第3話 天女の出現、試練を与えられる。
同窓会当日の十八時。
青葉、皐月、夏は、指定された会場に入って、受付を済ませた。場所は、名古屋市中区にある某ホテルだ。料理はビュッフェ形式になっていて、すでに用意されていた。人はたくさん集まっていて、ガヤガヤしている。誰が誰だかよく分からないくらい、特に女子がしっかりとメイクしてきていた。
「おーい! 夏—!」
男が一人、夏に大きな声を出して近づいてきた。
「友樹か」
「よく来たな・・・・・・?!」
「どうした?」
「おい、どういうことだよ」
「なにが?」
「とぼけんな。なんで皐月と一緒に来てるんだよ。いつどこで再会した? というか、俺に内緒で付き合ったのか?」
「違うよ。えーっと、最近、たまたま駅でばったりあってさ」
「そうなのか。まあ、夏が来てくれたことが嬉しいよ。楽しんでいってくれよ」
「ありがとう。楽しんでく」
「それじゃ、俺は幹事として進行やら段取りがあるからまたな」
「分かった」
「二人も楽しんで」
友樹は、すっとどこかへ行った。その動き方から忙しいのが伝わる。
「あ、皐月ちゃん!」
一人の女子が皐月に近づく。皐月は、気まずそうな顔をしながら笑顔を見せる。
「ひ、久しぶりー」
「久しぶりだね。夏くんと青菜ちゃんも」
夏と青菜は、声に出さずお辞儀をするだけだ。女子は、皐月の目を見る。
「元気してた?」
「う、うん。元気だったよ」
「良かったー! 皐月ちゃんって進路、高校だっけ?」
「そうだよ。ちゃんと高校に通ってる」
「そうなんだー! 私も高校通ってる! まあ、頭悪いところだけどね! どうせ大学は行かないからなんでもいいしー」
「へー、私は大学に行くよ」
「そうなんだ! やっぱり頭良いところ?」
「頭良いか分からないけど、偏差値六十くらいの理系大学を受けるつもりだよ」
「凄いね! 私も頭良かったらなーってそんなこと言っても時間の無駄だよね。大学行きたかったら勉強しろってだけだし」
「まあ、うん」
女の子は、夏と青菜のことを見る。
「二人も進路は大学?」
「僕は大学」
「私も」
「そうなんだー! やっぱり羨ましくなっちゃったなー、大学。指定校推薦とかAO入試で私も大学行っちゃおっかなーなんて」
夏は、苦笑いをする。
「いいんじゃない?」
「夏くんもそう思う? やっぱり優しいなー!」
「そんなこと・・・・・・」
「照れなくていいよー。ありがとう」
「いや僕は何も」
「それじゃあ、三人とも楽しんで! 私はこれから色んな人に話しかけに行くから!」
三人の返答も聞かずに女子は他の人のところへ向かって行く。
皐月は、フーッと息を吐く。
「緊張したー。それであの子は夏の知り合い?」
「え? いや。皐月の知り合いじゃないの?」
「私はあの子のこと知らないよ。青菜?」
「私も知らない。確かに見たことはあるかな程度。仲良くはないし、名前も忘れた」
皐月は、慎重に声を出す。
「そういえばさ、夏」
「どうした? なんか思い出したのか?」
「違う。夏の行く大学はもちろん理系?」
「ごめん、理系じゃない。文系の大学に行こうと思ってる」
「なんで? 夏は、数学が好きだし、得意でしょ?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、なんで? どうして文系の大学に行こうと思ってるの? やりたいことが見つかったとか?」
「そうでもない。ごめんだけど、これに関しては皐月には言いたくない」
「・・・・・・もしかして私が理系の大学に行くから?」
「・・・・・・言いたくないし、関係ない」
「ごめん」
青菜は、気まずそうな目で二人のことを見る。
「そうだ! 皐月?」
「ん?」
「あの女の子、皐月のこと覚えてたね。良かったじゃん」
「う、まあ。私はあの子のことよく知らないけどね」
