【怪談】穴を掘る女【北海道釧路市.2019】


 これは五年ほど前、私が実際に体験した常識では計り知れない奇妙な出来事の話なのですが……。


 あ、え、いきなりすぎましたか?


 すいません、こういうお話をする場ってあまりないので、ちょっと気分が上がってしまって(笑)


 えーと、では……ゴホン……改めまして。


 私、普段は北海道の釧路市で生活を営んでおり、去年まで施設警備員の仕事をしていました。


 これは、私がその頃に実際に体験した、気味の悪い出来事のお話です。


 その日は夏の真っ只中で、北国の北海道と言えど昼間は気温30℃を越える猛暑日でした。


 しかし、それでも夜になれば暑さも収まり、夜勤の私が出勤する22時頃には過ごしやすい気温となっていました。


 そこは、釧路市内にある、幾つかのテナントが入った複合ビル。


 日勤の社員から引き継ぎを受け、私は朝方7時までの間ビルの警備に入りました。


 主な業務はビル内の巡回、モニターでの監視、緊急事態の対応や防災機器の点検と、まぁ、そんなところです。


 とはいえ、夜勤警備はほとんど問題なんて起りません。


 結構暇な時間が続くので、どちらかというと眠気との勝負だったりします。


 いつも通り、私は人の営みの消えた静かな世界で、時間が過ぎていくのを待っていました。


 深夜2時くらい。


 定期のビル内巡回に入りました。


 警備室のある二階からまずはエレベーターで五階まで登り、上から下へと見廻りをしていきます。


 監視カメラでモニターチェックもしていましたが、実際に侵入者や不審者の類いがいないか見て回ります。


 防火設備等に不備が無いかも確認しつつ、特に異常も無いまま二階まで完了。


 そのまま一番下の一階に降ります。


 一階には、メインとなるビルそのものの入り口があり、風除室を挟んでエントランス。


 その奥に、60平米程のオフィスフロアがあります。


 ただ、その一室は当時改装工事を行っており、特にテナントも入っていませんでした。


 昼間にやって来る工事業者以外、特に立ち入る人間もいない場所のはずです。


 ……はず、なんです。


 そのオフィスフロアの扉が、少し開いていました。


 まさか、侵入者。


 時間は深夜です。


 こんな場所に金銭を狙って入り込む輩がいるはずありませんので、おそらく酔っ払いか、もしくは浮浪者の可能性があります。


 もしそうなら、トラブルになる可能性も高い。


 私は恐る恐る、扉をゆっくりと開け、室内を懐中電灯で照らします。


 改装中のオフィスフロアは、床板が剥がされ、その下の基礎が剥き出しの状態となっていました。




 ――そこに、一人の女が蹲っていました。




 ええ、服装……白いカーディガンを羽織り、後ろで一つに纏めた長い黒髪から、女だと分かりました。


 蹲っているので顔は見せませんし、年の頃もわかりません。


 その女は、私が懐中電灯で照らしているにもかかわらず、同じ体勢のまま動こうともしません。


 ……いえ、私に反応する事無く、ある行動を取り続けていました。


 剥き出しになった基礎の下――地面を、ガリガリと手で掘り起こしているんです。


 穴を掘っているようでした。


 その異常な光景を前に、私は息をするのも忘れ立ち竦んでしまいました。


 数秒後、ハッと我に返った私は、意を決しその女に声を掛けました。


 あの、どちらさんですか?


 このビルの関係者ですか?


 関係無いようであれば、不法侵入で通報しますよ。


 と、お決まりの文句を投げ掛けます。




 ――ピタリ、と、穴を掘っていた女の手が止まりました。




 女は屈んでいた姿勢からゆっくりと立ち上がり、立ち上がりながら、顔をこちらへと向けて来ました。


 ……あの顔、何て表現したらいいんでしょう。


 目がね、伸びてたんです。


 そう、目が。


 あれ、見たことありますか?


 カタツムリにつく寄生虫。


 ええ、カタツムリを操って、鳥に食わせるように操る……ロイコクロリディウムっていうんですかね。


 この件の後調べたんで合ってると思います……あ、検索する際はご注意下さい、中々グロいんで。


 あの寄生虫に寄生されたカタツムリの触角みたいに、目ん玉が前にニュッて伸びてて。


 その目が、うにょうにょ動いて私の方に……恐らく黒目の名残だと思うんですが……黒色の先端部を私の方に向けて。


 口元は笑っていました。




 ――気付いたら朝になっていました。




 出勤してきた日勤の警備員が、一階エントランスで倒れている私を発見したんです。


 どうやら、気絶しちゃってたようで。


 その後は色々と大変でしたよ。


 何せ、深夜2時から朝方7時まで実質眠りこけて業務を怠ってたのと同じですからね。


 私は事情を説明しましたが、どうにも信じてもらえませんでした。


 ええ、一階の監視カメラにも、私が改装中のオフィスを覗き見て、その直後にぶっ倒れるところまでは映っていましたが、あの謎の女が出て行く姿も、そもそも入ってくるところも映っていませんでしたから。


 下手な言い訳をしてると思われちゃったんでしょうね。


 ビルの管理会社からは苦情を入れられるし……まぁ、そんな感じで色々あって、私、警備員を辞めることになりました。


 あの、謎の女。


 穴を掘っていた、目が飛び出た女は、一体何だったんでしょうね。


 ああ、そうそう。


 その女が残していった、唯一の痕跡があったんです。


 私が見た、女が蹲ってた箇所。


 女が穴を掘っていた箇所は、その後見たら土が被さって埋められていました。


 でも、明らかに穴を掘っていた形跡があったので、掘り返してみたんです。


 そこから……(男性、スマホを取り出し写真ロールを開く)……あ、あったあった、こんなのが出てきたんです。


 木の板を長方形に切って作られた……なんでしょうね、これ。


 それに、墨で文字が書き込まれてて。


 殴り書きしたみたいにグチャグチャで、いまいちよく読めませんが……。


 祝い、に、鳴る? それと……戸、ですかね。


 これはひらがなで、みず……最後が、湖?


『祝鳴戸みず湖』、って読めるような。


 ……ええ、全く意味はわかりませんが。

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