第11話 新たな天女の登場、絶縁剣の正体が分かる。

 名古屋市中区の金山駅付近にあるマンションの一室に、夏たちは到着していた。一階の入り口はオートロックになっていて、部屋の内装は高級感溢れている。

 リビングのダイニングテーブルを囲うように夏、青菜、健太は椅子に座っている。

 青菜は、心配そうな顔をして、寝室側を覗き込む。

「健太さん。華さん、一人にして大丈夫ですか?」

「大丈夫。今、安心したのかぐっすり寝ているし、苦しそうにはしていない」

「なら、良かったです」

「ああ。良かった」

 健太は、真剣な顔をする。

「それでだ。皐月のことをどうするかなんだが、夏くんはどう思う?」

「どうする?」

「ああ。多分だけど、みたところあの絶縁剣というものは使用者の体を乗っ取る力あるっぽいね」

「そうですね。しかも、何かに乗っ取られているというよりかは、何かの意思、目的に操られているって感じですよね」

「そうだ。だから、きっと絶縁剣には何か目的があるはずなんだ」

「・・・・・・目的」

「例えば、縁を斬る剣だから使用者に関係する全ての縁を絶つとか?」

「健太さん」

「どうした?」

「華さんが絶縁剣を使っていた時、華さんは妙に皐月を天に戻すことに固執してませんでした?」

「まあ、言われてみれば確かに。それがどうしたんだ?」

「目的ですよ。もしかしたら、完全な天女を作り続けることが絶縁剣の目的じゃないですか?」

「完全な天女?」

「そうです。持っている縁は全て天女同士のみ、人間との関わりを全て絶っている、みたいな状態かなと」

「ということは、あの剣は天女製造機的な役割なのか?」

「分かんないですけどね」

「うん、まあ。そもそも絶縁剣は、出どころ不明だからな。分かるわけがないし、俺たちが詳しく調べることもできない」

「ですね」

 三人は、難しい顔をして沈黙している。

 そんな状況の中、周囲が突然モノクロになった。三人は立ち上がって、周りを見渡す。

 健太は、寝室の扉を閉める。

「皐月さんか! 来るならこい! 華は俺が必ず守る」

「私は皐月ではございません」

「え? 誰だ?」

 無数の光の粒が一点に固まって、人型の姿をした何かが現れた。その何かは、皐月と同じ羽衣をまとっている女性だ。

「私は、聖奈(せいな)と申します。天から来た天女でございます」

「天女? まさか、華を連れ去ろうってことか!」

「落ち着いてください。私たち天女は、そもそも人間を天女に変えようだなんてことは致しません。私たちは、人間を見守る天の神に仕える存在でございます」

「天の神?」

「はい。確かに、皐月や華は元々天女として、天で生を授かっています。しかし、二人ともなぜか人間界に落ちてしまい、人間として今日まで暮らしていました。それが、あなた方の知る皐月と華でございます」

「天女さん、お聞きしたことが」

「なんですか?」

「ではなぜ、今皐月と華を連れ帰ろうとしないんですか? 元は天女なんですよね?」

「そうですね。天女ではあったんですが、人間とともに暮らし、仲間ができて、幸せを感じられている。これはきっと彼女たちにとって、最高の人生なのかもしれない。そう思います」

「そうですか」

「それに、一度人間になった天女を、無理矢理天女に戻して天に連れ帰るだなんてことは誰もやりたがりません。天女は、平和主義の性質を持っていますから。基本的には話し合いです」