「それでもさ、友樹とあの女の子に何かしらの共通点を見つけることができそうじゃない?」
「うん。そうだね。でも、えーっと、何かあるかな? 共通点」
夏は、真剣な表情で考えている。
「あ! 両方ともバカとか」
青菜は、呆れた表情をする。
「じゃあ、夏が覚えてるのはおかしいね」
「て、おい。僕は、賢いでしょ。こう見えて国立大学志望なんですけど」
「だったらもうちょい良い感じの案を出してよ」
「良い感じのって言われても」
「んー、両方とも大学に行く気がなかったとか?」
「回答が僕と同等レベルじゃないか」
「そんなことないし」
皐月は、言い合っている二人を見ずに下を向きながら考えている。
「もしかして」
皐月は、顔を上げて青菜のことを見る。
「どうしたの? 何か分かった?」
「うん。多分だけど」
「多分でもいいよ。とりあえず、皐月の仮説を教えて欲しい」
皐月は、ゆっくりと深めに頷く。
「もしかしたら、私との親密度が関係してるのかも」
「親密度?」
「うん。私と青菜って結構仲が良かったんだ。一緒に帰ったり、休日も遊んだり、まさに親友って感じだった」
「ごめん。何一つ覚えてないけど、そうなんだ」
「それで、友樹とさっきの女の子は、元々あんまり仲良くなかったし、ほとんど話したことがなかった」
「確かに言われてみればそうかも。でも、夏はどうなるの? 夏とは仲良かった?」
皐月は、気まずそうな目で夏へ視線をやる。
「仲良かったよ。うん」
「そうだな」
青菜は、不思議そうな顔をする。
「なら、私と同じように忘れてないとおかしくない? 夏は覚えてるんでしょ?」
「まあ、多少ね。皐月と何があったとかそういう出来事は記憶にあるけど、皐月がどういう人物だったかは、見た目も含めて頭にモヤがかかった感じがして思い出せない」
「それでも多少は覚えてるってことだもんね。なんでだろう」
「それは僕にも分からない。だけど、皐月の言ってる仮説が今のところ一番有力な気がする」
「私もそう思う。夏が特例の可能性もあるもんね」
「確かに」
皐月は、周囲を不安そうにキョロキョロする。夏は、皐月の不穏な様子に気づく。
「どうした?」
「みんな、なんかおかしくない」
夏と青菜は、皐月にそう言われて周りを見渡す。夏、皐月、青菜以外色がなく、他全員がモノクロになっている。しかも人だけでなく、背景もだ。加えて、人や物が微動だにしない。まるで時が止まっているかのようだ。
夏は、動揺している目で皐月と青菜のことを見る。
「なんだ、これ」
皐月と青菜は、顔を見合わせる。二人とも不安そうな顔をしている。青菜は、表情とは反対に、冷静な声で話す。
「どう見ても時が止まっている・・・・・・んだよね?」
「何が起こってるんだ?」
「私も分かんない。超常現象的なことに巻き込まれていることは確かだね。しかし、ここまで自分で体感すると、信じざるおえないかもね」
「そんな冷静に言ってる場合じゃないでしょ。早くこの状況から抜け出せる方法を見つけないと」
三人とは、別の足音が鳴り響く。
「その必要はない」
夏たちの前に現れたのは、黒髪ロングの女性だ。右手には緑色の剣を持っていて、さらに皐月と同じ羽衣を身にまとっている。
夏は、怪しむ表情をする。
「誰ですか?」
「私は天女だ」
「天女? 名前は?」
「失礼。私の名前は、奥原華という」
「それでここで何をしてるんですか? もしかしてこの現象を引き起こしてるのは奥原さんだったりします?」
「そうだ。私が原因だ」
「なぜこんなことを?」
「それを君たち、いや皐月以外に話す必要がない」
「じゃあ、なぜ僕たちも動けるようにしてるんですか?」
「この状況は、私としても不本意だ。どうやら、皐月と君たちの縁を完全に断つことができなかったようだな」
「縁を断つ?」
「まあいい。さあ、行こう、皐月。私たちの帰る場所へ」
