【怪談】ノイズ【千葉県九十九里町.2014】


 ……オチとか特に無いですけど大丈夫ですか?


 ……それでもよければ。


 ……別に、怪談を話したいとかじゃなくて、誰でもいいから聞いて欲しいってだけなので……。


 ……はい、わかりました、じゃあ……。


 えっと、これは約三年前、当時付き合ってた彼女と一緒に車でドライブしてた時の話です。


 俺、普段は千葉県の内陸側にある成田市に住んでるんですが、趣味がドライブなので、よく海側の方に走らせに行くんです。


 その当時乗ってたのは、マツダのロードスターでしたかね。


 太平洋側の海沿いの道を、音楽掛けながら走らせてると最高に気持ち良いんですよ。


 で、その日も彼女と一緒に、九十九里浜を上から下まで一気に走り抜けようって出掛けたんです。


 天気も良くて、季節もちょうど夏と秋の中間くらいで気温もまぁまぁ快適。


 友人の紹介で知り合って、気が合うからそのまま付き合う事になった彼女も、かなりテンション上がってましたね。


 ええ、ただただ楽しかったです。


 その瞬間までは。


 家を出てから海岸沿いを走らせて、途中で昼食や休憩なんかも挟みながら、2~3時間くらい経った頃でしょうか?


 ちょうど、九十九里町に差し掛かった辺りでした。


 彼女と「このまま温泉に入って帰ろうか」「いいねー」なんて話して、笑いながらふと視線を海の方に向けた時でした。


 歩道に立つ、人型のシルエットが目に入ったんです。


 全身真っ赤な男でした。


 笑ってたと思います。


 服とか何も身に付けて無くて、真っ赤な人の形をした何かに見えました。


「え?」って思いましたけど、一瞬で通り過ぎたので確認のしようもありません。


 運転中ですから振り返られないし、バックミラーを見ても注視して探すことなんてできないですし。


「どうしたの?」


 助手席の彼女が問い掛けてきます。


「いや、今――」


 俺は、今し方視界を掠めた不可思議な存在について、口にしようとしました。


 その時。




 ――…ワナベミ…コ。




 車のオーディオから、そんな声が聞こえました。


 その時掛けていたのはFMのラジオ番組で、メール紹介の合間合間に音楽を掛けるっていう、シンプルな番組だったはずです。


 さっきまで聞こえていたラジオパーソナリティとは明らかに違う声で、いや、そのパーソナリティの声に被さるようにして――別の声が、まるでノイズみたいに入り込んで来たんです。




 ――つづいてはラジオネーム、時は金なりさんからのお便り『…ワナ…ミズコ』です。




 ――ゲンさんこんばんは。こんばん『イワナ…ミズ…』も楽しくラジオを拝聴しております。




 ――先日、会社の飲み会に『イワ…ベミズコ』参加したのですが、上司が女性社員にお酌を『イワナベミズコ』たり、新人を集めて仕事『イワナベ』のノウハウの話をしていまし『ナベミズコ』。




 ――今の時代に、まだこんな『イワナベミズコ』事を普通にする『イワナベミズコ』人がいるんですね『イワナベミズコ』。ちょっとこの会社でやって『イワナベミズコ』のが不安になりました。




 ――ああ、わかりま『イワナベミズコ』『イワナベミズコ』そ『イワナベミズコ』『イワナベミズコ』『イワナベミズコ』『イワナベミズコ』『イワナベミズコ』『イワナベミズコ』『イワナベミズコ』『イワナベミズコ』『イワナベミズコ』『イワナベミズコ』『イワナベミズコ』『イワナベミズコ』『イワナベミズコ』『イワナベミズコ』『イワナベミズコ』。




 最終的には、ラジオの音声も塗り潰すようにして、その不気味な声だけが流れるようになりました。


 声の感じですか?


 女なのか、男なのか……あの、よく犯罪とかを取り扱うテレビ番組で、関係者へのインタビューとかで物凄く低く加工された声ってあるじゃないですか。


 くぐもってて、まるで洞穴の奥から聞こえてくるような声。


 あんな感じでした。


「な、何だよこれ……混線?」


 突然のことに混乱し、俺は慌ててラジオを切ろうとしました。


 その瞬間、助手席に座っていた彼女が悲鳴を上げて、パニックになったみたいに暴れ出したんです。


 何なんだ、次から次に。


 俺は何とか彼女を制止しようとしましたが、声が届いていないのか暴れるばかりで。


 車を路肩に止めて、彼女の体を押えながら聞きました。


「どうしたんだよ!」

「赤い人が! 赤い人が窓に貼り付いてる!」


 ……何とか落ち着かせて、詳しい話を聞きました。


 ラジオがノイズ塗れになり始めた時、彼女、助手席側の窓に視線を向けたそうです。


 窓ガラスに両手を付けて、真っ赤な皮膚の男が車の中を覗き込んでたそうです。


 走行中の車の窓に、ピッタリくっついて。


 笑顔で、目も口も真っ黒だったって言ってました。


 ……ええ、その日はもう、それ以上何かって雰囲気でも無くなりまして、二人とも無言のまま家に帰りました。


 ラジオですか?


 いつの間にかノイズは収まってました。


 それから彼女、何だか精神的に参っちゃったのか、どんどんやつれていって、具体的に話し合いもできないまま自然消滅的に別れました。


 風の噂ですけど、美容師の仕事も辞めて……自殺したとか……。


 ……今でも、ドライブはしてるのかって?


 ……そんな事があったから、今ではもう、必要な時以外ではあまり車に乗りたいとも思わなくなりまして。


 ……ええ、趣味を失いました。


 っていうか、色んなものを失いました。


 本当、最悪ですよ。

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