「それを聞いて安心しました。ありがとうございます」

「いえ」

 聖奈は、夏のことを見る。

「夏さん」

「は、はい」

「あなたのことは天から見ていました。よく頑張りましたね。皐月のためにありがとうございます」

「いえ」

「本当は助けたかったのですが、なにぶん天女は平和主義であるので、対抗する方法や武器は持ち合わせていません。申し訳ございません」

「謝らなくてもいいです。僕たちは、僕たちのできることをただやっていただけで、やりたくてやってますから」

「皐月も見ない間に良き仲間に出会いましたね」

 聖奈は、青菜へ視線を移す。

「青菜さん。あなたもです。今まで皐月の良き友達でいてくれたこと、心より感謝申し上げます」

「いえいえ」

「優しいあなたはきっと皐月の心を常に癒してくれていたのでしょう」

「私は、できていたでしょうか?」

「私が見る限り、できていたと思いますよ」

「良かったです」

 健太は、真剣な顔になる。

「聖奈さん。それで、なぜこのタイミングで俺たちの前に現れたのですか?」

「良い質問です。それは、絶縁剣に対抗する手段を見つけたからです」

「対抗する手段ですか!?」

「はい。絶縁剣を破壊できます」

「そもそも、絶縁剣とはなんなんですか? どこから湧いて出てきたものなんですか?」

「まず、絶縁剣の能力は、あなた方が目にして実感した通りです」

「はい。かなり苦労させられました」

「申し訳ないです」

「なぜ聖奈さんが謝るんですか? 悪いのは絶縁剣なのでは」

「あの剣は、天にいた天女が製造したものだからです」

「え!? 天の物だったんですか?」

「はい。かいつまんでお話しすると、法を犯して天から追放された元天女が人間の世界で作った代物らしいです」

「そうだったんですか」

「はい。天にあった書物に書いてありました。その書物によれば、元天女の目的は、もう一度天に帰ること、だそうです」

「だから、天に帰ることに対して異様な執着があったんですね」

「はい。絶縁剣についてもその書物に記載があって、縁を斬る剣で、元天女の怨念や強い願いが込められているとありました」

「そういうことか。全てが繋がった。だから、華から絶縁剣が離れた時、元に戻ったんだ」

「そうです」

「それで聖奈さん。肝心の、絶縁剣を破壊できるという手段はどういうものなんですか?」

「これです」

 聖奈は、右手に光を集中させる。そこから白くて神々しい剣が現れた。まさに天女が持つにふさわしい剣と言えるオーラを放っている。

「まさかその剣が?」

「はい。そのまさかです。これが絶縁剣を破壊する剣です」

「名前はなんていうんですか?」

「この剣の名は、天星(てんせい)剣(けん)と言います」

「天星剣」

「はい。天星剣は、天女と星の力を集約させた代物です。その肝心の能力ですが、触れたものの力を無効化させるというものです」

 夏は、慎重に口を開く。

「それで皐月を助けることができるんですよね?」

「助けられるかどうかは、夏さん。あなたにかかっています」

「僕に?」

「はい、そうです。この剣は、対象に触れている間は能力を無効化できますが、触れ続けていないとその効力は発揮されません」

「そうなんですか。本当にこれだけで倒せるんですか?」

「安心してください。これは天の能力、まだ星の力が残っています」

「二つの力が使えるんですか?」

「はい。二つ目の能力は、十二星座を召喚することができます」

「え!? いて座とかやぎ座とかをですか!?」

「そうです。例えば、いて座ならケンタウロスが力を貸してくれます」

「強くないですか?」

「とても強いです。しかし、使用条件があります」

「使用条件?」

「十二星座は、二つ以上同時に召喚はできません。加えて、この世界にとどまって行動できるのは一分までです。その時間を過ぎると、自然消滅します」

「そんなルールがあるんですね。覚えておきます」

「お願いします」

 青菜は、疑うような目で天星剣を見る。

「もしかして、それも元天女が作ったということはないですよね?」

「もちろんです。この剣は、天の神が直々にお作りになられた剣です。私たち、天女ごときがこのような代物を作れるわけがありません」

「そうですか。安心しました」

「良かったです」

 聖奈は、全員の顔を一人ずつ確認するように見る。

「これが最後の戦いです。私たちも絶縁剣には手を焼かされてきました。ですが、ようやく終わりを告げることができます。皆さん。どうか無事を祈っています」

 聖奈は、天星剣を夏へと渡す。

「これで私のできることは終わりました。では・・・・・・!?」

 聖奈が天へ帰ろうとした瞬間、突然、絶縁剣を持った皐月が現れた。

 夏は、天星剣を構える。

「皐月!」

「その剣は・・・・・・神が作った剣か」

 聖奈は、真剣な顔で皐月のことを見る。

「絶縁剣。その子の体を返しなさい」

「ふっ、気づいていたのか。さすが天女。だが、目的を果たすために、ここで朽ちるわけにはいかない」

 皐月は、目にも止まらぬ速さで移動して、青菜の前で立つ。

「青菜?」

「え? 何?」

「あなたには随分と助けられたね。ありがとう」

「絶縁剣に感謝される必要はない! 皐月を返して」

「うるさい女だね」

 皐月は、青菜の首を掴んで持ち上げる。青菜は、呼吸がしにくそうで苦しんでもがいている。

「青菜!」

 夏は、皐月に斬りかかろうとしたが、青菜ごと皐月は、瞬間移動をして避ける。

「邪魔をするな」

 皐月は、青菜のことをじっと見つめる。

「青菜。今までありがとう」

「さつ・・・・・・き・・・・・・」

「じゃあね」

 皐月は、絶縁剣で青菜のことを斬った。青菜からは手を離して、青菜自身は意識を失って倒れた。

 夏は、皐月を強く睨む。

「皐月! いや、絶縁剣! 青菜に何をしたんだ!」

「安心してよ。ただ私との縁を斬っただけで、青菜は怪我してないから。単純に、もう二度と私とは会えないし、会話はできないってだけで」

 聖奈は、冷静な顔をする。

「絶縁剣。あなたの目的は、天に帰ることなの?」

「そうさ。天に帰りたい」

「なんのために?」

 皐月は、ニヤリと怖い顔で笑う。

「天への積年の恨みを晴らすためだ」

「積年の恨み? そもそもあなたが法を犯したのが問題でしょう。それで天を恨むなど、情けないとは思わないのですか?」

「思うわけがない。私は天女だ。だから、天がふさわしい」

「もうあなたは金輪際、天にも戻れないし、天女としても復活できない。諦めて人間の世界で反省して、罪を償いなさい」

「黙れ! 私は、私の願いを叶える。絶対にだ!」

 夏は、真剣な顔で皐月のことを見る。

「どんなことをしようと、僕がお前の願いを阻止する」

「お前のような子供にできるのか?」

「やってみせるさ」

「そうか。楽しみにしてるよ」

「ああ」

「金山駅前まで来い。そこで決着をつけよう」

「分かった」

 皐月は、再び瞬間移動をして、消えていってしまった。

 夏は、健太さんへ体を向ける。

「すみません。青菜を頼みます」

「分かった」

 夏は、聖奈へと視線を移す。

「聖奈さん。天星剣、ありがとうございます。思う存分使わせてもらいます」

「託しました。健闘を祈ります」

 聖奈は、たくさんの光の粒となって消えていった。

 夏は、剣を持って部屋を出ようとする。健太は、夏の腕を掴む。

「夏くん」

「どうしました?」

「君にはたくさん辛い思いをさせたり、大変な思いをさせたりしてしまった。すまないと思ってる」

「良いですよ、そんなの。僕はやるべきことや、やりたいことをやっていたに過ぎないのですから。むしろ、色々教えてもらえて助かりました」

「ありがとう」

「・・・・・・では、いってきます」

「いってらっしゃい」

 夏は、健太の家を出て、皐月のいる場所まで向かう。

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