皐月は、華を見て怯えている。
夏は、守るように皐月の前に立つ。
「帰る場所ってなんですか? 皐月をどこに連れて行く気なんですか!」
「うるさい、人間。邪魔をするな」
「嫌だ」
「そうか。では、仕方ないな」
華は、身につけている羽衣を脱ぐ。
「今からこの羽衣を探してきてもらう。見つけた後はここに持ってきて私に渡せ」
「探すって、範囲は?」
「君たちの生活範囲内だ」
「広すぎないか? きっとかなり時間がかかる」
「そうでもない。実は、羽衣は共鳴し合う。だから、この羽衣の場所は分かるはずだ」
「なら、簡単そうだな。でも、それをさせて何が目的なんだ」
華は、ニヤリと笑みを見せる。
「それを君が知る必要はない」
「なんだと!」
「制限時間は、二時間だ。時間内に見つけてここに戻って来られることを祈っている」
華は、手に持っている羽衣を空中へそっとおくように浮遊させる。その羽衣は、浮かびながら徐々に透明へとなっていき、消えて見えなくなった。
夏は、振り返って皐月と青菜の顔を見る。
「二人とも急ごう」
皐月と青菜は、頷く。
三人は、小走りで同窓会の会場を出る。
会場を出た直後、三人は立ち止まった。
夏は、皐月の羽衣をじっと見る。
「さっきの女の人が羽衣は共鳴し合うって言ってたけど、具体的にはどうなるんだろう?」
皐月は、羽衣に触れる。
「分かんない。私も初耳で、こんな状況になったこともないし」
「そうだよね。どうなるのかが分かれば、簡単なんだけどな」
青菜は、皐月の羽衣に触れて何かを考えている。
「共鳴し合うって、例えば羽衣が光るとかかな?」
「さすが、ラノベばっかり読んでるやつは、そういうのを思いつくのが早いな」
「バカにしないでよ。そういう夏は何か思いついたの?」
「何にも」
「じゃあ、私のことバカにできないよ。案すら出してないんだから」
「ごもっとも」
「夏なんかより、共鳴というのがどういうものかは分からないと、制限時間内に間に合わなさそうだよね」
「っておい。ひどいな」
「はいはい。それで皐月どう? 何か感じたり思いついたりしない?」
「ごめん。何も分かんない」
「そうだよね。無理言ってごめんね」
「大丈夫」
夏は、腕を組んで真剣な顔をする。
「ということは、詰んでるな。二時間じゃ無理だし、かと言って自力で探すにはあまりにも無謀すぎる」
三人は立ち止まって考える。
すると、三人の目の前にフードを被った男が現れた。その男は、このモノクロの世界で色がついている。顔はフードの中で、全く見えない。
男は、皐月の身につけている羽衣を右の人差し指で指す。
「その羽衣を脱いで華と同じことをしろ」
皐月は、不思議そうに羽衣に手をかけて、脱いだ。
「華と同じことってことは、つまりこういうこと?」
皐月は華と同様、羽衣を空中に浮遊させる。男は、首を上に動かしてその羽衣をじっと見ているような様子を見せる。
「これから羽衣同士が共鳴する」
男は、そうボソッと呟いた後、どこかへ歩いて消えていってしまった。
夏は、空中に浮いている羽衣を見ながら慌てる。
「どういうこと? あの男は誰なんだ? 皐月の知り合い?」
「私、あんな人知らない。今日初めて会った」
青菜は、冷静な顔で羽衣を見ている。
「夏。落ち着いて。ほら、羽衣がどこかへ行こうとしてるよ。きっと私たちが探してる羽衣の場所まで案内してくれるんじゃない?」
「本当だ。どこかへ行こうとしてる。まさかこれが羽衣の共鳴なのか?」
「うん。そうみたい」
青菜は、不安そうな顔をしている皐月の手を優しく握る。
「大丈夫? 行こ」
「うん。ありがとう」
三人は、羽衣を追いかけながら必死にどこかへと向かって行く。
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