第6話 帰還
ハカセの眉間に突き立てた拳銃。
その拳銃の弾丸が発射されることはなかった。
しかし。
ハカセは死んだ。
ホネカワに、噴水のように噴き出す鮮血が降り注ぐ。
「え?」
血の噴水…。
ホネカワが、ハカセの顔に目を向ける。
しかしそこに既に顔はなく…。
ハカセの首から上が、無かった。
「は?」
…僕は、何もしてないぞ?
シュ
ハカセの右腕が、切り落とされ床に落ちる。壁が鮮血に染まる。
シュ
ハカセの左足が、無くなる。丸太のような足が床に転がる。
シュ
ハカセの身体が真横に分断される。
シュ
シュ
シュ
シュ
シュ
シュ
ホネカワの目の前て、ハカセの全てが、切り刻まれる。
すでに幾つに切り分けられたかすら数え切れない。
な、なんだ!
何が起こっている!
「僕は何もしてないぞ!」
混乱するホネカワ。
…まさか、すでに怪物がこの部屋に!
その時、ホネカワは気付いた。
自分の右手を凝視する。
右手が、鋭利な刃物に変貌していた。
は?
左手を見る。
左手も同様に、鋭い刃に変わっている。
その刃はハカセの血液で真紅に染まっている。
なんだこれは?
これが僕の腕なのか?
訳が分からない。
「『僕』は何もしてない…。」
その時だ。
窓の外に、煌めきが見えた。
あれは、エンジンの光だ。
ああ、国の艦が迎えに来たんだ。
予定より随分速かったな。
これで僕は、国に帰れる。
研究を続けられる。
でも、ハカセは、もういないんだな。
死んだ。殺された。
誰に?
『実験生物』に?
いや『僕』に?
僕が…怪物?
「僕が僕を殺した?」
…。
…。
…もうどうでもいい。
ああ。
早く…帰りたい。
総統に…報告…。
はや
直後。
某国宇宙ステーションは、爆散した。同国攻撃艦のミサイルによって。
破壊されたステーションの残骸が、宇宙の虚空に散らばる。
エイリアンと呼ばれた『実験生物』と共に。
エイリアンの犠牲となった数人の亡骸と共に。
『実験生物』の最初の犠牲者である研究主任ホネカワの遺体とともに。
…漆黒の宇宙に塵となった。
~攻撃艦艦長と地球との通信~
はい。例の『事故』が発生した宇宙ステーションは破壊しました。
例の『実験生物』も確実に殲滅できています。
はい。目撃者はおりません。証拠は全て消しました。
実験の中心であった研究主任と担当博士も始末しました。
はい。これは裏切りではなく必要な犠牲だと認識しております。
ええ。ご安心ください。
もちろん。『実験生物』の特性や実践戦闘のデータはすでに本国に転送されています。実験は継続されます。
はい。
Ω星雲σ連星域で捕獲した女王…『クイーン』は我々の手にあります。場所さえあれば『胚』はいくらでも実験に使えます。ご安心ください。
はい!
ありがとうございます。
総統閣下!
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