個人勢Vtuberの俺が付き合い始めた女の子が登録者150万人超えの個人勢Vtuberだった。

カラマリ

第1話

「おつありでした〜また今日の夜に横動画をあげるんで良ければそっちの方も見て行ってね〜」

 そういって配信を閉じた。


「さてと…今日の講義の内容まとめとかないと……あ、今日提出のレポートやってない…!やらかした〜」


 家の中で1人で叫んでいる男の子の名前は春江はるえ 晃司こうじ。またの名を秋風 嵐紫。

 そこら辺にいる文系大学生だが、秋風あきかぜ 嵐紫あらしという名前で配信活動を行なっている、いわゆるVtuberってやつだ。

 晃司自体は一人暮らしで、生活費は配信活動とアルバイトでやり繰りしている。


 …登録者はねぇ…まだ全然なんだよな…


 と言っても晃司(嵐紫)は個人勢。そう簡単に登録者が増えるはずもなく、今は1万人くらい。

 …将来は20万人!

 夢は大きく持つべき。

 

 そんな彼の同じ界隈での推しは蒼芽あおのめ海莉かいり。同じVtuberで、登録者は100万人を超えている。彼女はとあるアイドルVtuberグループに所属しており、そのアイドルグループの中でも、歌唱力がずば抜けて上手いと言われている。

 晃司がVtuberとして配信活動を始めたきっかけも彼女らしい。



「やばい、やる気起きない」

 なんせ論文のレポート。

 こんな時間からやるのはめんどくさいっつーの。


 だからと言ってやらないわけにはいかないので、海莉の配信を見ながらやることにした。海莉はほとんど毎日この時間に雑談枠をしている。


「おっ、今日はリリちゃんも一緒なんだ」


 リリちゃんとは、同じアイドルVtuberグループの闇喰やみくい リリスのことである。彼女も登録者70万人くらいだ。晃司は彼女の配信も毎回見ているらしい。


『そういえばリリちゃん推しのVtuberいるとか言ってなかった?』


『あ、そうそう。マジでさ、名前は出せないけどね、とにかく歌声がどストレートにタイプ。推さない理由がない』


『それってここの人?』


『いや、個人勢の方なんだよね』


『へー!リリちゃん以外にもいるよね?そういう人』


『うんうん、あと2人くらい知ってるよそう言う人』


 こんな超有名なアイドルグループのメンバーでさえ推しになる人って相当センスとか魅力があるんだろうな。あと歌唱力も。

 …そう思われるように頑張らないと!


 

 ある日、晃司は1ヶ月前にインスタで知り合った女の子とリアルで会うことになった。


 なんでかは知らないけど「会ってみたい」と言われたので会いに行くことにした。

 当日、晃司は気合いがかなり入っていた。

「えっと…パーカーどこ行った…?」


「ちょっと今日はこの化粧水塗っていこうかな」


「ヘアワックスは棚の中だね」


 え?なんでこんな見た目を気にするかって?

 

 実は晃司は告白するために女の子を呼び出し、その時に見た目のせいでフラれてしまったことがあって、それがトラウマで仕方なく、女の子だけでなく誰とでも会う時には人一倍気にするようになった。

 晃司は身支度を済ませて集合場所に向かう。

 

 女の子と遊びに行くなんて高校生以来だな。なんか懐かしいな。

 

 集合場所は15駅先。かなり遠い。集合時間に間に合うように足速に列車にかけこんだ。



まもなく——片町西です。お乗り換えのご案内です。中央線は———


 晃司は聴いたことのない車内アナウンスを聴きながら座席を立った。そこまで遠くまで来たってことだ。

 電車を降りて急いで改札を出ると、晃司の住んでいる町よりも多くの高いビルがそびえ立っていた。


「すげえ…」の一言しか出なかった。


いや、見惚れてる場合じゃない、早く向かわないと。


 集合場所に急ぐと、そこにはなにやらとても綺麗な2人の女の子が待っていた。見た感じ晃司と同じくらいの歳に見えた。

 晃司が「おーい」と声をかけるとその2人のうち1人の女の子は笑顔で挨拶を返してくれた。


「あなたが“ミミたん“さんですよね?」


「そう!あ、でも今は“しお“って呼んでほしいな」


 彼女の名前は金沢 汐というらしい。晃司は少しだけコミュニケーションを交わした後、汐と一緒にいたもう1人の女の子が気になった。


「この人は誰?」


 その人は汐よりも美人で、見た感じおとなしめの性格だ。髪は長めで、結んでいた。ネイルもカラフルだった。


「ああ、この人は私の友達。黒井くろい 胡夏こなつで、私と同じ学部でサークルも同じなんだ〜。それで、男の人と出かけるって言ったら一緒に来たいって言われてさーそのまま連れてきた」


「こんにちは、黒井 胡夏です…!」


うわ、声めっちゃ可愛い、最高…おっと何でもない。


 さらに聞くと2人は高校からの仲らしい。

いいな、友情って。俺なんかネトゲの仲間しかいないガチ陰キャだしな。

晃司は少しだけ羨ましく思った。


「こなっちゃんも一緒に行っていい?」


「…まぁいいよ」


 そうして晃司は、汐の提案で美人の2人を連れて駅の近くにあるカラオケに行くことにした。カラオケに行くのは、歌ってみた、の曲の練習で1人で行くくらいだったから、彼にとってかなり新鮮だった。

 部屋に着くと、早速汐が晃司(嵐紫)の1番最新の歌ってみたの曲を予約した。

 言い忘れていたが、汐は秋風 嵐紫のメンシプに入って、配信でも毎回スパチャを投げてくれるガチリスナーだ。


「めっちゃ気に入ってるじゃん」


「当たり前。もう15回は聴いたから曲知らなかったけど歌えるようになっちゃった」


昨日の20時に投稿したのに15回…よくそんな聴いてられるな…


そんなやり取りの傍ら、胡夏はよく分からなさそうな顔をしていた。


「汐、胡夏さんが話についていけてない顔してる」


「あぁ〜そういえば言ってなかった。こなっちゃん、この人は個人勢だけどVtuberやってるんだ。私はガチリスナー」


そう言うと胡夏は驚いた顔をして晃司の顔を見た。


「そうなの…?え、すごい」


胡夏の興味を持った顔はとても綺麗だった。


えっ、めっちゃタイプ、自分のものにし…いや何も言ってないぞ俺は。
















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