掌編エッセイ - 探究と観察 -

維枦八(いろはち)

硝子のオブジェ


 思索をしていると、突然視界が開け、構造が見える瞬間がある。そのときに見える構造は、たとえどんなにありふれたものだとしても、とても美しい姿をしていて、僕は恍惚こうこつとしてしまう。その姿は、薄い硝子ガラスに完璧な幾何学模様を描いた芸術作品のようだと、いつも思う。


 けれど、それを思索の世界から持ち出すことは不可能だった。

 

 繊細な硝子のオブジェは、触れるだけで粉々に砕けてしまう。後に残るのは新たな問いだけだ。

 せめて幾何学模様だけでもと、何度もスケッチを試みたが、必ずどこかに歪みが出てしまう。完璧だったはずの模様に矛盾が生まれる。


 それならばと、オブジェをただ観察してみることにした。そして、そのときに自分の中で起きた出来事を言葉にしてみることにした。

 僕は、書き上げたもの――観察の痕跡に“思索のログ”という名前を付けた。

 

 いつか、あの素晴らしいオブジェを誰かと一緒に眺めてみたい。



 

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