかもしれない」
夏は、星座を召喚する。
「来い! いて座!」
空中にいて座が描かれ、そこからケンタウロスが現れた。すらっとした四本の足に、上半身は屈強な男の体で、手には弓矢を持っている。さらにしし座同様、こめかみに星のマークが付いている。
同時に、しし座は消えていった。
「いて座! やれ!」
ケンタウロスは、弓矢を精一杯引き、スッと手を離して、矢を放つ。獅子のような凄い感じの動作はなく、スタイリッシュに放たれた矢の攻撃は光の塊のようなものを宿していて、絶縁剣に近づくにつれてどんどん威力が増していっている。
皐月は、剣を盾にして身を守る。
「くっ。重い」
絶縁剣にやや傷がついた。見た目の感じ、かすり傷程度だ。
「どうだ、皐月! 星座の力は」
「恐ろしいよ。天の神は、それほど私を排除したいらしいな」
「まだこんなんで終わらないよ!」
夏は、間髪入れずに、次の星座を召喚する。
「次だ! 来い! ふたご座!」
ふたご座が空に描かれて、ケンタウロスが消えると同時に武装した双子が現れた。その双子は、宙に浮いており、地面に足がついていない。片方は棍棒、もう片方は小さな弓矢を持っている。これも同様、二人ともこめかみに星のマークがある。
夏は、自信満々に指示を出す。
「ふたご座よ! やつをやれ!」
双子は、宙に浮きながら移動して皐月に近づく。棍棒で殴ったり、弓矢を放ったりして皐月へ交互に攻撃をしている。双子のその攻撃には、休む暇はない。
皐月は、慌てながら剣で攻撃を受け続ける。
「鬱陶しい。まだケンタウロスとかの方がましだったよ!」
「皐月、いや絶縁剣! そろそろ降参したらどうだ?」
「・・・・・・」
皐月は、攻撃を受けるのに必死で返答できないでいる。
「絶縁剣! 諦めて剣を地面に置くと言え! そうしたら、攻撃をやめる。どうする?」
「私は・・・・・・目的のために全てを捧げると決めたんだ! こんなところでくたばれるかー!」
皐月は、絶縁剣の斬撃でふたご座を無理矢理消滅させた。剣を中心に体からは、邪悪なオーラが溢れ出ている。息を切らしながら夏へと一歩ずつ近づく。
「私は必ず天へ戻るんだ。天女として」
「そろそろ諦めろ!」
「嫌だ! 必ず、必ず・・・・・・うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
雄叫びをあげながら皐月は、力の全てを余すことなく外へ放出する。その状態で、夏へ細かく斬撃を放ちつつ、歩く。
「私は、私は」
夏は、たくさん放たれている斬撃を天星剣でなんとか受け切れているが、少しずつ剣が絶縁剣の能力によって破壊されている。もうすでに剣のところどころにヒビができている。今の状態でまともに剣を交えれば、粉々になってしまうかもしれない。
「このままだとまずい。押されてる」
「ほら、ほら、さっきの威勢はどうした!」
「天星剣が砕ける! くっ・・・・・・確か、剣が触れないと能力は無効化できないんだっけ。今の状況では無理そうだ」
「剣が折れるぞ! どんどんボロボロになってるよ!」
「やばい。剣でも受けきれない」
「絶縁剣の斬撃は、人間でも怪我するからね。気をつけて」
「くっそ。煽ってやがる」
「さあ、さあ、諦めるのはどっちかな?」
「ま、まずい!」
「さて、これでおしまい! 私の勝ちだー!」
皐月は、気づけば夏の目の前まで近づいていた。その場で、絶縁剣を大きく振りかざして夏の天星剣にぶつける。
「!?」
天星剣は、粉々になって跡形もなくなってしまった。完全に修復不可能な見た目をしている。
夏は、両膝をついて目から光を失う。
「終わった。天星剣なしじゃ、絶縁剣に太刀打ちできない」
「これで私の願いがようやく叶う」
「ごめんなさい、みんな。せっかく託してくれたのに・・・・・・僕は何も成せなかった」
皐月は、ニヤリと笑みを顔に浮かべる。
「あとは、夏との縁をこの絶縁剣で絶つだけだね」
皐月は、絶縁剣を夏の首元までもっていく。
「これで終わりだよ」
「くっそー!」
「さようなら」
その瞬間、皐月の動きが止まる。剣を持っている腕が震えていて、耐えている動くのを何かで抑えているかのようだ。
皐月は、動揺している。
「何が、何が起きている!?」
「皐月?」
皐月の様子が明らかに変わった。恐ろしい雰囲気から明るい雰囲気の皐月になっている。
「夏?」
皐月は、穏やかな目で夏を見ている。
「皐月? 皐月なのか?」
「うん、そうだよ」
「まだ意識があったのか?」
「んーっと、正直ギリギリって感じかな? 気を緩めれば、すぐにでも絶縁剣に飲まれそうっていう状態だよ」
「やばいじゃん」
皐月は、夏のことを嬉しそうに見る。
「夏?」
「ん? どうした?」
「私が絶縁剣をどうにかするよ」
「え? どういうこと?」
「全部見てた。天星剣? だっけ? あの強そうな剣でも勝てないんじゃ、もう勝ち目なさそうじゃない?」
「まあ確かに。だけど、どうにかするって具体的にはどうするの?」
「絶縁剣を二度と出てこられないように、私が押さえ込む」
「でも、それって危険じゃない?」
「うん。もしかしたら、私の意識がもってかれるかもれしないね」
「ダメだ!」
皐月は、微笑む。
「夏はやりたいことをやりなよ。理系の大学行きたいんでしょ?」
「え? あ、まあ、本音では行きたい」
「じゃあ、いつまでも意地張ってないで行かなきゃ」
「今はそんな話をしている場合じゃ」
「私のことは気にしないで」
皐月は、震える右手を無理矢理動かして、絶縁剣を夏に対して大きく振り上げる。
「まさか!?」
「今から私との縁を斬る」
「そんなことをしたら!」
「そう。私は、完全に天女へとなる。あとで、健太さんや華さんとも縁を斬るつもり」
「本気なんだな」
「うん。本気だよ」
「聖奈さんに聞けば、まだ安全に助けられる方法がもしかしたらあるかもしれないよ?」
皐月は、首を横に振る。
「そんなの待ってる時間はないよ。今、絶縁剣の執念を誰かがどうにかしないと、これは終わらない。きっと今、私が助かっても次に苦労する子が必ず現れてしまう。私、それは嫌だ」
「そう、だね」
夏は、暗い顔をする。
「ごめん。何もできなくて」
「何言ってるの? 今まで十分やってくれたじゃん。本当に感謝してるよ。ありがとう」
「いや、僕は何もできてない。いつも青菜や皐月におんぶに抱っこで助けられてる」
「まあ、確かにそうかもね」
「っておい。そこはそんなことないよ、でしょ?」
皐月は、微笑む。
「そうだね」
「皐月」
「うん?」
「一思いにやってくれ。覚悟はできてる。あとは頼んだ」
「分かった」
皐月は、満面な笑みを夏に向ける。
「夏!」
「ん?」
「私、告白されて嬉しかったよ。あの時、実はこの状況に入りたてだったから断ったけど、本当は私も夏のことが好きだった」
「・・・・・・」
夏は、涙をグッと我慢する。
「いつかまた、私を思い出してね」
「・・・・・・皐月」
「バイバイ、夏」
皐月は、夏を絶縁剣で斬った。
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